きゅうり置かれた猫、つまり宇宙猫ならぬきゅうり猫
ようやくあらすじに出てきたキャラクターを一人出せました。会話文楽しすぎて文字数めちゃめちゃ増えてます。楽しいけど難しい。会話文を上手に書ける方々を改めて尊敬します。
ゲームを起動した時のようにパッ、と視界が切り替わる。どうやらどこかの街中らしい。人通りが多いため、恐らく中心部のあたりだと予想する。辺りを見渡すと恐らくNPCであろう人々と、プレイヤーであろう人がたくさんいる。私と同じようにキョロキョロ辺りを見渡している人は当選したばかりの人だろうか。雰囲気的には日本ではなく西洋っぽい感じである。私の貧相な語彙力とお粗末な知識をかき集めて例えるならば多分ヨーロッパ的な感じ、としか言えない。とりあえず日本をイメージした街ではないことだけが確かだ。普段見かけないような装飾やデザインが新鮮で、進学のために上京したばかりの頃を思い出した。
思考を切り替え、何から始めればいいのかわからないので、一旦掲示板を開いてみる。恐らく始めたばかりの人が質問しているものがあるはずなので、それを見てから行動しよう。私には匿名だとしても初めましての人に何かを質問する勇気なんてかけらもない。とりあえずなんかそれっぽい板?と呼ばれるものを探そうと思ったのだが、いかんせん今まで掲示板というものを使ってこなかったために使い方というものがよくわからない。情報を集めるために掲示板を使っているはずなのにその掲示板の利用が覚束ないという悲しみ。さてどうしよう。ゲームを始める前にネットで検索でもするべきだったか、いやでもネタバレとか嫌だったし、ネットの情報とかデマの可能性も十分あるし……等々脳内で誰に向けたものかわからない言い訳を重ねながら途方に暮れていると突然、すみませんと声をかけられた。
めちゃくちゃびっくりした。きゅうりを置かれた猫くらい驚いた。誰が見てもわかるくらいに肩が跳ねたと思う。この場合私は驚いた猫なので、相手はきゅうりになる。きゅうり置かれた猫、つまり宇宙猫ならぬきゅうり猫状態の私に、先程の声の主であるきゅうりさんは言葉を続けた。
「あのー、掲示板の使い方教えましょうか?」
前言撤回。きゅうりじゃなくて救世主だった。その救世主さんは白衣を着て頭にゴーグルを付けた青年で、科学者のような見た目をしていた。両手に変な色の液体が入ったフラスコとか試験管を持ってそうなイメージを勝手に抱く。
「え、いいんですか! 私なんにも差し出せるものないですよ。始めたばっかだからお金も役に立つような能力も持ってないし」
くだらない思考に意識を割きながらも、黙ったままは流石に良くない。先の提案もこっちとしては願ったり叶ったりなので是非ともお願いしたい所である。
「や、なんか見返り求めてるわけじゃないから、大丈夫、です。ただ、俺が始めたばっかの頃のことちょっと思い出して勝手に重ねてるだけだから……」
「だとしてもこっちが助かってることには変わりはないんで、貴方が迷惑じゃないなら教えていただいてもよろしいでしょうか……!」
「もちろん、こっちから言ったことだし。あと、敬語は大丈夫っすよ。堅苦しいの苦手なんで」
そんなやりとりを経て、今は掲示板について彼ーーーミナヅキというらしいーーーにレクチャーしてもらっている。説明を受けてからだと、十数分前の自分はなぜこんな簡単な操作ができなかったのかと疑問に思う。ミナヅキの説明はわかりやすくて、詳しくない事柄でも割とスムーズに話が頭に入ってくる。ついでだから、という枕詞の後で掲示板以外の操作なども教えてくれるのだから、本当に頭が上がらない。
「本っ当にありがとう! ミナヅキがいなかったら今頃、私はただただこの街を徘徊するだけの擬似NPCになってたかもしれない」
「それは言い過ぎだと思うけど、役に立てたなら良かったわ。もしかしたら余計なお世話かもって思ってたし」
説明を受けるうちにだいぶ打ち解けられたと思う。こんなすぐに砕けた口調で会話できる人と出会えるとは思ってなかった。ゲーム内でぼっちになるの可能性も考えてたし、それを含めるとかなりの進捗だろう。初歩的なものから簡単にだけど知っておけば楽になるようなことまで教えてもらって、ゲーム内で話せる人もできた。最後にもう一回ありがとうと伝えて別れようとした時、ミナヅキの口からあ、という声が漏れた。
「イナが嫌じゃなかったらさ、フレンドになってくれない? 俺まだゲーム内のフレンド一人もいないんだよね」
「もちろんいいよ。ていうかここまで丁寧に色々教えてもらった人の頼みを嫌なんて言うわけないでしょ。むしろ私からお願いしたいくらいだし」
「また困ったときのために?」
「それもあるけど、単純に友達が欲しいから」
「そういう感じね?」
揶揄うような声色で少し笑いを含みながら尋ねてくるミナヅキに、私は真面目くさった表情を作って返す。だってしょうがないじゃないか。リアルに友達がいないんだから。いや、ゼロではないけどこんな気安く軽口を言い合えるような関係の友達はいないし。別にできないわけじゃないんだけどね、わざわざ作る必要がないと言うか、そもそもリアルで友達たくさん作りすぎると好きなことにのめり込む時間減りそうだから作ってないだけだし、そもそも大学とかいう勉強するための場で友達たくさん作るって言うのは違うんじゃないかなって、私はそう思ってるから一人でいるだけだし、断じて友達ができないわけではない。長々と語っていると流石にミナヅキに宥められてしまった。
「まあ気持ちはわからなくもないけどね。さっきも言ったけどイナと会うまでフレンド0人だったし」
そう言うことなんですよ皆さん。やっぱ友達100人作るより一緒にいて楽しい人数人の方がいいんだよ。まあ全部私の勝手な持論なんだけども。
それは置いといて、ミナヅキとフレンドにもなれたしようやく解散した。どっかで区切りをつけないと延々と会話が続いてしまうという経験なんて今までなかったので、新鮮な気持ちで私はようやくスタートダッシュを切った。
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