看板娘、情報の価値とスイートボア定食の巻
冬の王都リュミエール。
しんじつ亭の昼下がりは、今日も穏やかに始まっていた。
だがその日は裏通りで、いつもとはちょっと違う「音」が店に届いていた。
――ごつり。と、ベルダ・ロッソの足音。
しんじつ亭に、雑貨屋の女主人が訪れた。
ベルダ・ロッソ(40代)は、豪快に笑いながらカウンターへ向かう。
若い頃冒険者だった彼女は、噂にも詳しく、人々の相談役でもある。
「オヤジ、お疲れさま!今日は何があるんだい?」
オヤジさんはちょっとした手を止め、鍋からスイートボア肉を取り出した。
「今日はスイートボアを焼くぞ。甘み? ああ、肩肉が絶品なんだ」
炭火でじっくり焼かれた肉は、写真映えしそうな琥珀色の照り。
香りだけで胸に広がる、温かい幸福感。
【本日の定食】
スイートボアのロースト肩肉
ワイルドストロベリーとハーブのサラダ
温かい根菜の味噌スープ
ベルダが笑顔で口を開く。
「噂、聞きました?この間、裏路地でちょっとした騒ぎがあったらしいよ」
すると横から、ルルが咄嗟に顔を上げた。
「ベルダさん、なにっ、その他所ではまだ…?!」
ベルダはそっとウィンクして言った。
「……ルル、情報って命なんだよ。命をどう扱うか、そろそろ勉強した方がいい」
ルルは真剣な表情でうなずき、メモ帳に走り書きをする。
オヤジさんはその様子を見ながら、低くつぶやいた。
「情報で人は動く。だが、メシで人は立ち直る――ってな」
ルルはスイートボア肉が焼き上がる音を聞きつつ、自分の視線が定まっていくのを感じた。
ベルダとルルが話し込む様子を、オヤジさんは穏やかに見ていた。
焼き上がった肉とルルの成長の兆しが、しんじつ亭に新しい風を呼んでいた。