武具係の誇りと、肉のチカラの巻
午後の王都リュミエール。
路地裏の定食屋「しんじつ亭」には、今日もいい匂いと、いい音と、いい雰囲気が漂っていた。
「うっす! 今日も腹が鳴るぜぇ!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、ギルドの武具係にして、筋肉と技術の二刀流──グラン・ザンバット!
「……また来たのですか、あなたは」
テーブルでスープをすするイリナ・メルフィが、呆れたように眉をひそめる。
「今日の焼きは特に気合い入ってるって聞いてよ! なぁオヤジ、例のアレ頼むぜ!」
「ほう、腹の準備はできてんだな? ならコレだ」
【本日の定食】
ローストハウンドの香草焼き
香ばしい肉の旨みをギュッと閉じ込めた豪快メイン!噛むたび元気が湧く!
ムーンライトビーンズの滋養スープ
ほんのり甘くて心落ち着く魔法豆。夜勤明けにも最適!
薬草とハーブの香りご飯
胃に優しく、体力もじんわり回復する滋養メシ。
「っしゃあああああっ! これだよこれえええっ!」
グランががっつり拳を握りしめる。
「……本当に単純ですね、あなた」
「筋肉も心も、単純なほうが育つんだよ!」
ルルが料理を運んできて、テーブルに立ちのぼる湯気と香り。
「はい、グランさんの“力の塊セット”でーす!」
「最高かよッ!!」
グランはガッと箸を取ると、まずは香草焼きのハウンド肉にかぶりついた。
「……んぐッッ!? うんめぇぇぇ!! 口ん中で旨みが爆発してるゥ!!」
肉の旨味、香草の香り、焦げ目の香ばしさ――三重奏が筋肉を包む。
「……静かに食べてください」
「いや無理だってこれは!! うま味で脳がバク転してる!!」
イリナもスープを口に運び、ふと目を細めた。
「……ふふ。たしかに、これはいいですね。癒されます」
「だろ〜!? オヤジの料理はな、胃袋から人を鍛えるんだよ!」
「胃袋で鍛えられても、あなたの場合、変わらない気がしますが」
「そこは変われよ! 希望持てよ!」
店内には、今日もどこか騒がしくて温かい空気が流れていた。
「……ふぅ。ま、いっか」
イリナがぼそりと呟いて、もう一口、スープをすする。
グランはというと、皿に残った最後のハーブライスを、名残惜しそうに平らげた。
「は〜っ! オヤジ、やっぱ最高だわ!」
「おう、明日も鍛えてこいよ。力も心もな」
「へいっ!」
笑顔と肉汁と、ちょっとした日常の誇りが、湯気の向こうにあった。