王都リュミエール、しんじつ亭の午後。の巻
王都の路地裏にある定食屋「しんじつ亭」では、今日もカウンターからいい匂いが漂っている。
──そこへ。
「オーッス! 見てろよ、王都! 今日も爆誕、次代の英雄こと俺様、**ガロス・ジェイド**、参☆上っ!」
勢いよく扉が開いて、店内に響き渡る声とともに、筋肉と自信に満ちた若者が登場した。
「……またか」
カウンターの中から、無精ヒゲの店主・オヤジさんが目線だけで反応した。
「おうおう! この槍を見ろよ、この槍! 今日は一段とピカってんだろ!? オヤジさん、俺のこと英雄っぽいって思ったろ!?」
「……派手なだけだ。あと、槍の先、揺れてんぞ」
「えっ──あっ、わっ! あぶぶぶッ!」
──ガタン!
彼の巨大な槍が、勢いあまってテーブルに突き刺さる。
「……お、おう。やっちまった?」
「いつも通りだな。席、座っとけ」
しれっと呟きながら、オヤジさんは何事もなかったように調理に戻る。
「ふぅ〜……ったくよ〜、この前だって討伐ミッションで結果出してきたんだからな! ほんとに、俺、もうすぐAランクだぜ!?」
ガロスがぷくっと頬を膨らませて主張していると、看板娘のルルが水を置きながら小声でボソッ。
「でもFランクのままじゃない?」
「うっ……! そ、それは……これからだよ、これから!」
「はいはい、じゃあまずは、ごはんでしょ」
「そうだな! うぉぉ〜っ!? な、なんだこのメニュー!? グラスフィールドエッグにムーンライトビーンズ!? 名前からして強そうだぞ!」
「うちは、見た目より味と効能重視なんでな」
「効能!? オヤジさん、これ戦闘力上がるのか!? 魔力的なやつ!?」
「……メシだ」
「わかった! それ、ください!」
《本日のおすすめ定食》
グラスフィールドエッグのスタミナ炒め
→ 鶏肉と卵でガッツリ系!バランス栄養ごはん!
ムーンライトビーンズの煮込み
→ 優しい味わいの魔力回復&リラックス副菜!
薬草香るライス
→ 香りで体力回復効果アップ!
やがて、湯気を立てて運ばれてきた定食に、ガロスの目がまん丸になる。
「おおおっ……っな、なんだこの、見た目……まるで、戦うための食事じゃねぇか!」
「いや、普通の定食だ」
ガロスはスプーンを構えると、まずはムーンライトビーンズの煮込みに突撃。
「──っ!? うまっ!? やっべぇ、優しい……魔力が体内で沸いてきてる気がするぅぅ〜!!」
続いて、グラスフィールドエッグの炒め物にがっつく。
「っうおぉぉ……この卵、スタミナ満タンモード突入だ! これ、俺、今日から無敵じゃね?」
「無敵なら、その槍でまずコップくらい割らずに持てるようになってからだな」
「ぐ、ぐぬぬっ……!」
笑いをこらえるルルの向こうで、オヤジさんがふっと目を細めた。
「でもよ……こういう飯、食ってるとさ。俺、もっと強くなれそうな気がしてくるんだよな」
「そうか」
「うん。……ありがとうな、オヤジさん」
「礼なんざいらねぇ。腹、減ってたらまた来い」
「よっしゃー! 明日も来るぞ! 俺、しんじつ亭でパワーアップするからな!」
「……この店、強化施設じゃねぇんだけどな」
とぼけたようにそう言って、オヤジさんはまた、フライパンを握った。
今日も「しんじつ亭」には、どこか憎めない冒険者と、あったかいご飯がある。