出逢えたから
「──なぁヴェイン。お前、本当は“敵”じゃないんだろ?」
ヴェイン達の行動で矛盾がいくつかある。
まずこの状況で俺らが生きている事が1番行動に納得がいかない。殺戮が目的では無さそうだ。
殺すチャンスはいくらでもあった。
そして信用の数値。一瞬翔真と共鳴しそうになったがあの時ヴェインが現れてから俺の数値が一瞬で下がった。
そしてなぜかヴェインは仲間に引き入れようと個人的に動いている所。
気になる点は今のところざっと上げるとこんな感じ。
これで勝負に出たのはちょっと確信がすくないけどそれよりも相手の動揺を測りたかった。それが一番。そしてもし動揺したら2個目の質問の際更に違和感動揺が出やすくなる。
『ふーん。なんで?そう思うわけ?』
「理由は色々あるが先にお前が答えるのが先だ。」
『じゃあ確信ないわけだ。』
「俺の質問答えろよ。」
『うーん。敵とか敵じゃないとかそれ言ったら今後の行動変わるわけ?それなら今から仲間になる訳だから敵じゃないが正しい答えになるのかな?』
ヴェインは前から思っていたが頭の回転が早い。これではらちがあかない。それに1番聞きたいのは…
「なんで俺の大事なものが翔真だとおもうんだ?あの時俺は数値もあがっていなかったはずだ。」
『…』
少し間が空いたあとヴェインは答えた。
『ほほーん。それが聞きたかったんだ。数値の事聞いてくるなんていい質問してくるねぇ。本当に頭が良いね、かけるくんは。でも仲間になりきってない君にはまだ答えられないんだよね。まあでも僕が君のこと一目置いてるって事かな。あとかけるくんにとって翔真くんが大事な事なんて既に調査済みだよ。君の行動見てればすぐ分かるし。かけるくんって意外とわかりやすいよね。まあ僕だけかもしれないけど。』
ヴェインの事だから多少は読まれてると思った。そのうえであえてこの質問をしたんだ。
ヴェインの数値のこと聞いてくるなんて…まだ答えられない。やっぱりだ。ずっと引っかかってた。今もそうだ。数値の事俺が信用していなかったから。この理由で片付けられるのにヴェインはその答えを出してこなかった。
それに、少し間が空いた際一瞬ヴェインが儚げに見えたのは気のせいか…。
これら全てを考えた時ある考えが浮かんでくる。
この機械はもしかしたら信用の数値を測っているのではなく、他の何かを測っているのかもしれない。
もしくは、信用とそのほかの何か。
そしてその何かを今答えたらヴェイン達はこれをきっと不利になるのだろう。
更になんらかの行動で数値が下がることもヴェイン達は知っている…。
どちらにせよ仲間になるしか他選択肢はない。
「はぁ…」
まさか向こうの条件が翔真を出してくるとは思わなかった…。できれば俺一人で全て片付けたかった。
いや、でもまてよ……むしろ都合がいいじゃないか。
俺の監視役ということは裏を返せば俺が何もしない限りは翔真は殺されない。という事だ。
なら……
そんな迷ってる俺にヴェインが口を開く。
『四宮翔真くん。もとは3人家族の一人っ子。小さい時に父親を無くし今は母親と2人。母親は父親が亡くなったのを境に男を作り家には滅多に帰ってこなくなった。そして生活は自分のバイトしたお金でしなければならないのに、翔真君は勉強は出来るものの体力はない。だからバイトのかけ持ちも出来ずいつもギリギリ。頼れる人もいない。そしてドジで周りに迷惑ばかりかけていて唯一友達と呼べるのは君、かける君だけ。そりゃあ執着とも言えるくらいの感情はあるよね。』
なっ…!?
こいつ翔真のことまで…!?
翔真、家の事話したらまたイジメられるからって苦しそうな笑みを浮かべながら俺に言ってくれてたな…
こいつら…!!!!
『彼さちょっとどんなタイプか試させてもらったんだよね。もちろん直接会ってね。』
────────
《翔真くん、この前数値上がった人の中から選別をしていくんだけど、この前の状況からすると……今から君かかける君どっちかを殺さなきゃいけないんだ。どうする?君が選んでいいよ。》
〈なんで僕が…。お前らが決めればいいだろ…。僕はどっちでもいい…。〉
《…あれ?言ってなかったっけ?これ、僕の趣味なんだよね。人の“愛”とか“執着”を弄ぶのってさ。だからそこはやっぱ君が決めてくれきゃ。もっと絶望感じて欲しいしさ♡
もし選べないんだったら、かける君になるけどいい??あの子厄介な存在になりそうだか…》
〈いや、もうあいつの手は借りたくない。僕だ。僕を…殺してくれ…。もう人に迷惑かけたくない…。それにあいつに…かけるに出逢ったから僕は死んだと伝えてくれ。意味無いかもだけど。〉──────
『…ってことがあったの。』
『こういうのって愛は恨みにも変わるし、恨みも愛にかわるじゃん?これってどっち転がっても結局愛情はあるって話。だから四宮翔真くんを僕にくれないかな?こういう君の事信用しちゃう子いたらもう僕達の手には追えなそうだし、念の為。ね?』
その言葉を聞いた時思い出したことがある。
昔、翔真とこんな話をした。
─────《もしさ誰かの為に死ななきゃいけないんだったらかけるは誰の為に命かけれる??》
〈なんだそれ。そんな状況なる可能性の方が低いだろ。〉
《昨日医療ドラマでさ工事現場のクレーン落下してその影響で近くの飲食点が爆発しちゃって大勢が重軽傷を負って救急搬送されたんだ。その中に婚約中のカップルが居たんだけどさ病院に運ばれてきた時、彼氏方が重症で輸血が必要になったんだ。でもその彼氏AB型のRH-だったの。2000人に1人の確率だよ?そう滅多にはいないよね。輸血用の血もその時僅かしかなくて、助かるには到底無理な量だったの。で、どうしようかって時に、軽傷だった彼女が言ったの。私は彼と同じ血液型だって。》
〈そんなの有り得るかよ〉
《まあドラマだからさ。それでね、その彼女軽傷でも少しは身体の負荷はあったと思うのに自分の血液を限界まで使ってくれって。私は死んでもなんでもいいから助けてくれって。結果的には彼女も彼氏も助かりはしたんだけど、彼女はかなりの輸血をしたから運悪く多少の後遺症が残っちゃったんだ。最初は隠してたけど結局は彼氏ににバレちゃって。彼氏はそれはもちろん悔しがった。守りたいものも守れなくて何が彼氏だって。自分が生きてる事に罪悪感をもつ程にまでなってた。そんな時彼女なんて言ったと思う?》
〈んー。私なら生きてるから大丈夫だよ。とか?〉
《その彼女さ、〈大事な人に出逢えたからこそ自分の命は大事にしたいと思ったし、逆にこの人の為だったら私の命使い切っても後悔はしない。って思えたんだ。そう思わせてくれてありがとう〉って。》
〈…っ。〉
《僕さ、それ聞いた時考えたんだ。誰の為だったらこんな事思えるのかなって。浮かんだのは、かけるだった。多分今もこの先もそうだと思う。だからかけるに出逢えたから俺は生きてるし、かけるの為なら潔く死ねるんだよ。》
〈なんだそれ。自分の命を軽んじるな。それに俺らはカップルかよ。〉
《ちがうー!!!そうじゃなくて!!今感動するとこだよ!?》───────
あんなに酷い事したのにほんとあの時と変わんねぇな。翔真。
「まぁいいけど翔真はお前らの支配下に置いても思うように行動してくれないと思うぜ。」
そうだった。翔真はそういうやつだった。どんなに俺がそっけなくしても、かけるかけるって。1日に俺の名前何回呼ぶんだよってくらい話しかけてくれた。
だから……もしかしたら…もう一度会ってちゃんと話すことが許されたなら…
『え?なんで?大丈夫だよ。記憶消すから。』
記憶を……消す?
視界が滲む。いや、違う。目の奥が熱い。計算外の事ばかりで焦りで視界が揺れているだけだ。
そのはずなのに、
翔真の顔が──俺のことを笑いながら「かける!」と呼ぶあの声が──
頭の中で、音もなく崩れていくようで。
「っ……!」
強く唇を噛みしめて、痛みで無理やり思考を引き戻す。
動揺するな…。これでは奴らに俺が壊されたくないものを教えているようじゃないか!
甘かった。俺は……甘かった……!
俺はいつもそうだ。
あぁ…。いつも俺が守りたいものは守れない。何度計算しても、俺はいつも守れない側。
俺って本当に無様だなぁ…。
翔真、俺、お前だけは離したくなかったなぁ…。
俺もお前と出逢えたから…
そんな時翔真の声が過ぎる。
《かけるの為だったら潔く死ねるよ。そう思わせてくれてありがとう。》
そうだった。後悔している場合ではなかった。ありがとう。翔真。
俺の計算が完全に外れたわけじゃない。
それに完全には無理だけど少しは翔真のこと助けられる。
お目付け役なら俺が何かしなければ翔真は殺されない。
ここの本質は変わっていない。
なら…記憶が消されたとして俺の事認識出来なくなったとしてもいい。
俺は俺だけがこの想いを思い出を持ってたらそれでいい。
まぁ…今の俺はそんなことすらする権利ないけどな。
それでも全て計算したなら次俺が取るべき行動は翔真をできる限り守ることと、こいつらの仲間になって少しでも真相を暴くこと。
というよりこれが1番俺がしたい未来に近いんだ。
「笑わせんなよ。そんなんでいいのかよ。いいよ別に。翔真でもなんでもくれてやるよ」
いいよ、お前らの計算している未来。
俺がその場で書き換えてやる。
続く