確信に変わっていくもの
俺はとりあえず教室に帰り、生徒の名簿を見る。
(………!?)
俺は目を疑った。まるで今まで見てきたものが全て嘘だったかのように、亡くなった生徒達の名前が無い。前の月もその前の月も誰一人として存在していない。
名簿は全て手書きではなく半年分コピーで作られている。しかも厳重なセキュリティロックがかかったデータの中にあるはずだ。誰かがこの短時間で亡くなった生徒を認識し変えるなんてこと絶対にありえない。
他にロッカーや机全てを確認する。
「……ない。」
ロッカーには何一つ跡形もなく全てのものが無くなっている。でも机はある…あるのに…中身も全部何も無い。机に書いてた落書きも…。
「…っ。一体…一体どうなってる…!?」
かけるは亡くなった生徒達を思い出し、
その中で話したことのある生徒を浮かべる。
「うちのクラスで居ないのは全部で19人残り6人。挨拶程度の会話は全員としたこどがあるが…しっかりと関わって話したことあるのは……ふ、2人だけ…」
ここで自分の協調性の無さや今まで人付き合いを避けてきた反動がくる。
「かぁーー!!俺って…本当に友達いねぇんだなぁー……。とりあえず!」
気持ちを一旦切り替え俺はカバンをもち校舎を出る。
そうして足早に向かった先はクラスメイトで翔真以外唯一俺が話したことのある2人の生徒の家だった。
ピンポーン
『はい。どなたでしょう?』
「あ…いきなりすみません…。りょ…。いや、志倉高校に通ってる黒木かけるです。少しお話よろしいでしょうか?」
まず初めに文化祭で一緒にクラスの飾り付けをした事がある今屋涼太の家。
名前を言いかけたが、ヴェインの口外するなの言葉がよぎって言うのを辞めた。それに涼太がもうこの世にはいない事を知ったら母親は絶望するだろう。そして俺にはどう対処も責任も取ることも出来ない。
この選択が正しい。
『あ!かけるくん?うんうん!分かった!今ドア開けるね』
そう言って玄関から涼太の母親が出てきた。
「あ、はじめま…」
『もぅー!知ってるよー!参観会の時見たことあるし!作文コンテスト入賞してたでしょ!みてたみてたー!』
そういえばそんな事あったな…。
夏休みに書いた 人の記憶力 について書いた作品が見事コンテストで入賞した。
『ところでこんな時間にどうしたの?なんかあった??』
「いや…その…。」
いきなり来てピンポンしたのはいいものの何も考えていなかった。
変なこと口走ったら恐らく俺も死ぬ。
なんて聞こう…。
『まぁそんなことよりクッキー焼いたけど食べていく??そんな顔されたら放っておけないよ。なんかあったんでしょ?おばさんが聞いてあげる。』
悩んでる俺に声をかけてくれた。
「あ……はい…。」
そう言うと家の中に案内してくれた。
お言葉に甘え家の中に向かう。
ふと玄関に飾ってある写真を見る。
(あれ……?)
違和感に気づきぼーっと写真を眺める。
(これ…家族写真だよな…?)
4人家族とは聞いて居たが3人しか写っていない。写真をじっと見つめているうちに、胸が重くなった。涼太は、きっとここにいたはず…。だが家族写真の中に、彼の顔は無かった。残っているのは謎の余白。隣の七五三の写真にも、妹だけが笑顔で写っている。その隣は…ただの背景。何かがおかしい。
俺は生徒名簿を見た時からずっと嫌な予感がしている。確信に…変えたくない…!
「あの…この写真って…」
しまった!思わず聞いてしまった。まだ何も考えていないのに…!!!
『ん〜?え?なに…この写真』
涼太の母親の顔が曇る。声が震えてるようにも聞こえた。
やばい。もし涼太の事聞かれたらなんて説明しよう。絶対信じて貰えないし、納得出来る説明ができない。
「えっと…あの…」
そう言いかけた瞬間ー
『間違えて背景だけ撮っちゃったかしら。にしても何故飾ったのかしらね。寝ぼけてたのね、きっと。捨てましょうね。』
そう笑いながらゴミ箱に写真立てごと持っていく。
(え…?どういう事だ。たまたま気づかなかっただけなのか、それとも本当に覚えてないだけなのか。いや、覚えてないなんてありえない。家族だぞ。家族が忘れるわけない。)
とりあえず何か手がかりを得ようとかけるは焦りながらも慎重に涼太の家へあがる。
少しずつかけるの思っていたことが確信に変わりつつある。
これを確信したくない…絶対に…。
──涼太が……存在していなかったことなっている……。
続く