現れた『それ』
『──みなさん、今この瞬間から“信じる”ことを禁止します』
何も前ぶれなく発したこの発言に全体はザワついた。
笑い声や困惑。よく見ると教師たちも、教頭までも慌てている。
ほとんどが冗談だろ?という顔をしている。
(なんだ?校長の暴走か?)
『これでよかったかのぉ…』
校長の声が漏れる。その瞬間ー
ピコーン
「数値が100%を感知しました。」
変な機械音と同時に、
なぜか突然校長が変なうめき声を出し始めた。
『うぁあああ!!なぜじゃ!なぜあの御方はッ!!わしは従ったはずじゃろ!!』
生徒たちは一斉に校長を見る。
(何が起こってる…!?)
『申し訳ございません!次は…次は…』
(誰と…会話してるんだ…?)
次の瞬間——
彼の体が、バキバキと音を立てながら歪んでいった。
その音がマイク越しに全体に伝わる。
まるで、見えない糸で無理やり引っ張られるように、骨が折れ、筋肉がねじれる。
悲鳴を上げる彼を見て、誰もが動けなかった。
彼の目からは血が流れ、口からはかすれた声が漏れる。
『やめ……ろ……!! わしは……信用して……ない……っ!!』
そして、「それ」は不意に現れた。
マイクのハウリングが消え、同時に黒い霧が周りを囲み出す。
(くそっ…周りがよくみえない…!!)
そんな中黒い霧の中から人とも影ともつかない「それ」が俺の嫌な鼓動と共に現れた。
時期にわかる…
——この世界を支配する存在。
『詰めが甘かったね。信じたでしょ、あのお方のこと。数値。100%超えちゃったよ?信じることは罪だよ?罰だよ。罰。』
男の人が指を鳴らした瞬間、1部だけ霧が晴れ校長の姿が見える。
そして同時に校長の身体が弾けた。
ただ、無慈悲に、静かに——
校庭は一瞬の沈黙の後、地獄と化した。
生徒たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う。
そして空からバサッと翼のような音が聞こえる。
瞬間咆哮のような奇声音が全体を包む。
みな一斉にその場で耳を塞ぐ。
『いいか。我々は君たちの考えや行動、全てを研究してきた。そのためお前らには逃げ場はない。逃げようという思考が少しでも見えた瞬間迷いなく殺す。分かったならその場で待機しろ。』
(さっきと声が違う…?いや、そんなことはどうでもいい。どうする。運良くここは霧が濃い。足音立てずに逃げるか…?)
『ギャアアアアア!!』
複数の生徒が精神がおかしくなったのか、叫びながら逃げる。
男が指を鳴らす。
逃げようとしたものの身体が爆ぜる。
それを見た生徒が走り出す、爆ぜる…
『はぁ…もう言ったじゃん。やれやれ。』
途中声が聞こえるも、
負の連鎖が起こり全体はパニック状況。
もう既に全体の半数は殺された。
逃げ場はない。瞬間的にそう思わせた。
状況理解した物だけその場に立ち尽くしている。
『さぁて。みんな、今日からこのルールで生きてね。』
(校長を殺した男の声だ)
『忘れちゃうと思うから、君たちのヴァインドにも書いておくね』
(あっつッ…!!!)
!?!!!
気がついた時には遅かった。
体には、腕には装置がはめ込まれていた。
『なんもしないわけないじゃーーん。これからこの装置ヴァインド・リンクっていうんだーー。これで君たちの思考や行動全部管理してるから♡』
そして目の前に画面が現れる。
新しいルールが刻まれていく。
「他者を信用してはいけない。」
「“共鳴”の進行度が100%に達した者は消滅」
「このルールを破った場合、“世界”が裁く」
男の声で声が聞こえる。
『君たちのその腕の数値。
それが共鳴度。
対象の相手を信じてる君の度合いだよ。それを想像してるその相手の喜び、悲しみ、痛みといった感情が自分にも伝わり、互いに強く影響しあう現象だよ。やがてどちらが自分か分からず精神は崩壊。信用してればしてるほど強く影響し合う。数値があがる。』
『片方だけ信用していたなら片方だけ数値が上がっていく。そんなシステムなんだ笑。どう?素晴らしいでしょ?気に入ってくれた?』
男の声が収まったのと同時に隣にいた男の子が震えながら呟く。
『だ、誰か……助けて……』
(誰だ?この状況で…はっ…!)
次の瞬間声の主がわかる。
そして目が合う。合ってしまった。
『かけ…る…?た、助けて…』
翔真だ。すかさず目を逸らそうとするが…
(…っ!!)
その瞬間、俺の体が震え、俺の意識に“何か”が流れ込んできた。
翔真の恐怖、絶望、パニック
——全てが頭の中に流れ込んでくる。
「やばい……俺も“繋がって”しまう……!」
しかし、息を呑んだ俺に、影がゆっくりと微笑んだように見えた。
そして
『あれぇ? 君は信用してないの?この状況で珍しいな…』
少し間が空いた後続けて男の声が聞こえる。
『それなら、もしかしたら君は“特別”なのかも♡
やっぱりあの方が言ってたとおりだ!♡
君だけが、この地獄でまともな精神を保ててるんだよ。もしかしたら最高のおもちゃになるかも♡』
その言葉に、クラスメイトたちが俺を見た。
(な、何を言ってる…?やっぱり…?あのお方…?)
この時俺はまだ全てを甘く見すぎてたんだ。全てを。
続く