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毛虫シリーズ2

毛虫シリーズ第2弾です。

シリーズ1話目「毛虫」からでも、この「毛虫パラレル」からお読みになっても大丈夫です。3作目は月末までにアップします

「きゃー」黄色い歓声、いや悲鳴があがった。5時間目の日本史の授業。そもそもなぜ歓声は黄色?悲鳴も黄色?どうでもいいことを考えながら、黄色の声の方を向くと、ライトグリーンのカーテンの上に何やら虫がとまっている。声の持ち主は両手を組んで祈りを捧げるかのようなポーズを取りながらきゃっきゃと叫んでいる。日本史の教師は「虫は無視しましょう」と何が面白いのかわからないことを面白くもなさそうな顔で言い放った。その虫は遠目からも「蛾」とわかるほどの大きさで、この騒ぎをどうしたものかと考えあぐねているようだった。見かけがグロいから騒がれる?それってルッキズムだよなあとぼんやり考えながら、とにかくせっかくのお昼寝の時間を邪魔されたくなかったので、立ち上がり、カーテンにとまっている蛾を素手で掴んだ。ギャーともグエーとも区別のつかない悲鳴じみたハレーションをBGMに蛾は私のオーバースローに応えるかのように、中庭上空に飛び立った。

 

 私は虫の一生に何の責任もない。そもそもこの世界に一体何種類の虫がいて、全部で何匹いるのだ。もし迷い込んできたのがきれいなアゲハ蝶だったら、ギャーだっただろうか?オペラ好きの日本史の教師は話が大脱線して絶対「蝶々夫人」ネタになったはずだ。蛾だったので、虫殺し、645年は大化の改新などというお決まりの語呂合わせで授業は再スタートした。蝶々夫人はあっても、ガーガー夫人はないんだよなあ、やっぱり人は見かけが10割やなとくだらないことを考えながら家路を急いだ。スズメバチが頭上を通過したので思わず空を見上げると、少し朱色に染まっている。

 家まであと少しのところで、ふと道路の真ん中付近を見ると何やら真っ黒なものがモゾモゾ動いている。遠目からも毛虫だとわかる。道路を横断中のように見えた。それにしてもこのままだと、車や自転車に轢かれてしまうかもしれない。いやいや、いくら蛾を助けたからといって、縁もゆかりもない毛虫を助けようとする意味が自分でもわからない。わからないんだけど、どうしても放っておけない気持ちが自分を包み込んできた。クラス合唱の「この気持ちはなんだろ〜♫」が流れてきた。音楽に合わせ毛虫さんの横にしゃがんでそっと手を添えようとした。

 できない。蛾は掴めたけど毛虫は無理。無数に見える毛にちくって刺されたら腫れる?なんか毒みたいなものピューって吐く?え、どうなん?

 向こうから男の人が歩いてきた。ちらっと視線をあげると、私が何してるのか興味津々という感じ。初老まではいかないイケおじ風。明らかに歩く速度が落ちた。「あー毛虫」、小さな呟きだったが大きな安堵が感じられる声だった。途中自転車が通ったが、私を避けて通ったので毛虫さんは交通事故に合わずに済んだ。ここまで来たら何かの縁。毛虫さんの大冒険を見守ることにした。器用に体をくねらせながら、確実に道路の端に進んで行く。不思議だ。道路を横断するということを知っているのだろうか。偶然なのか。こういうのは本能とは言わないよなあと思いながら、応援した。頑張れ、がんばれ!

 いよいよ溝までやってきた。相変わらず無数の毛は存在していたけど、刺されるわけはないという変な確信。私は躊躇なく毛虫を救いあげ、道端の金木犀の上にそっと手を添えた。毛虫さんはスルスルと葉の上に進んだ。秋を感じる金木犀の香りに引き込まれ、ふと見上げると紺色の空にまん丸いお月様が浮かんでいた。

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