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時間旅行  作者: こてつ
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未来に向いて

 元旦の夕方、スマホの緊急地震速報が静かだった空気が一変した。これからどんな地震が来るのかと緊張し身構えた。足元からきた揺れは次第に大きくなり全身で揺れを感じた時にはどこまで大きくなるのか不安と恐怖を覚えた。部屋を見回すと特に動いたものはなかったが、ぶら下がっているものは揺れながら地震の大きさを伝えていた。しばらくすると揺れは小さくなりおさまっていったが何だか身体はまだ揺れを感じているような気がした。実際、ぶら下がっているものはまだ揺れていたから弱い地震は来ていたのかもしれない。落ち着きを取り戻すと、どこかで大きな地震があったのではないかとテレビをつけた。NHKは地震を速報で報じていた。そして僕は過去の大きな地震を思い出しながら映像で見続けた。

 あれから一週間が過ぎ被害の大きさが次々と分かっていった。避難されている方に少しずつ物質が届いているようだが、地域によって大きな差が出ている。地震によって道路が分断されているせいだ。亡くなられた方や救出された方が報道されている一方でまだ多くの行方不明者がいる。

救助活動や支援活動が続いている。ライフラインが復旧しない中での生活を思うと早く全ての被災者に支援が届くのを願うばかりだ。


-暖かい冬-

事情があって近所の温泉に通っている。2日に一度であるが真夏でないので辛抱はできる。連日報道される能登地震の被災者の生活環境に比べれば何を言っているのだと言われるだろう。犠牲者や被災者、被害をの報道に心が痛み観るのを少し避けるようになった。話しを温泉に戻して、サウナで溢れるほどの汗をかくと露天風呂に寝そべった。その露天風呂は水深が変化していて入口は膝下くらい、中央は腰くらいとなっている。僕は水深の浅いところで寝そべると綺麗な月が目に入ってきた。(ちゃんと見たいな)僕はそう呟いた。近視に乱視、綺麗な月がぼやけて沢山に見える。平日のせいかお客さんも少ない、露天風呂に流れているBGMを聞きながらしばらく夜空を見ていた。同じ月をいろんな人がいろんな場所で見ているのだろうと思った。設置されているテレビから被災地は明日、雪や雨で寒くなるそうだ。しばらくして湯船から出ると季節と合っていない気温に気づく。(温泉で温まったとはいえこの気温はおかしいな)戦争、災害、地球温暖化、そして自然破壊。人類に責任があるもの、そうでないもの。帰りの車、湯上りで窓を全開にすると気持ちいい風が入ってきた。考えてもどうしようもないのかな。


-図書館-

 体調が優れないため布団の中での時間を潰そうと図書館に行った。図書館といっても出先機関の図書館のため本の数も少ない。それでも週末になると多くの人が利用するなくはならない地域の図書館だった。30分以内なら無料の駐車場に車を停めるとマスクを持って降りた。コロナ感染症があってから人混みでマスクを付ける癖がまだ抜けない。ニュースでコロナやインフルエンザが流行していることを知ったせいもあった。車を降りると明日からこの冬最強寒波が来るとのことで冷たい風が頬を叩いて髪を舞い上げる。

 図書館に入ると暖かかさと静けさが読み物の空間へと誘う。二か所で15人くらいが座れる場所は受験生が占拠していた。(受験シーズンだもんな)そう思いながら自分が受験生の頃を思い出していた。久しぶりに小説でもと思い作者別に並んでいる棚をゆっくりと見ながら歩いた。あるある、タイトルを知っていて読んで見たかった本がたくさん。最近はショッピングセンターの本屋で買うのはビジネス書か身体やメンタルヘルスの本ばかりだった。(ゆとりがなかった)生きていくのが精一杯でそのツールとして本を買って読んでいたのかもしれない。

佐藤愛子さん、小川洋子さんの読んでみたかった本を借りることにした。部屋に戻り読み始めると時間があっという間に過ぎていった。学生の頃のようだった。ノスタルジーに包まれて、小説の中に出てくる時代も実感できて、その頃の自分は何をしていたのかと照らし合わせながら読み進んでいった。全部を読み終えることはできなかった。気がつくと外の強風が部屋を叩いていることが分かった。(明日の寒波で大きな災害にならないといいが)僕はそう思いながら本に栞を挟むと眠ることにした。


-2月-

 信じられないほど暖かい朝だった。ただ昨夜、雨が降ったせいで午後からは天気予報でもお馴染み西高東低の冬型の気圧配置になって風が窓を叩く音が聞こえる。新年が始まってから1ヶ月が過ぎた。歳を取ると月日があっと言う間に過ぎるとと言うし自分もそう感じていた。ある番組では毎日に新鮮味がないのが理由らしい。簡単に言うと食べ物にしろ行動にしろ経験したものばかりだからである。

子供の頃は知らない事ばかりで食べ物やイベントにワクワクしていたから時間が進む事がゆっくりと感じたのかもしれない。

でも進学や就職など新天地では何もかも新鮮でも忙しくて一日が早く過ぎた経験もある。

限りある人生、限りある時間をどのように過ごそうか、最近は特におもう。

slow life 忙しくサラリーマン生活を過ぎてから思うことだ。余分なものを削ぎ落とすと自然にslow life になっていくような気がしてきた。


-オリオン座-

 いつからか寒くなると夜空を見上げることが増えた。仕事を終えて外に出るとすぐにオリオン座を探す。同じ時間に見るオリオン座の位置で季節の変化を感じる。立春を過ぎた今日、だいぶ西に移動していた。子供の頃から夜空が好きだった。友達と空き地で寝そべり星座を観察した。その頃はまだ都市部でも人口的な明かりが少なく視力も良かったから星を見ることが楽しくて仕方なかった。時間は過ぎて今でも夜空に惹かれ星空の写真を撮りたいと思うことがある。カメラを用意して、夜空の綺麗な場所に行って…。

毎年、思っているような気がする。思うだけで時間も経済的にもそんな余裕はないことは知っている。

 大人になって得たものも多いが失ったものも多い。満天の星空の中にある悠久の時間と空間を見ていると、たかが1世紀も満たない人生で起きる悩みなど小さいもので考える必要などないような気もしてきた。明日、どうなるかも分からないのにその先のことを考えても仕方がないのかもしれない。そう思って今夜もオリオン座を見て帰路につく。


-受験-

 受験シーズンが始まっている。この1年間の努力が実って欲しいと願う。自分自身に当てはめれば遠い過去であり悪い結果だった。後悔していないと言えば嘘になるだろう。もっと努力して違う結果になれば違った人生になったのかもしれないと思ったこともあった。ただ、人生を線で考えると別の見方ができる。

1日1日や出来事のひとつひとつが点と考えてみてほしい。その点の集まりが線となり人生を作っていく。残念ことに点は思い通りの明るい楽しい点ばかりではない。誰もがひとつひとつの点で悩み苦しみ、暗闇の中でも絶望することだってある。でもそこで思い出して欲しいのはあくまでもひとつの点に過ぎないということだ。受験に限ったことではない。ひとつの点が良くないからと言って次の点も悪いとは限らないのだ。そうやって白黒と碁石のように白が続く時もあれば黒が続く時もある。若い人たちには自分を信じてどんな状況でも次の一手に進んでもらいたい。思い通りの結果や進路でなくてもこの先を信じて努力したならオセロのようにひっくり返した線になるかもしれない。失敗の多い人生を歩んできた僕が言うのだから間違いない!


-焼きそば-

 子供の頃から時々焼きそばを買いに行く店がある。今はいわゆるシャッター商店街になってしまったがその店は残っている数少ない店の1つだ。店の入口には”お好み焼き”と書かれた昔ながらののれんがかかっている。間口は2メートルほどしかない。のれんをくぐってドアを押して店の中に入ると何十年と変わらない店内がある。当然、以前からしか知らない人にしか分からない事である。

 「いらっしゃい」

 ずっと変わらない声のように思える。

 「イカ焼きそばの大盛りをください」

 最近はずっと同じ注文だ。

店の奥には小さな本棚がある。縦横1メートルくらいで少し縦が長いかもしれない。そこには漫画の単行本がいくつか並んでいた。どれも完結するほど揃ってはいなかったがお好み焼きが焼ける時間を潰すには十分だ。子供の頃はお好み焼きを食べながら読んでいた記憶があった。単行本は長い時間のせいで表紙は茶色く変色し、油分を乗せていた。

 ずっと変わらない作り方で焼きそばを焼いてくれる。合い間に最近の天候や商店街の変化について話してくれる。そして時代の変化ということで最後を締めくくる。

 「はい、お待ちどうさま」

 そう言いながら手際よくビニール袋に包んでくれた。

 「ありがとうございます」

 そう答えて僕は代金を支払い外へと出る。

 「ありがとうございました」

 僕の背中から聞こえてきた。お互いに歳を取り雑談の中で体調の話しが増えた。おばさんの体調不良を聞くと母親のように心配になるが当の本人は年齢だから仕方がないと当たり前ように言う。時の流れは自分でも実感しているが、まだまだ美味しい焼きそばを作り続けて欲しい。

 「幸せな休日の昼だ」

 僕はそう言うと缶ビールを開けささやかな休日の昼を楽しんだ。



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