表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞応募作品

金魚に罪はない

作者: 牧村 咲希

「ハイ、乾杯しましょう。素敵な別荘に招いてくれた記念に」

 赤ワインが注がれたグラスを受け取った俺は、レースカーテンのかかった出窓に歩み寄った。

 景色を眺めると見せかけて、ついとグラスを傾けた。出窓に置かれていた水槽に、流し入れたワインが赤く染み広がった。

 ぷかりと金魚が浮き上がってきた。思ったとおりだ。

「毒だな」

 振り返ったとたん、愛梨がギャーと絶叫した。

「なっ、なにしてんのよ! 金魚さん、死んじゃダメっ。待って、すぐ助けてあげるから」

 慌ててすくい上げようとする愛梨の腕をばっと取った。

「もう死んでるよ。お前がワインに混ぜた毒でな。俺を毒殺するつもりだったんだろ、お生憎さま」

「は!? 意味分かんないんだけど!」

 あくまでもしらを切るようだ。逆上してごまかす気か。

「確かにワインに青酸カリを入れたけど! でもそれを確かめるために、金魚を殺すって意味分かんない。頭おかしいんじゃないの? 私があんたを殺したいのは、理由があってのことなの。あんたがミーちゃんをひき逃げしたからよ。この金魚さんが何かした!? してないわよねえ!? ただ水槽の中を気持ちよく泳いでただけよねえ?」

 すごい剣幕でまくしたてられて唖然とした。

 ひき逃げ? なんのことだか分からない。なにか勘違いしているようだ。

「毒入りじゃなくたって、ワインなんか入れたら金魚死ぬかもって、普通思うわよねえ? 生き物虐待よ。ほんっと信じられないわ。鬼畜の所業よ。毒物を確かめるなら、指でペロッとしなさいよ。アガサ・クリスティ読んで出直して来いっての、このへなちょこ探偵気取りが。その前に警察へ突き出してやるけどね!」

 別人のように豹変した恋人は、慌ててスマホを手にした。

「もしもしっ、警察ですか。今すぐ来てください。毒殺です、現行犯です!」

 もうじき駆けつけてくるであろう警察の到着を、俺は大人しく待った。金魚の冥福を祈りながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ