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7話 真白の闇を斬り裂いて

 買い物デートと言っても。

 俺とエリンは恋人同士ではないんだよなぁ、少女勇者とその仲間の剣士でしかないというか。

 だから色恋も何も無い。

 それに、必需品の買い足しや武具の新調とかしてると存外早く時間が過ぎているものだ。


 今日の昼頃には、酒場で待っているだろうガルチラに龍神の瞳を見せてやらなければならない。正確な時間帯は指定していないが、向こうの不況を買わないためにも出来るだけ早い方がいい。


 なので、慌てなくてもいいように、少し早めの時間に食事処で昼食だ。




 武具屋の方で、良質な鉄を使ったショートソードと盾を購入し、エリンは以前まで使っていた銅製の武具を買い取ってもらっている。

 使わない武器は売るなりして、出来るだけ手元に残さない。これ、RPGの常道なり。


「アヤトは買わなくていいの?」


 新しいショートソードの感触を確かめているエリンは、俺が鉄製のロングソードを買わないことに小首を傾げている。

 金をケチりたいわけじゃないぞ、というか所持金なら唸るほどある。


「せっかくエリンに買ってもらった剣だからな。使えなくなるまでは使いたいんだ」


 これはエリンが俺のために少ない所持金を叩いて買ってくれたものだ。

 そう簡単に捨てられるものかよ、壊れて使えなくなったら、鍔の部分を残して御守りにしたいと思っているくらいだ。


「そう?アヤトがそう言うなら……」


 これまでの魔物との戦闘で、銅製のロングソードでも問題なく戦ってきたことを思い返しているのだろう。

 実際、ヌシオチューが相手でも余裕だったしな。




 武具の新調も終えたところで、すこし早めの昼食だ。

 

 混む前に食事処に入れたのでスムーズに席に着く。


「私思ったんだけど……さっきの金塊って、その船に乗せてくれる人に渡すために用意したの?」


 注文を待っている間、エリンは少し訝しげに俺のことを見てきた。


「いや、それはついでだな」


 ふむ、遅かれ早かれだし、エリンには話しておこう。


「実はその人から、船の墓場って場所の奥にある、龍神の瞳って宝玉を取ってこいって言われてな。昨夜、こっそり宿を抜け出してたんだ」


「えっ、そうなの?」


 全然気付かなかった、とエリンは目を丸くする。

 そりゃそうだ、出来るだけ物音立てずに動いて、その上から気配も消していたからな。


「ちょっとした度胸試しだって言ってたし、サクッと取って帰ってきた」


 ほんとはアンデッド系の魔物がうじゃうじゃいたし、誇り高きスカルリザードの戦士と決闘したり、ついでに財宝を拾ったり、


 ……それにしても、あのアリスちゃんは一体何だったんだ?

 時空の歪みを発していたということは、転生者である可能生は高いし……だが分かるとすれば、ただの不思議ちゃん系ではないということだ。


 まぁいいか、また出会ったらその時はその時だ。


「ふーん……それでその龍神の瞳って、今アヤトが持ってるの?」


「あぁ、あるぞ。見てみるか?」


「見せて見せて」


 俺はザックの中の貴重品入れの中から、琥珀色の宝玉を取り出して見せる。


「へぇ……綺麗だけど、なんか怖いね」


「怖い?」


「うん。だってこれ、龍の神様の目玉なんでしょ?どうやってくり抜いたんだろうって思うと、なんか怖そうだなって」


「……本当に龍神の目玉をくり抜いたのか、それと同じくらい綺麗なただの宝玉かは分からないが、そう言われるとあまり持っていたくないな」


 所持者に富と権勢と破滅を与えると言う曰く付きらしいからなぁ、さっさとガルチラに押し付けよう。




 ちょっと早めの昼食を終えたら、昨日も入った酒場へ。

 アルコールと煙草の臭いに、エリンはちょっと気分悪そうだけど、仕方ないから許してほしい。


 やはりこの酒場の一角を占拠している一団――ガルチラと愉快な仲間たちの元へ向かう。


「……本当に来たな」


 ガルチラは腕組みをしながら、俺とエリンを睨む。


「アヤト……」


 怖そうな海賊だと思ったのかエリンは少し不安げだが、「大丈夫だ」と微笑みかけてから一歩前に出て、懐にある龍神の瞳を取り出す。


「ハローこんにちは、キャプテン・ガルチラ。約束通り、龍神の瞳だ」


 ことん、とテーブルに置いてやると、ガルチラはそれを手にとって凝視する。


「……本物だろうな?」


「最奥部の、それらしい台座の上にあったものを取って来ただけだが……逆に訊くが、あなたは本物と偽物の見分けが出来るのか?」


「……、ふん……いいだろう」


 あ、今誤魔化したな?ほんとは本物か偽物か分からないのに、指摘されたからって有耶無耶にしようとしてるな?

 藪をつついて蛇を出したくないから黙っておこう。


「アヤトよ、お前の力は確かに認めたぞ。望み通り、船に乗せてやる」


 ガルチラは席を立つと、宣言する。


「行くぞ、出航の準備だ」


 それに合わせて、周りのクルー達も「応!」と立ち上がる。

 ぞろぞろと酒場を後にしていくクルー達についていくように、俺とエリンも続く。


「な?大丈夫だっただろ」


「う、うん……アヤトって、昨日もあの人達と話をしてたんだでしょ?」


「そうだが?」


「私一人だったら、絶対無理だったと思うから」


「堂々としてれば、意外と侮られないし、話も聞いてくれるぞ?」


 ガルチラは俺の瞳の奥にある"闇"を垣間見たから、即座に龍神の瞳を交渉材料にする方向に切り替えたんだろうけど、エリン一人だったら……いや、やっぱり龍神の瞳を要求したかもしれないな。


 これはメインシナリオで、ここでガルチラの船に乗せてもらうと言う筋書き。


 船に乗せてもらうのはいいとして……そこからどうなるかは、まぁその時になってから考えても遅くはないか。




 ガルチラの海賊船に乗せてもらい、いざ出航。

 俺とエリンは、大砲や弩砲、投石器といった武装が並ぶ甲板のデッキに二人並んで海原を眺めている。

 潮風が心地良い。


「エリンは船に乗るのは初めてか?」


「うん。ちょっと憧れてたんだよね、船に乗るのって。さすがに、初めての船が海賊船になるとは思ってなかったけど……アヤトも初めて?」


「ん、(今世では)初めてだな」


「今、なんか妙に間が空いたように聞こえたけど……」


 それより、とエリンは沖の方を眺める。


「幽霊船……本当に出てくるのかな……」


「その前兆として、急に霧が濃くなる、と」


 俺はガルチラに対するハッタリとして、『魔物を乗せた幽霊船』かもしれない、と言ったが……実際、本当に幽霊船だったらどうするか。

 ただの無人船なら、乗り込みさえすればどうにでもなるが、船そのものが幻影だとすれば……うーん、光属性の魔法で幻ごとふっ飛ばせばなんとかなるかな?


「おーい、お二人さん。キャプテンが呼んでるぞ、船室に来てくれ」


 クルーの一人が呼んできたので、船室へ向かう。




 海図を広げたテーブル席に招かれた俺とエリン。

 そのテーブルを挟んで対面するのはガルチラ。


「間もなく、例の海域に踏み込む」


 その一言に、エリンは気を引き締めるように目を細める。

 俺?あんまり緊張してないから、いつも通りに行くぜ。


「俺達の目的は、幽霊船の存在を確認し、可能ならば突入、内部制圧を行う。恐らく魔物との戦闘になるだろう。お前達にも戦力になってもらうぞ」


「承知した」


「は、はい」


 俺は普段通りに頷き、エリンは緊張に声を上擦らせる。


「あぁそうだ、キャプテン・ガルチラ。ちょっと待っててくれ、すぐに戻る」


「む?」


 一言断ってから部屋を出て、俺とエリンが使わせてもらっている客室に入って、麻袋を手にまたすぐに戻って来る。

 その麻袋を見て、エリンは何か察したのか無言を貫く。


「行きがけの駄賃だ、これを受け取ってほしい」


 麻袋の封を開けて、ガルチラの前にゴトゴトと金塊を転がす。


挿絵(By みてみん)


「なっ……!?」


 これにはさすがのガルチラも面食らったようで、目を見開く。


「おい待て、どういうつもりだ?こんな金塊をポンと出すなど……」


「行きがけの駄賃っていうのは嘘じゃないが、これは"保険"だよ」


 保険?とエリンとガルチラの声が重なる。


「もしも……俺やエリンが船に戻れなくなるようなことがあっても、『迎えに来て欲しい』って"お願い"だよ」


 絶海のど真ん中に置いていかれたら、俺はともかくエリンは助からないだろう。

 だから、保険なんだ。


「俺達がその"お願い"を叶えてやる保証はないぞ?」


 でも、ガルチラ達は保険会社じゃなくて海賊だ、俺達の救出が割に合わなければ即座に切り捨てるだろう。彼も現にそう匂わせるようなことを言っている。


 だからだよ。


「その時には"裏切った"ということで……あなた方を皆殺しにして何もかも奪い取るだけだな」


 後半部分はトーンを落として、静かに脅しかける。


 エリンは怯えて膝を震わせ、ガルチラは眉毛ひとつ動かさないが、その顔には脂汗が滲んでいる。

 ちなみにこれはハッタリじゃないよ、ガルチラ達が本当に裏切るなら即座に実行するつもりだ。

 まぁそうなると、場合によってはエリンを見捨てなければならないから、そうならないことを祈るばかりだ。


「…………良いだろう、多少の無茶は聞いてやる」


 ガルチラは頷きながら、金塊を麻袋に詰め込み直して、自分の手元に引き寄せる。


「だが、全滅覚悟の不退転だけは尻を叩いても出来ん。俺にはクルーを守る義務がある」


「さすがにその時は斬り捨てて構わないし、俺も「裏切った」とは思わないよ」


 尤も、その『裏切ったとは思わない判断基準』は曖昧かついい加減だ、俺の気分次第でアウトラインが乱高下する。

 

 もう一言二言話し合ったところで、ドアノックと共に船員が顔を出してきた。


「キャプテン、霧が濃くなってきました。号令を」


「分かった。対空、対潜迎撃の準備を急げ。狩りの時間だ!」


 ガルチラは立ち上がり、バッと手を振り上げて号令をかける。


「ウス!取り舵20!対空、対潜、迎撃備えー!!」


「とーりかーじ!!」


「迎撃用意!迎撃よーい!!」


 威勢のいい返事と共に、船の各所へ号令が響き渡る。

 いいね、この合戦前の張り詰めた空気感。


「さて、俺も迎撃に加わるとしようか。キャプテン、弓矢はあるか?」


「ん?あるにはあるが、お前は剣士では無いのか?」


「剣士が弓矢を使っちゃならない理由はないだろう?ダメなら攻撃魔法を使うだけだが」


「……弓矢も魔法も使える剣士など初めて聞いたぞ」


「その気になれば槍もボウガンも暗殺拳も使えるよ。弓矢は武器庫にあるな?失敬させてもらう」


 一礼してから俺は船室を後にして、エリンも一歩遅れてついてくる。




 伝令に来たクルーに武器庫を案内してもらい、弓と、矢束の詰まった矢筒を出来るだけたくさん借りて、甲板へ上がる。

 おぉぅ、もう辺りは真っ白だな、まさに濃霧。


 クルー達は弓矢やボウガン、大砲や投石器、弩砲などを忙しなく準備している。


「見えたぞ!幽霊船だ!」


 望遠鏡を覗いていたクルーが、幽霊船の姿を捕捉する。

 ――と、同時に魔物の気配が多数近付いて来るな。


「エリンは無理せず、船に乗り込んで来た奴を迎撃してくれ」


「うん」


 エリンはショートソードを抜いて、濃霧を見渡して警戒する。

 それじゃぁ俺も、迎撃開始だ。


 矢筒から矢を抜き、弦につがえ、


「ほい、ほい、ほいっと」


 射撃、射撃、射撃。


 周りの皆さんは、どこ射ってんだと怒鳴ってくるが、問題ない。

 霧の向こうから、何かが海面に叩き付けられる音。

 当然、俺が射抜き落とした、有翼の魔物だ。


「思ったより数が多いな、四本まとめていくか」


 五指の間に一本ずつ、合計四本の矢を同時につがえて、


「そらよっと!」


 射射射射撃撃撃撃、射射射射撃撃撃撃、射射射射撃撃撃撃。


 一拍おいて、ドボドボドボドボンと魔物が海面に墜落していく音。


「す、すご……四本同時に射つのもすごいけど、見えてもない魔物の位置とか、どうやって分かるの?」


 エリンや周りの皆さんがとんでもないものでも見ているような目をしている。

 どうやって分かるのって?


「魔物の気配とか臭気、あとは大気の流れとかで大体分かるもんだぞ」


「……無理じゃない?」


 エリンの言葉に、周りのクルー達も「うんうん」と同意している。解せぬ。


 っと、空の魔物は片づけたが、"第二波"が来たか。文字通りのな。

 射ち尽くした矢筒をベルトから切り離し、別の矢筒を装着。

 船縁に足を掛けて、


「よっと」


 海面へ向けて一射。

 一拍置いて、矢の刺さった魚系の魔物がプカプカと浮かんでくる。

 続けざまに射撃、射撃、射撃。矢が海へ飛び込んだ端から、船底から攻撃しようとしていた魔物が浮かんでくる。


「水中の魔物まで弓矢で仕留めてやがるぞ……」


「どういう神経してんだ、あいつ……」


「これじゃどっちが魔物なんだか……」


「もうあいつ一人でいんじゃね……」


「バカ、余計なこと言うんじゃねぇ、殺されるぞ……」


 おいこら、聞こえてるぞクルーの皆さん、誰が魔物やねん。


 さて、第二波も粗方片付いたけど、肝心の幽霊船は……


 白濃霧の向こう側、それを切り裂くように現れる、黒い巨影……巨影?


「な、なんだありゃぁ……」


 マストから望遠鏡を覗いていたクルーは困惑している。


「幽霊船じゃねぇ、島?いや、クソデケェ船だ!?」


 クソデケェ船。

 俺も魔力で視力を強化して遠視してみる。




 ……ははぁ、なるほど。これは――"メガフロート"だな。




 古いファンタジーだと思っていたが、メガフロートを建設するくらいの技術は発達しているんだな。

 すると、ガルチラが甲板に登ってきた。


「アヤト、何が見えた?」


「メガフロート……ようするに、作られた島だ。幽霊船どころじゃなかったな」


「島か……接岸は出来そうか?」


 接岸か、多分無理だろうなぁ。


「迂闊に近付いたら船ごと袋叩きに遭うかもな」


「うむ……」


 思案するガルチラ。

 ハイリスクで、リターンはアバウト。


「なに、船で近付くのが良くないのであって、そうでない手段で乗り込めばいいのさ」


「船で近付かずに乗り込むだと?まさか、ここから泳いでいくとでも?」


 バカ言うんじゃありません、濃霧で先も見えないわ、海には魔物がうじゃうじゃいるわ、そんな中で泳いだら死にますよ。


「投石器で突入する」


「は?いや待て。今、なんと言った?」


 おいおい、まだ耳が遠くなるような御歳でもないだろう、言わないと分からないか?




「俺とエリンを投石器で打ち出してくれ、と言ったんだ」




「………………」


「そうだな、あの規模のメガフロートなら……五時間もあれば制圧出来るかな。制圧完了を確認次第、合図を打ち上げる。五時間経っても合図が見えなかったら、"失敗した"と判断して、切り捨ててくれ」


 するとガルチラは、頭痛を訴えるように片手で頭を抱える。


「……トチ狂っているのは知っていたつもりだったが、正気……いや、本気か?」


 正気な奴がこんな作戦を考えるとでも思ってんのか。


「マジと書いて本気と読むくらいには」


 真顔でそう頷いたら、クソデカため息をつかれてしまった。




「あの、アヤト……ほんとにやるの?」


「やるさ、俺は準備万端。あとはエリンの同意次第だ」


「う、わ、分かった……その、こういうの初めてだから、あんまりきつくしないでね……?」


「痛くするつもりはないが、保証は出来ない」


 ……会話だけ聞いてると、これからベッドの上でアンなことやコンなことをスるのかと思われそうだな。


 というわけで。

 さっきの作戦内容をエリンに話して(それを聞いたエリンは顔を真っ青にしていたけど)、同意は得られたので作戦開始だ。


 ・まずは俺がエリンをお姫様抱っこにします。


 ・エリンは俺の背中にしがみつきます。ぎゅっと。


 ・……エリンのちょっと控えめだけど成長期だからこれから大きくなりそうなリンゴサイズのお胸様が俺の胸板に押し付けられるけど、そこは鋼の理性で下半身を抑え込みます。


 ・互いのホールドを確認しあったら、投石器に乗り込みます。


「おいお二人さん!地獄行きの覚悟はいいな!?」


 投石器の準備をしているクルーもヤケクソ気味でハイになっている。


「バッチこーい (死語)!」


「バッチ?まぁいい……そーれ!景気よくぶっ飛ばせーっ!!」


 ・テコの原理を最大限活かして、エリンを乗せた俺を勢いよく投射します!


 ひゃっほーい!投石ジャンプたーのしー!!


「んんんんん〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!!?????」


 エリンは悲鳴を上げそうになりつつも、必死に歯を食いしばっている。

 舌を噛むかもしれないので、翔んでる間はしっかり歯を食いしばるようにと教えてある。

 俺?いつかの異世界転生で、電磁加速砲(レールガン)――亜音速で地表に撃ち込んだらそこら一帯に地震を発生させるくらいの――に投射してもらったことあるからへーきへーき、むしろ楽しいくらいだよ。


 さてさて、楽しんでばっかりじゃいられない、そろそろメガフロートに着陸……っておい、このままじゃ壁に激突するじゃないか。

 仕方ない、ここはちょっと乱暴に着陸しよう。


 エリンをしっかり抱え込んで……喰らえ壁!イナズマキーック!!


 激突するならそのまま蹴り壊しちゃえばいいじゃない、我ながら脳筋だわー。


 大理石の壁を粉砕し、そのまま中へ飛び込む。もちろん破片からエリンを守りながら。


 そして――俺、着地!


「よし、成功だ」


 決まったぜ、ドヤァ。


「ア、ア、アヤト……もう、降りていい……?」


 エリンが震えながら泣きそうな顔で降りていいか訊いてきたので、頷いて下ろしてやる。


「も、もう、もうっ……あんなのっ、嫌だからね……!?」


 泣きながら怒るなんて器用だな。


「俺は楽しかったけどなぁ」


「アヤトは一回お医者様に頭を診てもらった方がいいと思う」


「えー」


 バカは死んでも治らないんだぞ、俺が実証済みだ。


 ……と、口論はそこまでにして。ここはメガフロートのどこだ?


「な、な、なんじゃ貴様らは!?どこから現れおった!?」


 やけに野太いおっさんボイスが聴こえた。

 そこへ振り向くと、一匹の肥え太ったオークがいた。ブクブクのブヨブヨになったお腹の脂肪を揺らしながら驚いている。不摂生な食生活してそうだな。

 それにしても、オークの割りにはやけに偉そうな格好してるなぁ、オークキングかな?


 とりあえず挨拶しておこう。


「ハローこんにちは、オークの王様。俺はアヤト。こっちは勇者のエリンだよ」


「え、えぇと、勇者のエリンです?」


 すると、オークキング (?)は目を見開いた。


「勇者……勇者じゃと!?おのれ、このワシを倒しに来おったか!」


 ん?

 勇者のことを知っている?

 ってことはこいつ、魔王?


「え、もしかして魔王?……こんなのが?」


 エリンは意外そうな顔で、魔王らしきオークを「こんなの」呼ばわりする。

 うん、俺もこんなのが魔王だなんて思ってなかったよ。

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[一言] まさかの人間投石作戦(;'∀') アヤトのような奴にしかできへんわ(;'∀') でもってラスト……え、えええ(;'∀') まさかまさかでまさかのええええ(;'∀') もっとこう、角生えた…
[良い点] 投石器ジャンプだなんて、チートじみたアヤト君ならではの突入方法ですね! 常人ならば大怪我必至でしょうけれど、アヤト君ならばむしろ、エリンちゃんのリンゴサイズのお胸様を押しつけられ、男性とし…
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