68話 異世界ファンタジーにスーパーロボットって正直どうかと思った
後悔していなければ反省もしていない。
エリンを追いかける形でリザ達六人がエコールの町を飛び出した後。
俺とエレオノーラは一度天界に戻り、創造神オリジンの許可と協力を得た上で、次元封鎖の準備を整えていた。
次元封鎖――即ち、その世界の外界とのリンク一切を切断し、転生や転移による"異動"を不可能にしてしまうと言うものだ。
創造神オリジンの絶対的権能の元に行われるそれは、ブロックではなく切断――いかにアリスが強大な力を宿していようとも、リンクそのものが絶たれてしまっては、この世界から出ることは叶わない。
通常であれば本来このようなことはあってはならない前代未聞の事態ではあったが、エレオノーラは創造神オリジンに対して、アリスが異世界転生を司る神々にとってどれほど危険で有害な存在であるかを滾々と説き、次元封鎖の承認を得たのだ。
「首尾は順調のようですね、エレオノーラ」
創造神オリジンの承認を得ることに成功したエレオノーラに、俺は念話で話しかける。
「はい、無事にオリジン様の承認を得られました」
「それは重畳、俺の準備もほぼ整いました。あとは俺と『アイツ』が再突入した後、エレオノーラが次元を封鎖すれば、それで勝ちは決まりです」
「心強い限りです。『彼』にも、私から「協力を感謝する」とお伝えください」
「えぇ、例え姿形は変われども、幾年が経とうとも、"俺"と『アイツ』が交わした魂の誓いと、平和を愛する心は変わりませんから。……それで、状況はどうです?」
状況はどうかと訊ねる俺に、エレオノーラは空間から量子モニターを呼び出して、マイセン王国の王城付近を映し出す。
なおも暴れ回るアリスに対し、ボロボロになりながらも抗うエリン達。
お?エリンが光の翼を顕現した。すごいな。
「どうやら、一刻の猶予も無いようですね……ではアヤトくん」
「はい。っと、その前に……」
俺は懐から二つの護石――勇気の翠玉と、蒼海の護石をエレオノーラに手渡す。
「ヨルムガンド湿地帯の神殿の女神と、水の霊殿の精霊ウィンディーネからいただいた物です。俺が持っているより、エレオノーラが使ってください」
「これは……ふむ、なるほど。これを使い、より確実にアリスを逃さない、ということですね。では、確かに受け取りました」
エレオノーラがそれを受け取るのを確認して。
「――行きます!」
エレオノーラの権限により時空が切り開かれ、俺はそこへ飛び込む。
待っていろみんな、今俺が――往くッ!!
息を吹き返したエリン達だったがしかし、アリスの絶対的な力の前には、それを覆せそうに無かった。
リザも、クロナも、レジーナも、クインズも、ピオンも、ナナミも、己の力という力を使い果たし、動けない。
ただ一人、エリンだけがなおも光の翼とエクスカリバーを強く輝かせ、アリスに抗い続ける。
「わ……たし、が勇……者な、ら、こん……なことく、らいで……負け、ないん……だか、ら……ッ」
勇者の因子を極限まで解放し、なお挫けぬ愛と勇気を輝かせるエリンは、『一世界の一存在』と言う括りの中でならば、間違いなく"刻"に跳梁跋扈する、数多のなろう系最強チート転生者すら遥かに凌駕する、
『最強の中の最強』の勇者だった。
けれど、アリスはそうでは無かった。
アリスはもはや『一世界の一存在』の範疇を超越し、ありとあらゆる"刻"を喰らい尽くした、"力"そのもの――本物の"化け"物。
"ひとつ"と言う"器"の中に留められたエリンと、"力"と言う概念の顕現存在とも言うべきアリスとでは、文字通り"世界が違う"。
エリンに最大999の力があるとすれば、アリスは2000、3000を常時維持出来るようなものだった。
それでもエリンは絶望せず、ただ待ち続けている。
アヤトのことを。
エリンは、極限すら超えた勇者の因子をさらに超えようと集中する。
恐らくは次の一撃を放てば、自分の身体は自壊するかもしれない。
だとしても、みんなを守ることが出来るなら、それも惜しくは無――
「何をしてるんだ、エリン」
とん、と誰かの手が肩に添えられた。
まるであの時――激情のままにマイセン王国の第一王子に剣を抜こうとして、止められた時と同じように。
「………………アヤ、ト……!」
「待たせたな」
蒼翼を広げる彼はいつも通りの落ち着いた微笑を見せる。
ならば、もう安心だ。
みんなのピンチに都合よく俺見参!
なんで都合がいいかって?それは俺がこの場における"正義のヒーロー"だからだ。ヒーローは遅れてやって来るって言うのは絶対に避けられないお約束であることは、既に量子的に証明されている。
「エリンはみんなを助け起こしてくれ。――あとは、俺の仕事だ」
「あ、うん」
エリン以外のみんなは生きているけど、あまりの疲労困憊に動けないようなので、みんなを助け起こすのはエリンに任せると、彼女はふわりと着地して光の翼を消して、倒れた者へ駆け寄っていく。
それを見送ってから、アリスに向き直る。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
ようやく俺が現れたとでも言うように、アリスが狂喜に咆哮し、欠損した部位から漏れ出る怨嗟の焔がさらに激しく燃え上がる。
いや、どこまで魂に無茶させればこうなるんだ?
なんかもう、破滅と言う概念そのものを肉体に取り込んでいるとしか思えん。
「お前は本当に俺のことが嫌いらしいな。別にお前に好かれたいなんてこれっぽっちも思っちゃいないが」
クソデカ溜息をひとつついて。
「見せてやるよ、アリスさん。ただ見境無く"刻"を喰らっただけのお前よりも、平和を愛する"俺達"の方が強いことをな!」
先程から言っているように、この場に立っているのは俺だけではないのだ。
右手を力強く突き上げて、天を仰いで――
「来ぉいッ!ノベラリオォォォォォォォォォォーーーーーン!!!!!」
魂の叫びと共に、パキィンッ、とフィンガースナップを打ち鳴らせば。
虚空を切り裂いて現れる、カラフルなトリコロールで彩られた、白亜の巨人――つまりは、スーパーロボットである!
『オレヲヨンダカ!コータロー!!』
「その通り!あ、今の俺はコータローじゃなくてアヤトだから、その辺よろしく」
ちなみにコータローと言うのは、俺が過去の異世界転生でノベラリオンに乗って、宇宙の極悪帝国『イヤーガラセ帝国』と戦っていた時に名乗っていた名前だ。
『ンン?ナンダカヨクワカンネェガ、リョウカイダゼ、アヤト!カモン!!』
ガシュァンッ、と開かれたコクピットハッチへ飛び込み、フラッシュウイングを消して、その操縦席のシートに背中を預け、一対の操縦桿を握る。
『ヒサシブリダゼ、コノカンカク!』
「俺もだ。さぁ、いつもの"アレ"、いっとくか!」
『オウヨ!』
エリンは、倒れた仲間達を一人ひとり助け起こしては、ヒーリングで回復して回っていた。
皆が皆満身創痍で戦えるような状態ではなかったが、どうにか立ち上がって歩くくらいには回復したところで
「『評価・いいね!で気軽に応援!ブクマにレビューありがとう!誹謗中傷、ダメゼッタイ!みんなでなろう、小説家!』」
アリスに匹敵するほどの鋼鉄の巨人が突如時空を切り開いて現れ、まるで生身の人間のようにグルングルンと躍動している。
「『【灯光翔啜 ノベラリオン】!!』」
グクォィンッ!と目のような二つの光が輝き、
「『予約時刻に、ただいま更新ッ!!!!!』」
ジャキイィィィィィーーーーーンッ!!と力強い構えを見せるその姿に、太陽のような後光が煌めく。
………………
…………
……
「………………もはやどこからツッコめばいいか分からんぞ」
沈黙の後、クインズが最初にそう呟いた。
「またアヤトがとんでもないことやってる」
「アヤトさんなら、いつものことですね」
エリンとリザは既にいつものことだと認識している。
「まぁ、素敵な魔導兵器です♪」
「さすがはアヤト様、なんともありませんね」
クロナはニコニコと手を鳴らし、レジーナは無表情だ。
「ツッコミどころが多過ぎてツッコむ気にもなれないわ……」
「すげー!なんかよく分かんないけどカッケー!」
ピオンはとうとうツッコミを諦め、ナナミは何故かテンションが上がっている。
『聞こえますか、アヤトくん。このクリエイトコードの次元を完全にシャットダウンしました。神々のバックアップは受けられませんが、あなたとノベラリオンなら大丈夫です』
エレオノーラの声が届く。
これでアリスはもう逃げられない、あとは直接倒すだけだ。
「ありがとうございます、エレオノーラ。さぁ行くぜ、ノベラリオン!」
ガシィンッガシィンッガシィンッと力強く地を踏み締めて走り、右拳を握って振りかぶり――
「喰らえ!ロケットパァァァァァンチッ!!」
右手首が切り離され、右拳が蒼炎を上げながらアリスの頭部目掛けて飛んでいく――ロケットパンチだ!
音速の拳がアリスのブタのような鼻先を捉え、殴り潰す。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
鼻先にとてつもない重撃を直撃し、アリスは前脚で鼻を押さえてのたうち回る。
飛び出したロケットパンチは遠隔自動制御で右腕に接続され直す。
『マダマダイクゼェ!』
続けて、ノベラリオンの胴体装甲が観音開きになると、その装甲の内側から、巨大な二門の砲口が覗かせ――
『ブレストバスタァァァァァッ!!』
一対の灼熱の超高エネルギー体――ブレストバスターが照射され、のたうち回るアリスへ放つ!
『イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙……ッ!』
アリスは咄嗟に龍翼で前面を覆い隠して、ブレストバスターを受ける。
あらゆる邪悪を滅する熱光線すら防ぎきってみせたアリスだったが、その翼膜のほとんどが消滅しており、もはや飛行を行えるような状態ではない。
『オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!』
反撃とばかり、アリスは口蓋に黒炎を滾らせ――ここら一帯を焦土にするほどの暗黒の炎ブレスを吐いてくる。
それに対し俺は、ノベラリオンの両腕を顔の前でクロスさせ、暗黒の炎ブレスを受ける。
『エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッ……!?』
自慢の暗黒炎ブレスが効かないとは思わなかったのか、アリスの顔に動揺が見える。
「ふっ、その程度の炎で、このノベラリオンが倒せるものか!」
『カッコツケテルバアイジャネーゾアヤト!ツギガクル!』
ブレスが効かないならばと、アリスはズズンズズンと地を踏み砕きながら迫りくる。
「問題ない!」
俺は操縦桿のウェポンセレクターを開き、左腕の装備を選択すると、ノベラリオンの左翼ウェポンラックのそれが前方へスライドし、左腕に装着されるそれは――巨大なドリルだ!
「穿け!ジャイアントドリルッ!!」
ガァュリィィィィィンッ!!と轟音を上げながら鋼鉄のドリルが猛烈な速度で回転し――振り下ろされるアリスの前脚を捉え、鉤爪を、黒鱗を、龍骨をも粉砕する!
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
右腕を根本から荒々しく粉砕され、アリスは悲鳴のような咆哮を上げて蹈鞴を踏む。
すぐに再生回復を試みようとするアリスだが、それはもう封じさせてもらっている。
「無駄だアリス。既にこの世界は異界とのリンクがシャットダウンしている。お前の自己再生は、異世界からのエネルギーを強引に転用したものに過ぎないからな」
「ヴヴヴヴヴ……ッ!」
悔しげに顔を歪ませるアリス。
さぁ、そろそろ幕引きだ。
「やるぞ、ノベラリオン!!」
『オーライダゼ!!』
左翼ウェポンラックにジャイアントドリルを戻すと、右手を右翼ウェポンラックへ伸ばし――抜き放たれたるは、五つの星を刀身に刻み込まれた長大なる勇者の剣――『五星剣ファイヴスターセイバー』!
「『読み終えたなら、ブラウザバックちょっと待て!もう少しだけ下へスライド、そこに並ぶは白の五つ星!迷わずに行け、クリックorタップ!」』
両手で構えたファイヴスターセイバーに、聖なる光が宿り――五つの星が"蒼く"輝く。
「『ただそれだけで、作者も読者もみんながハッピー!」』
大きく薙ぎ払うように一閃、蒼光を纏う剣閃がアリスの右翼を斬り裂き、
「『ついでにいいね!もしてあげよう!」』
さらにもう一閃、左前脚ごと左翼を消滅させ、
「『次の更新、投稿も、楽しみに待とう!」』
力強くファイヴスターセイバーを構え、纏う蒼光が眩いばかりの黄金色の光へ昇華、集束、加速、莫大なエネルギーを纏う。
人々は見た。
眩いばかりの光が、堕ちたはずの城から生まれるのを。
それはやがて集束し、一振りの斬撃となる。
光の奔流が、暗黒の化身とぶつかる。
衝撃。天は爆ぜる。
光をぶち抜く刻よりも速い、黄金色の昇り龍。
「『異世界刻空流・究極最終奥義――」』
その名は――
「『匠刹華弐成楼!!!!!」』
多方面に放出された神聖エネルギーは、空を覆い尽くしていた闇を吹き飛ばし、瑠璃色の夜明け前を描く。
宇宙をも斬り裂く神聖の斬撃。
それは、斬るべきを斬り、斬らざるを斬らぬ、裁きの閃光。
究極の一撃を放ったノベラリオンは、ファイヴスターセイバーを逆手に構え、仁王立ちと共に剣の切っ先を地面に突き立て、
「『評価とブクマは、必ず勝つ」』
同時に、アリスの巨躯が大爆発を起こす。
空を覆い尽くす闇と、アリスを呑み込んでいた、怒りと憎しみが生み出した顕現体のみを浄化させ、その周りにある草木や川は傷付けない。むしろ、光を浴びたことにより草木は生い茂り、川水は澄み渡る。
これこそが、匠刹華弐成楼の真骨頂。
命を傷付けず、除くべきものだけを除く。
つまり、評価すべきところをきちんと評価し、その上で改善すべきだろう点をオブラートに包んで指摘する、と言うことやな。それが出来る人って想像以上に少ないんだよ。
大爆発の爆煙が晴れたそこには、元々ボロボロになっていたアリスがさらにボロボロになって倒れている。
「ありがとうな、ノベラリオン。だが、もう少しだけ待ってくれ」
『オ?』
俺はノベラリオンのコクピットハッチを開けて、地面に降り立つ。
ふと、倒れているアリスの近くに何かが散らばっている。
琥珀色のガラス玉が割れてしまったような――これはもしや、"龍神の瞳"か?
所持者に富と権勢と、破滅を与えると言う曰く付きの宝玉。
船の墓場のスカルリザードが守っていたものを俺が取ってきて、勇気の証明としてガルチラに手渡したそれが何故こんなところに――
・・・なるほど、だからガルチラ海賊団はアリスに襲われたのか。
ガルチラから龍神の瞳を奪い、それを使って自身の肉体再生をさらに強化しようとしたんだな。
尤も、砕け散ってしまったようなので、もうその力は失われているだろうが。
「アヤト!」
そこへ、互いを支え合いながらも、エリン達が寄り添ってきた。
「もう、戦いは終わったの?」
エリンは俺の顔と、そこに倒れているアリスを見比べる。
もしかしたら、まだ終わらないのではと心配しているようだ。
「あぁ。まだ終わっていないが、これで今度こそ終わらせる。確実にだ」
消しても殺しても削除してもいずれまた怨嗟を響めかせて襲って来るなら、消しも殺しも削除もしなければいいだけだ。
ではどうやってケリを着けるのかと言うと。
「ぅぅ……っ」
ボロボロで今にも息絶えそうなアリス。
だが、ここで死んでもらっては困るので。
「おい、こんなところで死ぬなアリス――『リライズエリキシール』」
もはや助かる見込みのない瀕死状態でも息を吹き返させる、神聖魔法。
リライズエリキシールを受け、アリスが意識を取り戻し――俺の顔を見た瞬間、目が血走り、怒りと憎しみが目元に醜い皺を刻み込む。
「し げ ね こ ……ッ!!」
「まぁ、落ち着けって……」
見せてやるぜ。
お前を完全にオトす、イケメンの所業って奴をな。
「せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ?」
ホストのように、イケボで甘く囁く。
「はっ、はぁっ!?な、何言って……っ!?」
チョッッッッッッッッッッロwww
ちょっと口説かれただけで顔真っ赤になってらwww
続けてそっと右手を伸ばし、アリスの顎に指を絡めて顎クイして。
突然のことに「ほうぁ!?」と妙な叫び声を上げるアリスだが、俺は構わずにその瞳をのぞき込むように目を合わせて。
「……お前、意外と可愛いよな」
ただそれだけを囁く。
果たしてどんな反応が返ってくるか、アリスは――
「ば」
「ば?」
「ばたんきゅ〜〜〜〜〜」
という小さな悲鳴を漏らしながら、湯気噴いて白目剥いてぶっ倒れた。
「…………いくらなんぼでも初心すぎない?」
流石にこれは予想外だったわ。免疫ゼロどころかマイナスに極振りしてるだろ。
いや、あのね?アリスを口説きオトして気を許させたところで『おやすみのキス』で眠らせるつもりだったんだけど、なんか勝手に気絶しちゃったよ……
「あんなエロい顔とエロい声で迫られて、あぁならない女の子はいないと思うけど」
ナナミは呆れたように言っているが、君も顔真っ赤だぞ?
「本能的に女の子を墜とす手管が冴え渡っているのよね、さすがはフローリアンの英雄」
ピオンからはなんかすっげぇ不本意なことを言われる。そんな手管を冴え渡らせた覚えは無いんだが!?
「アヤト、あとで私にもやってね」
「わたしもお願いします」
エリンとリザまで。
「君らな。……まぁいい、気絶したならそれはそれでいい、むしろ手間が省けた」
なら――最後の仕上げと行こうか。




