67話 愛、勇気 いざ輝け
エリンの輝く右手の一撃によって殴り飛ばされたアリスだが、後ろ脚を踏ん張って耐えてみせた。
「エリンちゃん!エリンちゃんなのね!?」
「遅くなってごめんなさい、院長先生。でも、今はちょっとそれどころじゃないから……早く逃げて」
院長が女の子を抱えてこの場から離れていくのを見送ってから、エリンは黒龍――アリスへ向き直る。
「えーっと、んーと……さ、『さぁかかって来やがれ、マジキチヤンツンメンヘラトレパクネットストーカー女。この勇者エリンがてめーをめいど……』……えっと、なんだっけ?てめーをメイドさんにしてやるぜ。で、合ってたっけ?」
アヤトが腐れ外道に中指おっ立てて喧嘩を売る時の台詞を真似してみたつもりだったが、途中から何を言っているのかよく分からなくなってしまった。
――今ここにアヤトがいたら、「いや、さすがにアレをメイドさんにするのはちょっと勘弁して」と冷静に切り返されただろう。
「まぁいっか」
「グヴヴヴヴヴ!!」
横合いから思い切り殴り飛ばしてきたエリンに、アリスは唸りを上げる。
「今、孤児院のみんなを傷付けようとしたよね。っていうか、あなたのせいで怪我しちゃった子もいるし……うん、もういいや」
輝く右手でエクスカリバーを抜き放ち、その溢れんばかりの魔力が刀身に流し込まれ、激しい光を放つ。
「私はあなたを殺す」
エリンはアリスを射貫くように見ていた。
この女――もはや女ですら無いが――アリスは危険だと、エリンは判断している。
単なる力だけではない、執拗極まりない凶暴性と、怨念になって肉体を奪い取り再生する生き汚さ。
今ここで取り逃がせば、また別の異世界を喰らいつくし、力を蓄え再び自分たちの前に立ちはだかってくると、そう確信していた。
いい加減ここで、アヤトを巻き込んだこの因縁は断ち切っておかなければならない。
本人は気づいていないが、エリンは恐らく初めて『自発的に』殺意を抱いていた。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
エリンの殺意を受けたアリスは瞬時にエリンを敵だと即断し、どす黒い火炎放射を吐き出して焼き払おうとする。
それに対してエリンは避けることもなく、黒炎に向かってエクスカリバーを振るい――黒炎を真っ二つに斬り裂いた。
文字通り切り開いた道を駆け抜け、
「はあぁッ!!」
大跳躍からのジャンプ斬り――それでもアリスの膝下辺りまでしか届かないが、エリンの右手の光を纏ったエクスカリバーの一撃は、黒鱗を斬り裂き、光で浄化してみせる。
煩わしく思ったか、アリスはエリンを踏み潰そうとズガンズガンと地を足踏みするが、エリンは踏み鳴らされる脚を躱しながらも、エクスカリバーで斬りつけて反撃する。
「脚しか当たらない……」
しかし、相手が巨大すぎることに大きな問題があった。
急所である首の可動域や胸膜、目玉を狙いところだが、その位置はあまりにも高過ぎる。
アリスの膝を踏み台にしてジャンプしても、届いて腹下までが限界だ。
そも相手は大暴れに暴れまくっているのだ、そんな悠長なことをしている余裕はない。
地道な持久戦だが、脚を狙い続けて弱るまで粘るしかないか。
長期戦を覚悟するエリン。
不意に、横合いから一矢放たれ――アリスの首の黒鱗に突き刺さった。
「一人で突っ走るんじゃないわよ、エリン!」
そこへ現れたのは、二の矢をつがえるピオンと、
「全く、勇者なら勇者らしく、仲間と共に力を合わせて戦うべきだろう!」
抜き放ち様にトゥーハンドソードを振るって、アリスの脚の黒鱗を斬り飛ばすクインズ。
「あ、えっと……ごめんなさい、いてもたってもいられなくなっちゃって……」
クインズとピオンに謝りながらも、エクスカリバーを振るう手は止めないエリン。
すると足元に纏わりつかれて業を煮やしたか、アリスは一度ムカデのような龍尾を地面に叩きつけると、ブゥンッと勢いよく薙ぎ払ってきた。
エリンは盾で、クインズはトゥーハンドソードでそれぞれ防御するが、大型飛竜そのものが体当たりをしてきたかのような一撃は二人を容易く吹き飛ばし――しかしアヤトとの鍛錬の甲斐あってすぐに受け身を取ってみせる。
「――『迅雷』ッ!」
間合いを取っていたピオンは、稲妻を纏わせた矢を放ち、アリスの右翼膜を貫く。
さらに、
「――タケミカズチ!」
「ミサイル発射!」
アリスの真上から魔法陣が顕現――直後に爆雷が叩き込まれ、間髪入れずにロケット弾が放たれ、炸裂する。
ピオンとクインズに続いてやって来た、リザとナナミによる攻撃だ。
「エリンさん、ご無理は禁物ですよ――ヒール!」
「我らの絆、今こそあの邪悪なるモノに見せつける時です」
さらに後から現れたクロナはエリンと、続いてクインズにもヒールを与え、レジーナも懐から鎖鎌を抜き放つ。
「あれ?アヤトとエレオノーラさんは?」
「アヤト様は"切り札"を用意し、エレオノーラ様はあのアリスがここから逃げられないように時空を封鎖する、とのことです」
その二人の姿が見えない、とエリンは小首を傾げ、レジーナがすぐに理由を答える。
エリン、ピオン、クインズ、リザ、ナナミ、クロナ、レジーナ。
アヤトの七人の婚約者達が揃う。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
対するアリスは咆哮を上げ、それそのものが衝撃波となって、周囲を吹き飛ばす。
欠損した部位から漏れ出る闇の炎がさらに燃え上がるそれは、悪鬼そのものだ。
「――オフェンスドシャープ!」
クロナが放つ攻撃強化の広域魔法が、七人全員に届き渡る。
と同時にエリンは地面を蹴り上げて一気にアリスの足元近くまで接近してジャンプ斬り、そのままアリスの脚先を踏み台にして斬り上げながら飛び上がり、
「やあぁッ!!」
落下と共にエクスカリバーを肥大化した腹部に叩き込み、深々と斬り裂く。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
腹下に纏わりつくエリンを吹き飛ばそうと前脚で薙ぎ払うアリスだが、エリンは素早く飛び下がって前脚の一撃を躱し、
「――『瀑布』!」
ピオンから放たれた水属性を纏った矢が、エリンが斬りつけた部位へ突き刺さり、水流が傷口を押し広げる。
そこへ、飛び下がったエリンと入れ替わるようにクインズが躍りかかり、
「せぇいッ!」
龍尾の付け根辺りにトゥーハンドソードを振り下ろすが、刺々しい甲殻は相当に頑強らしく、鍛え抜かれた業物とクインズの力量が組み合わさった重撃すら、甲殻の表面を砕くだけだった。
「硬いか……!」
岩にトゥーハンドソードを叩き付けたような不快な反動に歯噛みするクインズ。
しかし、『甲殻は堅い』と言う情報は着実に他の仲間にも伝達される。
「さすれば、これならどうです!」
クインズとは反対サイドからアリスの足元へ接近するレジーナは、鎖鎌の湾曲した形状を活かし、甲殻や黒鱗の内側の皮膜を引き裂くように打ち込み、
「――チェインド・ドレイン!」
鎖鎌を通じて、アリスの生命力を内側から奪い取っていく。
「ヴヴヴヴヴ!」
左右から攻め立てられ――レジーナの方が煩わしいと思ったか、アリスはその場で後ろ脚を振り上げ、地面に叩き付け、震動による衝撃波をレジーナにぶつける。
「かはっ……ぁぐっ」
衝撃波をまともに受けたレジーナは吹き飛ばされ、半壊した建物に背中から叩きつけられ、力無く倒れてしまう。
「レジーナッ!?」
クロナが慌ててレジーナを助け起こそうと向かうが、そこへ追い撃ちをかけるように、アリスは口蓋に黒炎を揺らめかせ――
「みんな目を閉じて!喰らえ閃光、どりゃーっ!」
レジーナに向けて火球が吐き出される寸前、ナナミはこぶし大の玉をアリスの眼前へ投げ付け――ポンッと言う破裂音と共に、眩いフラッシュを放った。
「エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙!?」
突然のフラッシュに魔眼を灼かれ、アリスは蹈鞴を踏みながら、吐き出す寸前だった火球は明後日の方向へ放たれる。
「ナナミ、今のは?」
腕で目を覆っていたピオンは、一体何を投げつけたのかとナナミに訊ねると。
「前世でやってたゲームのアイテムを実体化したの。効くかどうかは分からなかったけど、結果オーライってことで!」
「前世の、げぇむ……?まぁいいわ、目が眩んでいる今のうちに攻めるわよ!」
「おー!」
ピオンは翼膜を集中的に狙って矢を放ち、ナナミは続けて稲妻を実体化させてアリスへ炸裂させ、
「――フリーズハンマー!」
その上からリザのフリーズハンマーがアリスの脳天へ叩き込まれていく。
ナナミが放った閃光攻撃が時間を稼ぎ、クロナはレジーナを助け起こす。
「しっかりしなさいレジーナ――キュア!」
「んっ……申し訳ありません姉上、ありがとうございます」
クロナの法術を受けて、レジーナは戦線復帰する。
ピオンの矢、ナナミの実体化、リザの攻撃魔法による波状攻撃に合わせるように、エリンとクインズも再びアリスへ肉迫する。
エリンによって救われた院長と子ども達は、どうにか避難者が集まっている地点まで避難することが出来た。
遥か遠くでは黒龍の巨躯が小さく見え、その周囲に大小様々な光や爆発が飛び交う。
救世の勇者とその仲間達が、死力を尽くして黒龍を討とうとしているのだ。
「せんせー、いまのゆうしゃさまって、エリンおねぇちゃんでしょ?」
子ども達の一人が、院長にそう訊ねた。
彼ら彼女らも、エリンが15歳の誕生日を迎えたその日に神託を受け、勇者に選ばれたことは知っていたし、魔王討伐の旅に出る彼女を見送ったこともある。
「そうよ。みんなのお姉ちゃんの、エリンちゃんよ」
「そうだよね!せかいのききに、エリンおねぇちゃんがきてくれたんだ!」
「すげー!エリンおねぇちゃんすっげー!」
子ども達は無邪気に勇者エリンを讃えはしゃぐのを微笑ましく見守っている院長。
「(エリンちゃんが、反逆罪で王国から追われていると聞かされた時は驚いたけど……)」
勇者エリンは反逆罪を犯した――厳密に言えば、アヤトが国王の顔面にドロップキックをぶちかまし、城壁を粉砕して国外逃亡した――と言う罪状を理由に、孤児院に憲兵が押しかけて来た時は、眉に唾をつけたものだ。
あの純朴で優しいエリンが、例え理由があったとしても無闇に人を傷つけるような娘ではない、何かの間違いではないかと。
結果としては、エリンとその仲間は犯罪者の烙印を押されたまま行方不明になっていたが……
しかし、エリンは帰ってきた。
あれほど巨大で禍々しい黒龍を前にしても一歩も退かないその姿は、まさしく子ども達に読み聞かせている冒険譚の"勇者"だった。
やはり神託によって勇者に選ばれたことに間違いは無かった――間違いであってほしかった気持ちもあった――。
「さぁみんな、神様にお祈りをしましょうね。勇者エリンに、神のご加護がありますようにと」
はーい、と素直に返事をして、両手を組んで黙祷していく子ども達の中心になって。
「(神よ、どうか勇者を、エリンちゃんをお守護りください)」
戦いが始まって、ゆうに三時間は過ぎただろうか。
弱る気配すら無く平然と暴れ回るアリスを前に、エリン達は消耗するに連れて押されつつあった。
エリンやクインズの斬撃も、リザやピオン、ナナミの遠隔攻撃も受けた端から再生され、クロナとレジーナが懸命に回復や援護を行っても追い付かない。
アヤトとの模擬戦に比べれば遥かに楽……と、言いたいところではあるが、アヤトが模擬戦を行う際は、必ず休憩時間を定めていた。
相手は明確な殺意を持ち、何かの気まぐれで攻撃を喰らえばそれだけで即死に繋がるような攻撃力を持つのだ、それら恐るべき攻撃を休むこと無く長時間捌き続けている、ここ数時間のエリン達七人の集中力と反射神経は尋常ではない。
しかし、アリスの膂力と再生力は、彼女らの獅子奮迅を嘲笑う。
アリスが吐き出す黒炎の火球、エリンはこれを躱そうとして、
「ッ」
自分のすぐ後ろに、法術を詠唱しているクロナの存在を思い出し、咄嗟に盾で受け――火球の炸裂衝撃は凄まじく、盾ごとエリンを木っ端のように吹き飛ばしてしまう。
「うあぁっ……!」
左腕の激痛と、火傷するような熱に、エリンは受け身も取れずに地面を何度もバウンドするように転がってしまう。
「――アースクェイク!」
レジーナの重力属性魔法がアリスの足元を揺るがすが、僅かに挙動が乱れた程度の効果しかなく――次の瞬間にはアリスは龍翼を羽ばたき、その烈風がレジーナへ襲いかかる。
「あぁぁぁぁぁ……ッ!?」
烈風が刃そのものとなってレジーナの身体を斬り刻み、吹き飛ばす。
「ゼェッ、ハァッ、ハァッ……クッ、これではキリがない……っ」
続けて薙ぎ払われるアリスの龍尾をトゥーハンドソードで受けて吹き飛ばされ、受け身を取って立ち上がろうとしたクインズだが、度重なる肉体の損傷と体力の限界にとうとう膝を着いてしまう。
肩で呼吸を繰り返すその顔は疲労の色が濃く、もはやクインズは動けそうにない。
「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!」
アリスは黒炎の火球を吐き出し、どす黒い炎の塊がピオンに襲いかかる。
ピオンは身を翻して火球を躱し――あまりの熱量に、掠めてもいないにも関わらず左腕の肌が焼け爛れ、革のガードの表面が溶ける。
「あっつ……ッ!」
痕が残ったらどうしてくれんのよ、と言いかけたピオンだが、火球は彼女のすぐ後ろには半壊していた城壁があり、それに火球が炸裂すれば――崩れた城壁が瓦礫となってピオンに襲い掛かった。
「えっ、うそっ、きゃぁぁぁぁぁ……!?」
「ピオンちゃん……っ!?」
瓦礫がピオンに降り注ぎ生き埋めにされていくのを見てしまったナナミだが、彼女も疲労困憊に疲労困憊を重ねており、しかもアリスがすぐにでも襲いかかってくるので、助けようにも助けに行けない。
「わたしが……!」
リザがそれに気付き、率先してピオンを助けに行こうとするが、その足取りは重く――それがアリスの魔眼に止まり、足元にあった瓦礫を前脚で掴むと、リザ目掛けて投げつけた。
「え……!?」
疲労が反応を鈍らせ、リザが気が付いた時には、視界一杯に瓦礫が広がっており――咄嗟にフォースフィールドで防ごうとするものの激突、突き飛ばされてしまった。
「リザちゃんまで……よっくもぉっ!」
受け身すら取れずに地面に叩きつけられるリザを見て、ナナミは魔筆を手にアリスに駆け寄りながらも振るい、いくつもの星型弾を描くと――
「これが私のありったけ――『スターダストレイン』!!」
何十もの星型弾が一斉に放たれ、アリスの巨躯へ殺到する。
着弾と炸裂が無数に行われ――しかし戦艦の砲弾すらまともに効かない相手には、焼け石に水も同然だった。
「………………は」
こんなの、ムリ。
ナナミの顔が絶望で半笑いになり、それを見たアリスはニチャァと嗤う。
「――ヒール!――ヒール!――ヒール!……はぁっ、はぁっ、諦めてはダメですよ、ナナミさん……っ」
クロナは倒れた仲間達に懸命に法術を放っているが、回復量やペースが全く追いついていない。
「いや、でも、どうすんの、こんなの……?」
打開策が見当たらない。
攻撃しても攻撃しても端から再生されてしまい、それを上回るペースの攻撃も追い付かない。
「そんなの……決まってるでしょ……」
そこへ、盾を捨てて足を引きずるように立ち上がるエリン。
「アヤトが来るまでの間、あれを止めるの……!」
「いや、それはそうだけど……」
それをするにはどうすればいいか分からないんだけど、とナナミのぼやきを無視して。
「こう言う時、アヤトなら……うーんと、うーんと……こう、するッ!」
するとエリンの身体に魔力光が集まると、
彼女の桃色のマントを突き破り、その下から桃色に輝く"光の翼"が顕現した。
「あっ、マント破けちゃった!?ど、どうしよう、せっかく院長先生に仕立ててもらったのに……」
「いや、そこ!?今それ気にすることかなぁ!?」
せっかくのマントを台無しにしてしまったことを後悔するエリンに、ツッコミどころが違うとツッコむナナミ。
「エリンさん、一体何を……?」
辛うじて冷静さを保っていたクロナは、突然エリンの背中から、アヤトのフラッシュウイングに似た光の翼を顕現させたことに驚いている。
「えーっと、アヤトの光る羽根を真似出来るかなって思ったんです。ぶっつけ本番だけど、やってみます」
エクスカリバーを両手に握り――翔び上がる。
光の翼を雄々しく広げれば、魔力光の余剰光子が羽根のように舞い上がる。
エリンの光の翼の輝きに、アリスが再び向き直る。
「エクスカリバー!!」
エリンの「守る」と言う想いに呼応するかのように右手の輝きはさらに増し、爆発的に増幅した魔力がエクスカリバーに注ぎ込まれ、その刀身もまた眩い輝きを放ち、輝きそのものが刃となる。
その神々しいばかりの輝きにアリスは一瞬怯
――んだその瞬間にはエリンはアリスの眼前に接近しており、
「はあぁッ!!」
長大化したリーチで振り抜かれる光速の一閃が、アリスの胴体を深く斬り裂き、より強く浄化する。
「エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙!?」
思わぬ反撃に苦しげに喚くアリス。
しかしあまりの魔力量が齎すとてつもない破壊力を発揮するエクスカリバーは、選ばれし勇者エリンでさえも振り回される。
「け、剣の力が強すぎる……!」
ショートソードがまるで大剣のように重く、さらに不慣れな光の翼の制御にも四苦八苦している。
「だっ、たらぁっ!!」
強過ぎる力のエクスカリバーを逆に"軸"にして姿勢を無理矢理安定させ、もう一閃。
黒鱗を焼き払い、甲殻を打ち砕く。
弱ったように怯むアリス。
そこへ、氷属性を纏った矢――氷樹が飛来し、黒鱗を失った部位へ突き刺さり、凍結させる。
「今ので……死んだと思わないことね!」
瓦礫から這い出てきたピオン。
「及ばずながら……――ライトニングスピア!」
立ち上がったリザも雷槍で援護する。
「ふっ……エリンの勇姿に充てられてしまったな……まだ、戦える!」
クインズのトゥーハンドソードの一閃がアリスの脚を深く斬り裂き、
「まだ、倒れるわけには……――チェインド・ドレイン!」
レジーナも鎖鎌を投げ付け、引っ掛けたそこからアリスの生命力を奪い取る。
「私だって!」
ナナミも力を振り絞って魔筆を振るい、鉄球を実体化させてアリスにぶつける。
「せめてもう少しだけ――サークルディフェンサー!」
クロナの防御力強化の広域魔法が全員に行き届く。
エリンの奮起に、全員が息を吹き返した――これならば、アヤトが"切り札"を手に来るまでは持ち堪えられるか。




