62話 裏切りのクインズ
ヴィラムにハイジャンプからのスクリューパイルドライバーをぶち込み、クレーターを穿つ。
「さすがにこのくらいじゃ死なないか」
普通なら足首より上がミンチよりひでぇことになっているが、さすが魔王というべきなのか、五体満足で生きている。
魔族の角が二本ともへし折られ、頭から脳漿を垂れ流している状態が果たして五体満足と言っていいのかは知らんが。
「わ……我は、魔、王……エタ、られた者達の……ためにも、死ぬ、わけにはいかん……っ」
ごぼぉ、と口から血反吐を吐きながらも俺を睨みつけてくるヴィラム。
「はぁー……そのゴキブリ並みの生命力と、婚約破棄者並みの執念深さぐらいは認めてやらんでもないが」
結局はこいつも、あの"アリスさん"と同じだ。
他者のためにという信念か、こいつを殺したいという怨念かの違いはあるが、どちらにせよその取った手段の本末がバナナの皮踏んでるんだよな。正義の方向音痴と言うか。
「お前、本当に分かってるのか?『作者を殺せば、そのオリキャラは生きたまま死ぬんだぞ?』」
「だ……が、生きたまま、殺されていたとしても……せめて、その魂は……解放してやらねば、ならぬ……っ」
「やっぱ分かってねーなこのピーマン頭、せめて肉を詰めろ肉を」
げし、とヴィラムの折れた角にカカト落としを叩き込んで、顔面を地面に押し付ける。
「がっ、ぶっ!?」
「いいかよく聞けよピーマン。物語の創作っていうのはな、作者がそれを描いて初めて成り立つんだ。その作者を殺せば、エタるだのエタらないだの以前の問題、むしろ『再連載の可能性を自ら潰している』とさえ言ってもいい」
「さ……再連載の、見込みが無い、から……エタるのではないのか……?」
「誰が喋っていいっつった?人の話は最後まで聞け、話の腰を折るな。さもなきゃお前の腰を曲がらない方向に折ってやろうか」
震脚をヴィラムの頭に叩き込んで地面に縫い付ける。
「ご、がっ」
「結論から言うぞ。作品をエタらせている作者を根絶やしにしても、そのオリキャラ達は救われない。何故なら、『作者の死=物語の死=オリキャラの存在死』だからだ」
当然といえば当然なんだけどな、作者が死んだら誰がその先の物語を描くんだって話だ。
原作者が亡くなっても、それに携わっていた人達が遺志を継いで物語が再び始まることも、あると言えばあるが。
「つまりだ、お前がエタられたオリキャラ達の魔王になってから、今までのやってきた事なしてきた事は、全部無駄、『ただの骨折り損のくたびれ儲け』でしかないんだよ」
現在進行系で俺がこいつの骨(複数箇所)を折っているが、これこそまさにくたびれ儲けだ。俺に余計な労力を使わせるなし。
「無駄……無駄……全部、無駄……?」
ヴィラムから、希望を絶たれて絶望しか見えなくなったのを感じた。
「そう、無駄だ」
ストレートにハッキリと、"無駄だ"と断じてやる。
諦めさせるなら、早い方が効果的だ。
余計なことを考えさせては立ち直る可能性がある。
だから、『徹底的に心をへし折り、相手の思考を放棄させる』必要があるのだ。
「お前だって分かっていたんだろう?作者を根絶やしにしたところで、エタられたオリキャラ達は救われないと。これ以上、悲しみを増やすな。お前も、もう悲しまなくていいんだ」
否定、否定、全否定……の直後に、『共感し、優しく寄り添うように諭す』。
心を攻め立て、精神を弱らせ、メンタルがグズグズになったところに、甘い言葉を囁いて救いの手を差し伸べる。
数字や理論は持ち出さない、感情に訴えかけ『させる』。
まぁ、やってることは詐欺師ペテン師悪役聖女のソレだが、これが存外馬鹿にならないくらい効果がある。
人間誰しも、自分の味方をしてくれる存在には心を許しがちだからな。
中にはトロイの木馬や埋伏の毒、連環の計もあるが、そう言うのは懐に入れてからそのまま騙し呑み込んでしまえばいいだけだ。
「悲しんでいる……我が……?」
「そうだ。だから、もういいんだ。楽になれよ」
よし、後一押しだ。
回復魔法を詠唱して、
「――キュア」
ヴィラムを回復させてやる。
「何故……我を助ける……?」
「そうするべきだと思ったからだ」
こうすることで、「俺だって本当はお前と戦いたくなかったんだ……(悲)」をアピール。別にこいつは死のうが死ぬまいがどっちでもいいんだけど。
じゃぁオリキャラ達はどうすれば救われるんだと言われたら、まぁ、テキトーにそれっぽいことを言って有耶無耶にしてしまえばいいだろう。
「……ふっ、やはり汝には勝てんということか」
おいおい、なんか急に悟りだしたぞこの魔王。
そこはさぁ、「意地があんだよ、魔王にはァ!!」って頑張るところダルォ?
「当然だ、何たって俺は大魔王だからな」
これ以上戦わないなら何でもいいけどさ。
「――ん?」
なんか奥地――冥王の繭がぶら下がっている方向がなんか騒がしいな。
余計なことしやがったら9.9/10殺しにするからな、と釘を刺してから、冥王の間へ向かう。
アヤトがヴィラムを蹴り飛ばしまくってトドメにスクリューパイルドライバーを叩き込んでやったその瞬間まで、時は遡る。
エレオノーラ達は、奥に吊り下げられた冥王の眠る繭に近付こうとした時、小規模な地震を感じた。
が、
「またアヤトがとんでもないことやってる」
と言うエリンの一言に、全員が納得した。
「……その、なんだ、私だから敢えて言わせてもらうが。今のアヤトの一撃を"普通の"人間が受けたら、頸の骨が折れるだけではすまないのではないか?」
唯一そんなまともな反応が出来るのはクインズだけである。彼女自身もアヤトのチート無双ぶりに閉口しつつあるようだが。
「少なくとも、上半身が圧潰して下半身しか……いえ、足首だけでも残っていれば幸運でしょうね」
想像に容易いことです、とエレオノーラはアヤトとヴィラムの方には見向きもせずに、静かに脈打っている冥王の繭に近付く。
「さて、せっかく目覚めようとしているところ悪いですが、そのままもう一度眠ってもらいましょうか。未来永劫、この宇宙の終わりまで」
エレオノーラは両手を翳し、神聖の光を放つと、冥王の繭に注ぎ込まれていく。
「なんか、これで終わりって拍子抜けだよね」
ふと、ナナミが誰と言わずにそう呟いた。
「拍子抜けって……終わりなら終わりで、それでいいじゃない」
最初にピオンが反応した。
「いや、その……ね?なんかこう……嫌な予感がするといいますか、このまま冥王を封印し直して、はいおしまい、じゃないような気がすると言うか」
ナナミは、前世の世界で自分がプレイしていたRPGのことを思い出していた。
「黒幕を倒したと思ったら、真の黒幕が現れたー、ってことになるんじゃないかって……」
果たして彼女のその言葉が引き金だったのかは不明だが、
「ぶっひょひょひょひょひょ」
突然、冥王の繭から下卑た笑い声が漏れた。
「ッ!?」
エレオノーラは光の放出を止めて、その場から後退った。
すると、ベリベリベリベリと繭を破りながら、毒々しい紫色の、ブヨブヨした"ナニか"が這い出てきた。
上半身は辛うじてヒトらしい姿を留めているが、頭部には歪にねじ曲がった二本の角、背中からは龍翼が生え、脳は剥き出し
その一方の下半身はムカデのようにくねらせ、裏側には無数の脚が蠢いている。
「どォやら少しばかり遅かったよォだなァ?」
醜男の顔に似たそれが『ニチャァ』と嗤う。
「間に合わなかったと言うのですか……」
冥王の再封印に失敗したと言う事実と、現れた冥王らしきそのおぞましく醜い姿を見たことに、歯噛みするエレオノーラ。
「ほらぁ!やっぱりこうなっちゃったよ!?」
「むしろナナミさんがそう言ったから、こうなったのでは……」
「私のせい!?違うよ!?」
嫌な意味で予想通りだったと喚くナナミに、リザがジト目になって睨む。
「ふむゥ?その神性ェ……神々の存在だなァ?」
「冥王……よもやここまで力を取り戻し……いいえ、『原作』よりも遥かに強い力を得ていたとは」
「いかにもォ。我こそは冥王『ノーヴェンネア』であるゥ。ぶっひょひょひょひょひょっ」
ノーヴェンネアは嗤いながらエレオノーラの後ろにいるエリン達を睥睨し、
「ほほォゥ?神々だけでなくゥ、勇者に巫女、転生者も何人かいるなァ……どれェ、貴様らの生気も喰らってやるとするかァ」
ズルズルと下半身を引き摺りながらエレオノーラに襲い掛かろうとするが、
瞬間、エリンがエクスカリバーを抜き放つと同時にノーヴェンネアに躍りかかり、跳躍、落下の勢いも合わせたエクスカリバーの一撃が、ノーヴェンネアの胴体を深々と斬り裂く。
「ごぼォっ……ァ……ぬゥ、今のは効いたぞォ、勇者の小娘ェ」
ゆらりと蹌踉めいたノーヴェンネアだが、すぐに立ち上がろうとする。
その際に斬りつけられた傷が再生回復しつつある。
「だがァ、それで我を倒せるとは思……」
が、立ち上がろうとするよりもエリンはさらに距離を詰め、
「なァっ、ぐォっ、げぼォっ、がはァっ!?」
袈裟懸け斬りを右、左、逆袈裟斬りを右、左と振るい、
渾身の振り降ろしが傷付いたノーヴェンネアを一段深く斬り裂いた。
「ぶぐおォォォォォ!?」
問答すらさせぬエクスカリバーの連撃に、回復が追いつかないノーヴェンネアはがくりと上半身を揺らし、両手を石畳に着く。
「ば、バカなァ、こんな小娘の勇者一人ごときにィ、我が敗……」
「ねぇ」
姿勢が低くなったノーヴェンネアの左眼に、エリンは容赦なくエクスカリバーを突き込んだ。
「ごォッ!?目がァっ、目がァァァ……!」
「うるさいからちょっと黙ってて」
左眼からエクスカリバーを引き抜き、ザク、ザク、ザクとノーヴェンネアの顔面に何度も突き刺していく。
その一方的な光景を見ていた他の七人は。
「エリンさんがものすごく怒ってます」とリザ。
「あらあら、エリンさんお腹空いているのでしょうか」とクロナ。
「ご機嫌斜めですね」とレジーナ。
「ここまでこうでは、いっそ恐ろしいな」とクインズ。
「うわぁ、冥王ご愁傷さま」とピオン。
「怖っ、アヤトくんより今のエリンちゃんの方がよっぽどこっわ」とナナミ。
ノーヴェンネアの顔面が裂傷だらけになったところで、エリンは口を開く。
「あのね、あなたがエタったとかエタられたとか、そんなのはいいの」
「お、おのれェゆ」
口調はそのまま、何かを訴えようとするノーヴェンネアの分厚い唇を盾で殴り付け、殴り飛ばし、ぶん殴る。
「私ね、ほんとは勇者なんてやめて、普通の女の子になりたいの」
蹌踉めくノーヴェンネアの鼻っ面を踏み付け、にじりにじりと踵をねじ込む。
「でもね、魔王とあなたが余計なことするせいで、私はまだ勇者をやらなくちゃいけないの」
「な、ならばぁ、勇者などやめれば良か……」
「あなたがいるからでしょ」
ズヴァゥッ、とエクスカリバーの切っ先をノーヴェンネアの胸を突き刺して、二、三回と念入りに抉り抜く。
が、エリンはその手応えの不自然さに小首を傾げた。
「……あれ?心臓、ここじゃない?」
「ぶ……ぶっひょひょひょひょひょっ……以前の我ならまだしもォ、ヴィラムが貢いだ生気のおかげでェ、この程度では死なぬわァ……グフッ、ゲホッ……」
もはや死に体ではあるが、まだノーヴェンネアは生きている。
「ふ、ふふゥ……それにィ……今ので"大体分かった"ぞォ……」
「何を……」
エリンはもう一度ノーヴェンネアの、今度は右眼をエクスカリバーで突き刺そうと振り上げて、
「貴様にィ……『仲間を手に掛ける』ことは出来るかァ?」
すると、ノーヴェンネアの右腕がバッと振るわれると、その鋭い鉤爪の生えた手から妖しい色をした邪悪な霧が放たれ―それはクインズを包みこんだ。
「なっ、なんだ、この霧は……うっ、ぐあぁっ……!?」
突然、クインズは頭を抑えてもがき苦しみ始めた。
「クインズさん!?どうしたの!?」
ナナミがクインズの急変に、慌てて駆け寄ろうとするが、
不意にクインズは頭から手を離し――
「ア゙ァァァァァ!!」
トゥーハンドソードを振り翳してナナミに斬り掛かった。
「はっ、ちょっ!?」
ナナミは咄嗟に魔筆を寝かせ構えてトゥーハンドソードを受けるが、その重い一撃は魔筆ごとナナミを吹き飛ばしてしまう。
アヤトとの鍛錬のおかげて反射的にに受け身を取ったナナミだが、クインズの突然の攻撃に動揺を隠せない。
「まさかクインズさん……洗脳されて……!?」
いち早くクインズの異変の正体に気付いたのはクロナだった。
「ぶっひょひょひょひょひょっ、そォだともォ。この世界の魔物どもを洗脳しても使えなかったがァ、貴様らの仲間ならどうだァ?」
するとクインズは今度はエリンに向き直ると、猛然と斬り掛かってきた。
「っ!」
エリンはその場から飛び退いてクインズの力任せな一撃を躱すが、そのせいでノーヴェンネアにトドメを刺し損ねてしまう。
一拍を置いて、トゥーハンドソードが地面に叩き込まれ、小さなクレーターを穿つ。
そのクインズは『焦点の合っていない目』を血走らせ、エリンを睨みつけながらノーヴェンネアを守るように立つ。
「……山脈の魔物を洗脳してたのは、魔王じゃなくて冥王だったんだね」
「この女だけ極端に魔力が弱かったのでなァ、試してみれば簡単に洗脳出来たわァ、ぶっひょひょひょひょひょっ」
こうしている間にも、ノーヴェンネアは自己回復に集中している。尤もその回復速度は、エリンがダメージを与える速度の一割にも満たないものだが、時間をかければ全快する。
「さァ行けェ!勇者を倒……」
「グァァァァァ!!」
ノーヴェンネアが何か言い終えるよりも先に、クインズは奇声を上げながらエリンに斬り掛かってくる。
対するエリンも、エクスカリバーや盾でクインズの重撃に対応しているが、
「(こんな力任せなだけな攻撃なんて怖く無いけど……でも、止めるのも難しいかも)」
そのメンタルは幾分か余裕を保っている。
本来のクインズの剣術の強みは、トゥーハンドソードの重量を活かした攻防一体の立ち回りだ。
しかし今の洗脳されたクインズの攻撃は剣術ですらない、子どもが木の棒を剣に見立てて振り回して遊んでいるのと同じだ。
が、クインズは『単純な筋力だけでも十分以上に強い』ため、武器の質量としても体重的にも身軽なエリンは、迂闊に手を出せないでいた。
下手に近付こうものなら、『技量も何も無い完全な力業』で押し込まれてしまうからだ。
アヤトが近くにいないこの状況を前に、リザは思考を回転させ、何をすべきかを考え――結論はすぐに出た。
「レジーナさん、エリンさんと一緒にクインズさんを押さえ込んでください」
「リザさん?」
リザからの突然の指示に、レジーナは意識をそちらへ向ける。
「多分あのままじゃ、クインズさんが壊れちゃいます……多少荒っぽくてもいいから、無力化出来ますか?」
「分かりました、すぐに」
レジーナは鎖鎌を抜いて、クインズの猛攻を凌いでいるエリンの元へ向かう。
「後は皆さんで冥王を攻撃しましょう、せっかくエリンさんが与えたダメージを無駄にしないために!」
クインズの洗脳に動揺していた面々だが、リザの鶴の一声に戦意を取り戻す。
「そうね、リザちゃんの言う通りよ」
真っ先に反応したピオンは矢をつがえて、回復中のノーヴェンネアに向けて、
「――焔火!」
火属性を纏わせた矢を放ち、回復していたノーヴェンネアの体表に突き刺さり、焼灼する。
「えェいィ、邪魔をしおってからにィ……」
冥王の間に到着すると、どうやら冥王っぽいのが繭を破って出てきている辺り、エレオノーラの封印は失敗した感じか。
「エレオノーラ」
「あ、アヤトくん。申し訳ございません、冥王の再封印は失敗しました」
「謝罪など結構。それで状況は……よし、分かりました」
エリンとレジーナが何故かクインズと戦っているが、これまでのことを考えれば、恐らくはノーヴェンネアの洗脳を受けているのだろう。
残るリザ、クロナ、ピオン、ナナミがノーヴェンネアと戦闘しているが、前衛がナナミだけじゃキツいかもしれない。
まずはクインズの洗脳を解くか。
その後でノーヴェンネアをフルボッコにしよう。
縮地でエリンとレジーナのいる所まで距離を詰めて。
「エリン、レジーナ、離れてくれ」
「あ、アヤト!やっと来てくれた!」
「アヤト、様っ……クインズさんが、洗脳されて……!」
「あぁ、分かってる。あとは俺に任せて、二人はリザ達の方に向かってくれ」
俺の指示に、エリンとレジーナは素早くクインズから飛び退いて、ノーヴェンネアの方へ向かう。
「ア゙ァァァァァッ!」
新たに現れた俺を敵だと認識したのか、クインズは俺に迫り、トゥーハンドソードを振り上げ――
「クインズ!!!!!」
名前を力強く呼びかける。
すると、クインズは気圧されたように怯む。
が、すぐに斬り掛かろうとして、
「思い出せクインズ!君の力は、"家族"を傷付けるためにあるのか!」
「ア゙ッ……グッ、ゥア゙ァァァッ……」
「君が守りたいと思っているものは、君が愛したいと思っているものはなんだ!」
クインズは左手で頭を押さえ、苦しげに呻いている。
そうだろう、頭が痛いのは、本当の自分が抵抗しているから。
しかし、魔力による洗脳はこれだけでは解けまい、
だから、こう言うのに効く、"とっておきのおまじない"がある。
呻き声を上げて自分自身に抵抗しているクインズに、そっと歩み寄る。
暴れようとするクインズ、それでも構わずに彼女の顎に指を絡ませて、
そのまま――クインズの唇を奪う。
数秒間、しっかりと自分と相手の唇を押し付け合って、透明な糸を引くように離れれば。
「………………あ……わ、たし、は……何を……?」
「悪い夢を見ていただけだ、気にするな」
正気を失ったヒロインを正気に戻すには、ヒーローのキスが一番効果的なのは、既に『白雪姫』が証明している。
「な、何故、私、いや、アヤトとキスして……!?」
あわあわと真っ赤になりながら混乱するクインズは、その場でへたりと尻餅をつく。かわいい。
「クインズは、ちょっとそこで休んでいてくれ。――すぐに、終わらせる」
冥王ノーヴェンネア、ぶっ殺す。




