54話 やっぱりメインヒロインはエリン
さて、ナナミの初依頼(とは名ばかりの謎のダンジョン攻略)も無事に済んだところで。
あのゴーレムモドキとの戦いのおかげか、ナナミの持っていた『おえかき』スキルは、ランクがEに上がっていた。
やはり俺の見立て通り、成長するタイプのスキルだったようだ。
まだしばらくは、ナナミの受ける依頼に誰か一人でもついてもらうような形で働いてもらうことになるが、一人前になるまでそう長くはかからないはずだ。
そうしてナナミの成長を見守りつつ、他のみんなと大きな依頼を受けたり、模擬戦でみんなをポイポイ投げてやったり、引っ越しの前準備を整えたり、建設中の新築一個立ての手伝いに行ったり、新居の完成予定日が決まったのでスプリングスの里にいるピオンを迎えに行くための手紙を送ったり、オルコットマスターからの"裏の依頼"で犯罪組織をいくつも潰したり、
……あるぇ?まともな休日ってここ最近あったっけ?
忘れたけどまぁいいや。さーて、今夜は……よその悪徳領主が隠蔽している悪事の数々をそれっぽくでっち上げて、ギルドに強制捜査をさせるためのマッチポンプ作りだな、あーめんどくせ。
とかなんとかしてたら。
「アヤト……ここのところ、いくらなんでも働き過ぎではないか?」
みんなと一緒に朝食を食べていたら、クインズがそんなことを言ってきた。
「え?」
「……その様子だと自覚が無いようだな」
呆れたように溜息をつくクインズに続くように、リザがジト目で睨んできた。
「わたしたちと六対一の模擬戦をして、他の皆さんとの依頼に同行したり、アヤトさんしか受けられない依頼も受けたり、新しい家の建築の手伝いにまで行って、家にいる時も一緒に家事しながら書類仕事したり……それに、最近はなんだか夜遅くまで起きてることも多いみたいですね?」
ギクギクギクーーーーーッ
「………………SSランクの冒険者は色々大変なんだよ」
ホントだよ、ウソじゃないよ。いや、マジで。
「ってかアヤトくんってさ、一体いつ寝てるの?」
横合いからナナミまで。
「ちゃんと夜に寝てるぞ。確かに忙しいけど、三時間は寝てるから大丈夫だ」
「い、一日に三時間しか眠れていないのですか!?」
ここ最近の睡眠時間を正直に答えたらレジーナに驚かれた。なんだよ、そんなにおかしいか。
「別にこれくらいならまだ問題無い。視界の隅にピンクのゾウさんが見え始めたらちょっとヤバいかもしれんが、そうならないようにちゃんと調節はしている」
「あの……幻覚が見えてしまっては、既に手遅れなのでは……?」
クロナが顔を引き攣らせている。
「あのね、アヤト。アヤトが大丈夫って言うなら本当に大丈夫なんだろうし、もし大丈夫じゃないならとっくにこの世界が滅んでると思うけど……」
「前々から思ってたんだが、君らは俺をなんだと思っとるんだね?」
え? と六人の声がハモると。
「えーっと、大魔王?」とエリン。
「いえ、破壊神ですね」とリザ。
「地獄の帝王でしょうか」とクロナ。
「邪龍の化身では?」とレジーナ。
「鬼神だろうな」とクインズ。
「異世界版の呂布だよね」とナナミ。
最後のナナミのそれだけがやけに具体的だな……確かに過去の異世界転生でも呂布に憑依したり、呂布と拳で渡り合ったり、軍師になって呂布に天下統一させたりもしたけど。
「って、アヤトが何なのかはいいの。アヤトは大丈夫でも、見てる私達が大丈夫じゃないの」
おいエリン、人を呂布扱いしたままスルーするんじゃありません。
「つまり……大丈夫か大丈夫じゃないかに限らず、俺に休めと、そう言うことか?」
六者六様に頷く。
これは……今日は丸一日休日か。
「というわけでアヤト様、誰をご指名になりますか?」
ぱんっと手を鳴らしたクロナが、途端にニコニコし始めた。えっなに怖いんだけど。
「ご指名?」
「ですので、今日一日、どなたとイチャイチャされますか?」
ふむ……デートイベントってやつか?
みんながみんな、期待に満ちた眼を向けてくる。
今日は丸一日休日だしな……
・エリン ←
・リザ
・クロナ
・レジーナ
・クインズ
・ピオン
・ナナミ New!
……今なんか、ギャルゲーの選択肢画面が見えたのはきっと疲れているからだろう、そうに違いない。
別にみんなと一緒に過ごしてもいいんだけど……
あっ、そうだ(唐突な思い出し)
「ならそうだな……エリン、俺と買い物に行かないか?」
「あ、私?うんっ、いいよ」
わーい、と喜ぶエリン。かわいい。
最近はエリンと二人きりで過ごす時間が無かったと言うのももちろんあるのだが、今さっき唐突な思い出しによる予定変更、その内容はエリンに関わるからだ。
そんなわけで今日はエリンとデート。
だが、昼食はみんなと一緒に食べに戻るし、その後は家で過ごす予定だ。
みんなに見送られて、俺とエリンは並んで商業区へ向かう。
「買い物に行くって言ってたけど、何を買うの?」
エリンは俺の右腕に抱き着くように寄り添う。お胸様を押し当ててるのはわざとやってますね、恐ろしい娘……!
「バターと卵の買い足しと、りんごがいくつか、あとは強力粉と薄力粉だな」
「ん?何作るの?」
「それは後のお楽しみでな」
リザかレジーナなら、俺が何を作ろうとしているのか分かりそうなものだが、エリンはきょとんと小首をかしげている。かわいい。
かわいいので頭をなでなでします。なでなで。
「わっ、わ、えへへ、アヤトのなでなで、久しぶりだなぁ……」
なでなでしてあげると、エリンの顔が嬉しそうに緩む。なでなで。
「そんなに久々だったか?」
「そうだよ、最近はナナミさんにばっかりついてて……一人じゃまだ不安って言うのは分かるけど、私にも構ってくれないと、拗ねちゃうもん」
ぷくぅ、と頬を膨らませるエリンかわいい。なでなで。
「そっか、エリンはもう一人でも依頼を任せられるとは言え、ちょっと任せっぱなしにしてたな」
なでなでの手を離して、エリンの膨らんだほっぺちゃんをぷすーとへこませ、うりうりとこねくり回す。
「あうぅ、そんな意地悪しちゃやだよぅ」
「エリンのほっぺが暖かくて柔らかいから、ついな」
「もうっ、アヤト!」
「わははは」
あぁ、こう言う穏やかな時間が心地良いなぁ。
市場で新鮮な卵やバター、りんご、強力粉と薄力粉を買い込んだら。
「とりあえずの俺の買い物はこれでいいけど、エリンは何か買いたいものとかあるのか?」
「うぅん、特にないかな。元々、今日はどうするか決めてなかったし」
「んじゃ、どうする?」
「どうしよっかぁ……」
ベンチに座って、日向ぼっこ。今日は良い天気だなぁ。
「あー……アヤトとこうして日向ぼっこしてるだけで、一日終わっちゃいそう……」
なんかおばあちゃんみたいなこと言ってますよ、このピッチピチの15歳ちゃんは。俺の(魂年齢の)方がよっぽどジジイだけど。
「生モノ買ってるから、一日中外にいるのはちょっとな」
「そうなんだよねぇ……」
うーん、やばい。
この気温と日差しとそよ風は眠気を誘う、下手な催眠魔法よりも遥かに効果的だ……
「なんだかアヤト、眠そうだね」
「んー……今なら人体で光合成が出来るかもしれん……」
「アヤトなら出来るかも」
こらこら、人を植物扱いすな。
「いっそもう帰って、お昼まで私の部屋で一緒に寝ちゃおっか」
「そうするかぁ……ふあぁ……」
エリンの提案に物を申せないほど、俺の思考が緩みつつある……どうやら自覚出来ない部分には疲れがたまっているようだな……
ふらふらと帰宅して、荷物だけ保管したら、エリン (とリザ)の部屋へ直行し、二人で一緒にベッドインする。
「えへへ……」
寝転んですぐに、エリンは擦り寄って俺を抱き枕にする。
「よしよし、好きなだけ甘えなさい」
「……じゃぁ、好きなだけ甘えちゃおーっと」
エリンはより密着し、俺の胸を頬擦りする。ちょっとくすぐったい。
「あ、でも私が甘えてたら、アヤトが眠れないかも?」
「おやすみ」
スヤー!
………………
…………
……
「すー……くー……すー……くー……」
「……もう寝ちゃった」
おやすみと告げてから五秒で眠りについたアヤトに、エリンは小声で呟いた。
朝からアヤトと肌を重ねる心の準備もしていたエリンだが、本当に眠ってしまったアヤトに、少し拍子抜けした。
「ずっと疲れてたんだよね……」
思えば、スプリングスの里から帰ってきてから、アヤトはずっと働き詰めだった。
いくら大魔王だの破壊神だの地獄の帝王だの邪龍の化身だの鬼神だのリョフだのと言われるアヤトでも、肉体的には17歳の青少年なのだ。
本気で人外かどうかと怪しんだ回数などもう忘れたが……
「……アヤトの、心臓の音」
エリンは顔をアヤトの左胸にそっと埋める。
とくん、とくん、とくん、と静かな脈動の度に、エリンの鼻先を優しく押し返す。
「大好きだよ、アヤト」
心臓に直接に伝えるように、想いを囁く。
「大好きだから、ずっと一緒に……い、……」
アヤトの寝息に誘われるように、エリンもまた眠りについた。
むくり。
あーーーーー、よく寝たなぁ……休日の二度寝とか久しぶりだわぁ……三時間くらいは寝てたな。
日の高さを見ても、そろそろお昼時か。
エリンは……
「すぴぃ……」
思いっきり俺を抱き枕にして寝てる。
好きなだけ甘えなさいとは言ったが、遠慮なく甘えに来たな……まぁいいか。
「エリン、そろそろお昼だぞ」
エリンのりんご頭をなでなでしながら呼びかける。なでなで。
「んぅ……アヤトぉ……?」
「おはよう。そろそろお昼だし、起きようか」
「……、……ん」
閉じられる瞳と、差し出される唇。
もうお決まりのパターンだ、エリンの顎に指を絡めて、おはようのキスを落とす。
「ん、ちゅ、ぅっ……」
だけど、今日はちょっとムラついているので。
「む……?んっ、んぅっ!?ふあっ、ぁむっ、あ、あや、ぉ、ひゃ、ぅあぁ、ぁあっ、ゃぁっ、ぁ、ぁ、ぁむっ……」
思い切りエリンの口の中を舐め回してやる。
唇の裏、歯茎、舌の血管……さくらんぼの蔓でトートラインヒッチ(テントの設営の際に使われるロープ結びの手法)を結んでみせた俺の舌捌きを文字通り味わうがいい。
数十秒ほどかけて、エリンの口腔を蹂躙して。
「はっ、はぁっ、は、ア、アヤトの、えっ、ち……ぃっ……」
「……嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけど……あんな、え、えっちなキス、されるなんて、思わなかった……っ」
エリンの顔が、自分の髪よりも真っ赤になってる。かわいい。
「ごめん、エリンがあんまり可愛いからついな」
「つい、であんなえっちなことされたら……どうかしちゃうよ……」
どうかしちゃう!?いったいどうなるんだ!?
『どうかしちゃうエリン』に大変興味を覚えるが、それはまたの機会にしておこう。
「さて、よく寝たし、そろそろ起きるか」
「うん」
昼食はみんな揃っていただいて。
「そうだリザ、今日の紅茶は少し多めに用意してくれるか?」
ナナミとクインズが洗い物をしている最中に、紅茶の準備をしようとしていたリザを呼び止める。
「多めに、ですか?」
「今日はおやつを作ろうと思ってな」
「おやつですか、分かりました。なら、茶葉は少し多めに……」
戸棚から茶葉の詰まったケースを取り出し、茶葉の量を測りで計算するリザ。
「ところで、何を作るんですか?」
「それはお楽しみにな」
「……アヤトさんのことだから、過去の異世界転生で食べた変なお菓子とか作りそうで怖いんですけど」
リザがたまに俺に見せる、「うわ今度は何やらかすつもりだこいつマジ引くわー」みたいなジト目をした。
「はっはっはっ、……少なくとも、『見た目はどう見てもヤベーのに食べたら案外美味い』なんてものは作らないから安心してくれ。もちろん、その逆もな」
「はぁ……」
リザの俺に対する信用度が低過ぎる。ひどい。
マァいいやサァやるか。
まずは強力粉と薄力粉、塩、蜂蜜、バターを混ぜて、生地を作ります。冷やす必要がある行程は魔法で時短して。
鍋にりんご、砂糖、バターを入れて混ぜながら熱し、水分がなくなるまで時々混ぜながら煮て、りんごのコンポートを作ります。これも魔法で時短出来るところは時短して。
薄力粉で打ち粉した天板に生地をまぁるく伸ばして、りんごのコンポートを包み込み、溶き卵を塗り込んだら、窯の中へ。
こんがり焼き色がついたら。
――アップルパイの完s
「アップルパイ!!」
ガタッと言う音と共に、エリンの声が聞こえた。
次の瞬間にはドタドタとキッチンに足音が駆け寄ってくる。
「アップルパイの匂いがしたよ、アヤトッ!」
「おぅエリン、アップルパイだぞ」
「私、アップルパイ大好き!」
「OK分かった落ち着けステイステイ近い近い近い近い近い」
エサを間近にしたワンちゃんのごとく興奮するエリン。尻尾があったらブルンブルンシュッシュッと残像を残すだろう。
みんなを呼んで、おやつの時間である。
「良かった、普通のアップルパイですね」
「おいリザ、おい」
開口一番リザが大変失礼なことを口にした。そんなこと言う子にはあげないぞぅ?
「まぁ、なんて美味しそうなアップルパイ」
「出来合いの物なら食べたことはありますが、焼き立ては初めてですね」
「アップルパイ……そう言えば、初めて食べるな……」
クロナとレジーナが称賛している横で、クインズが興味深げにアップルパイを覗いている。食べたこと無いのか、ならちょうどいい機会だな。
「うわすっご!アヤトくんお菓子も作れちゃうんだ!」
すげーすげーと喜んでいるナナミ。
「材料さえあれば普通に作れるご家庭モノだぞ?オーブンは無いから窯で焼いたが」
「アヤトのアップルパイ……アヤトの作ったアップルパイ……えへへ……」
エリンの顔が、女の子としてちょっと見せられないくらいだらしなくなってる。
早速切り分けて、
「いただきまぁーす!」
何このアップルパイとエリンの組み合わせ、かわいすぎる。
「はむっ、もぐもぐもぐっ……ん?」
すると、だらしないエリンの顔が真顔になってピタッと止まった。
……あれ?もしかして失敗したか?
止まった口を再びもぐもぐさせて、ごくん。
「ぁ…………」
ポロ、とエリンの目から涙が流れた。
「エリン?まさか、美味しくなかったか?」
不味すぎて泣いてしまったのかと思いきや……
「…………え?あ、あれ、なんで私、泣いて……っ、ひっ、くっ……」
突然泣き出してしまったエリンに、どうしたんだとみんなが心配している。
「ち、ちがっ、あのっ、ふっ……あの、あのね、アップルパイは美味しいの、でも、ね、っく……アヤトのアップルパイが、その……っ、院長先生が焼いてくれたアップルパイに、味がそっくりで……ぅっ、ぐすっ……」
ポロポロ、ポロポロと涙が止まらないエリン。
「ひぐっ……アップルパイ、美味しいよぅ……っ、院長先生ぇ……みんなぁ……会いたいよぅ……!」
……そうか、故郷の味を思い出しちゃったのか。
「んー……」
すると何を思ったのか、ナナミはナイフを取ると、自分の分のアップルパイを半分にして、さらに一口サイズに切り分けると。
「はいエリンちゃん、あーん」
「ふっ、ぐすっ……ぁー……」
ナナミにあーんされて、泣きながらもアップルパイを食べるエリン。
「せっかくアヤトくんが焼いてくれたのに、泣いてばっかりじゃ、美味しく食べられないよ?」
「そんなことないよぅ、アヤトのアップルパイ美味しいもんっ……ぐすぐす……っ」
あーもー、食べた端からまた思い出し泣きしちゃって。
「っ……、ふっ、くっ……」
すると今度はクインズまで嗚咽を洩らして、リザが驚く。
「ク、クインズさんまでどうしたんですか……?」
「いや……すまなぃ、私も……王国に仕えていた時を、思い出してな……っ」
クインズの場合はホームシックと言うより、もう二度と会えない人達のことを思い出してもらい泣きしてしまったのだろう。
クインズがいた世界は、既に削除されてしまっているのだから。
「ん~っ、アヤト様のアップルパイ、絶品ですね♪」
「プロのベーカリーにも劣らぬ腕前、お見事です」
クロナとレジーナは普通に食べている。と言うか、エリンとクインズのために、敢えて普通に食べてみせているんだろうな。
「エリンさんを泣かせるアップルパイ……アヤトさんも罪ですね」
言葉だけ見れば微妙に失礼だが……リザの表情は柔らかい。
エリンと二人で旅をしていた時に聞いた、「アップルパイもいひぃよぅ」と言う彼女の寝言。サプライズで焼いてあげようとは思っていたが、予想外の副次効果を生んだようだ。
アップルパイ、焼いてよかったな。
アップルパイを食べた後。
新築の進捗を見に行くとみんなに告げてから外出し――それも嘘では無いのだが、町の人気のないところまで移動してから、
「――女神様、聞こえますか?」
基本的に女神様の方から呼び出されることはあるが、一応、俺の方からも女神様を呼び出せる権限は持ち合わせている。
応じてくれるかは、女神様の状況次第だが……
プルルルルル プルルルルル
ガチャ
『はい、アヤトくんですね?』
よし、繋がった。
「毎度お世話になってます。お忙しい中申し訳無いですが、ちょっと女神様にお願いがありましてね」
『お願いですか?』
「実はですね、エリンのためにアップルパイを焼いてあげたんですけど、食べたらホームシックになってしまったみたいでして。女神様の権能で、エリンがいた世界に連れて行ってあげたいんです。出来ますよね?」
エリンがいた世界はまだ削除されていないはずだから、問題なくリンク出来るはずだ。
が、
『出来ますよ、と言いたいところですが……今は危険ですので、了承はしかねます』
「危険?どう言うことです?」
理由を訊いてみれば。
『現在、時空と時空を繋ぐゲートが、非常に不安定な状態になっており、指定された次元へ転移出来ない恐れがあります』
不安定な状態とな?
『・・・アヤトくん、あなたはつい先日、ほんの少しだけこの次元から姿を消していましたね?』
「え?……あぁ、あの正体不明のダンジョンのことですね。まさか、それに何か関係が?」
『関連性は不明ですが、その可能性は高いかと』
ふむ……エリンの育った孤児院にご挨拶に行くのは、まだ先になりそうか。
『それに……どうやらあなた以外にも、時空を移動可能な存在がいるようです』
「あ、そいつ知ってます。ヴィラムって言う魔王らしいです」
『魔王?』
「なんでも、無責任に作品をエタらせる作者や、身勝手な異世界転生を繰り返す神々を討ち滅ぼす、とかナントカ。あと、そのための切り札も用意してるとか」
『ふむ……分かりました、情報提供ありがとうございます』
「なるべく早い解決をお願いしますね。では、失礼します」
『はい、失礼します』
ガチャ。
さて、来週はピオンを迎え入れに行かないとな。
しかし、孤児院の院長先生へのご挨拶は、予想外な形で、しかもとんでもないことの後になるとは、この時の俺はもちろん、女神様にも予想出来ないのだった――
『こら!章の最後に不吉なナレーション入れるのはやめなさい!私の責任問題になるでしょう!』
これにて第六章が終了し、次の第七章は6月15日から開始予定です。




