52話 予想外の強敵
アヤト、ナナミ、リザ、レジーナの四人が、謎のダンジョンの中にいる頃。
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
いつもなら常勤の受付嬢が応対に出ているのだが、今日はいつもは見られない美しい黒髪の美少女――クロナが微笑みを添えてクエストカウンターに立っていた。
その常勤の受付嬢はと言うと、体調不良につき欠勤していたため、クロナがその代わりを務めているのだ。
アトランティカのギルドでも、デスクワークや冒険者としての活動の他、受付嬢としても、レジーナ共々勤務経験がある。
受付嬢として勤務するクロナ、と言うのは確かに珍しい光景であり、彼女の美貌は多くの男性どころか女性すらも振り向かせるほどだが、冒険者の多くは他の受付嬢と同じように接している。
何故なら彼女は、フローリアンの英雄・アヤトの婚約者なのだ。
見目麗しい黒髪の美少女姉妹が、フローリアンのギルドに出入りするようになったと聞けば、男性の冒険者の多くは鼻息を荒くして"お近づき"になろうとしたが、既に他の男のモノ――それも、英雄……と言うよりは、(冒険者の者達からは)鬼神・暴君・悪魔のようだと畏れられるアヤトの婚約者だと聞けば、そのほとんどは恐れ慄いて"お手付き"を避けた。
遠目から目の保養で眺める分ならはともかく、間違っても手を出そうものなら、その者は知らぬ内にフローリアンの町から姿を消し、二度と現れることは無くなる……と言う、『限りなく真実に近い噂』があるのだ。まぁ大体アヤトのせいだが。
そんなわけで、クロナの麗姿を合法的に眺められると言う理由で、集会所の冒険者の男達は、酒を片手に静かに賑わっていた。
「あの黒髪の受付嬢、すっげぇ可愛いよな……」
「ってかなんだよあのデカさ、エロ過ぎんだろ……」
「死んでもいいから、一回抱いてみてぇ……」
「よせよせっ、あんま見てると、フローリアンの英雄が来るぞ……」
「かーっ、フローリアンの英雄様めっ、うらやまけしからん過ぎるっ……」
今日も冒険者ギルド・フローリアン支部の集会所は平和……だったと思われたのだが。
「全く!なんだこの豚箱のような場所は!これだから冒険者ギルドと言うバカの集まりは度し難い!」
慇懃無礼極まりない暴言を吐き散らしながら、ズカズカと集会所に踏み入って来たのは、裕福の良い体格を礼装に押し込み、金品で全身を飾った――控えめに言って趣味の悪い男だった。
せっかくクロナを眺めながら気持ち良く酒を嗜んでいたところになんだと冒険者達は不快気な視線を向けるが、男はそれらに意にも介さず真っ直ぐにクロナの方へ向かった。
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
この男がどのような人間なのかは脇に置いておき、クロナは受付嬢としての営業スマイルで応じる。
「おぉ、クロナ嬢!アトランティカからフローリアンの町に派遣されたと聞いて、こうして迎えに参ったぞ!」
何 言 っ て ん の こ い つ 。
この集会所内にいる、男以外の人間の心がひとつになった瞬間であった。
「はい、私はクロナですが……どちら様でしょう?」
対するクロナは、目を丸くして小首をかしげる。
「私はコーザ。このフローリアンの町の領主であり、子爵貴族である!」
デデーンと踏ん反り返りながら、尊大に名乗る、コーザと言うらしい子爵貴族。頭の悪そうな男だ。
「はぁ。それで、迎えに参ったと申されましたが、どのようなご用件でしょう?」
「無論、貴女を我が子爵家に迎え入れるためだ!海巫女の一族と言う血筋を守るため、そして何よりも貴女のため!その貴女に相応しい私が、こうして迎えに参ったのだ!」
厚顔無恥もここまで来ればいっそ見事と言っても良いだろう。
「縁談のお話でしたら、残念ですが、お断り致しますね」
クロナは再び営業スマイルを立て直して、丁重にお断りする。
「へ?」
まさか断られるとは思って無かったのか、間抜けな声と顔をするコーザ。
「お気持ちは嬉しいですが、このクロナには、生涯身も心も捧げると誓った殿方がおります。なので、「ごめんなさい」とご返答させていただきます」
ぺこりと頭を下げるクロナ。
こうまで礼儀正しく頭を下げてお断りの返事をするのだ、脈など万が一にも無いことは、誰の目にも分かることだ。
よほどの阿呆でも無ければ、だが。
「な、何故だ!?冒険者ギルドなどという野蛮な場所など、貴女には相応しくない!」
カウンターに手を打ちながら、鼻息荒くクロナに詰め寄るコーザ。
「貴女は海巫女の一族!貴女には私のような貴族が隣にいる方が相応しいのだ!こんな仕事など辞めて、私に嫁げば、豪華な食事や綺麗な服、望めばなんでも差し上げよう!」
「……あら、望めばなんでも差し上げてくれるのですか?」
瞬間、クロナの背後で"黒い波動"が蠢いたことに気付かなかったのは、目の前のコーザくらいだろう。
「無論だ!私とて男、二言は無い!」
「――では、あなた様の命をくださいな?」
「………………え?」
「言い方を変えましょうか。あなた様の首、おひとつ私にくださいな♪」
なにニコニコしながらとんでもなく恐ろしいこと言っちゃってんのこの人ォ!? とこの場にいる全員が戦慄した。
「い、いや、待て、さすがにそれは」
「男に二言は無いのですよね?さぁさぁ、早くその首を、このクロナに差し出してくださいませ、もちろん今この場で♪」
「そ、それ以外、他には何か無いのか?」
冷や汗をダラダラ流しながら、他の要求は無いかと話を逸らそうとするコーザ。
「仕方ありませんねぇ、では、あなた様の持つ利権を全て私に無条件で委譲してくださるのなら……」
「り、利権?まま、待て待て、それは私の全財産やその所有権と言うことか?」
「はい。所有権はまぁ、適当に放棄して財産は売り払って、現金は全額、教会や孤児院などの福祉施設に寄付させていただきますね♪」
つまり、クロナの隣に相応しい(失笑)ための立場を全て寄越せと言うわけだ。
嫌がらせだ、間違いなく嫌がらせでこんなこと言ってるんだこの人。
「ほ、他に、他には……」
「はぁ……そろそろ本音を申し上げましょうか?」
瞬間、身を引き裂くような霊圧が集会所を支配した。
「ひぇっ!?」
尻もちをついて失禁してしまうコーザに、クロナは『目が一切笑っていない笑顔』で、
「豪華な食事も綺麗な服も利権も財産も、私に相応しい殿方も、全て十分間に合っていますので……こほん、『次いらんことしやがったらてめーの一族郎党もろとも消し炭ひとつ残さんぞ、このド三下オーク以下野郎』、です♪」
アヤトがゲス野郎に中指おっ立てて喧嘩を買う時の常套句を参考にして、ニコニコと言い放った。
「アバババババ……ブッピガンッ」
とうとう精神が壊れてしまったのか、コーザは白目をむいて気絶してしまった。
「あらあら、ちょっと脅かし過ぎたでしょうか」
霊圧も消えたところで、コーザの護衛兵達が「すいませんうちのコーザ様がほんとすいません」とペコペコ頭を下げながらコーザを引っ張っていく。
それと入れ替わるように、依頼を終えたエリンが帰還してきた。
「クロナさん、ただいまです。なんか変な人が兵隊さんに引き摺られてましたけど、何かあったんですか?」
依頼状の半券と、討伐した魔物の素材の一部を差し出すエリンに、クロナは微笑みながら。
「うふふ、ちょっとした「ざまぁ」です♪」
「ザマー?」
達成を確認したクロナから報酬金を受け取るエリンは、小首を傾げるだけだった。
冒険者ギルド・フローリアン支部は、今日も平和だった。
い い ね ?
――フローリアンの集会所でそんな面白……ゲフンゲフン、楽し……ゲフンゲフン、愉快……ゲフンゲフン、大変なことが起きていたことなど俺はつゆ知らず。
レジーナはマーマンキングと鎖鎌に繋がれたまま立ち回っているが、マーマンキングの動きは格段に遅くなっており、悠々とトライデントを躱し、反撃に左の鎖鎌で鱗を斬り飛ばしている。
「よし、レジーナは下がってくれ!」
「はい、アヤト様」
俺の指示をすぐさま了解したレジーナは鎖鎌をマーマンキングから回収すると、距離を取る。
マーマンキングはレジーナを追い詰めようとするが、鈍った動きでは追いつけようが無く、死角から無影脚で迫る俺にも気付いていない。
「余所見してると危ないぞぅ?」
そう呟いてやることで、マーマンキングはようやく死角の俺に気付いて振り向こうとしているが、もう遅い。
ソハヤノツルギに赫い雷を纏わせて、
「疾れ稲妻、鳴れ雷――『閃赫卍雷』!」
ちょうど『卍』の字を描くように斬撃を放ち――真っ赤な雷がマーマンキングの魚鱗を貫き、肉体の内側で暴れ迸り――体液が急速沸騰し――パァンッ!!と全身が破裂した。
仕組みとしては、卵を殻のまま電子レンジでチン☆したら破裂するのと同じだ。
「うわぁ……ナナミさんがいなくて良かったですね」
割れた水風船のように成り果てた臓物をぶちまけ、『真っ赤に染まった骨』をバラバラと撒き散らすマーマンキングの末路を見て、リザが苦虫を生きたまま飲み込んだような顔をした。ひでぇ絵面だな、まともに描写したらR−18G不可避ですよクォレワァ……
「……中の魔石が消滅しているようですね、完全にオーバーキルです」
マーマンキング"だったモノ"を見て、レジーナは魔石が消失してしまったことを教えてくれた。
「ありゃま、軽い電気ショックのつもりだったんだが、ちょっとやり過ぎたかな」
軽い電気ショックのつもりだった、はさすがに嘘だが、体内の魔石まで蒸発したとは思わなかった。
教訓:普通の戦闘で電子レンジでチン☆ではまともな素材が残らない。
次は気を付けよう。
戦闘は終了したが、一息つくのはまだ早い。
「ナナミさんも無事だといいんですけど……」
リザの表情は固い。
俺とレジーナが助けに来たとは言え、ナナミはまだ姿が見えておらず、一人で危険かもしれない状態が長くなっているのだ。
「探知反応を見る限り、魔物との戦闘にはなっていないし、気配が動いていないと言うことは、どこか危険が少ない場所に隠れているのかもしれないな」
ナナミがこのダンジョンの穴に落ちてしまった時点で、俺達がすぐに助けに来ることは分かっているはずだ。
一人で下手に行動するよりも、余計なことはせずに息を潜めている方がまだ助かる……と、判断してくれているといいのだが。
「ともかく、急ぎましょう。消耗しているリザさんには申し訳ありませんが、ナナミさんの安否確認が最優先です」
「そうですね、早く行きましょうアヤトさん」
あちこち駆け回っている俺が一番消耗してると思うんだけどなぁ、と言う気持ちはそっと胸にしまっておこう。
迷路のような通路をえっちらおっちら駆け巡り、状態異常攻撃の面倒くさい小型の魔物を蹴散らして、ようやくナナミの反応がある小部屋まで来た。
軽く小部屋を見回しても、魔物の姿や気配は無く、ナナミの姿も見られないが。
「ナナミー!俺だ、アヤトだ!リザとレジーナも一緒だぞー!」
敢えて大きな声で存在を誇示する。
もしこの声に魔物が寄って来たとしても、全員揃っているので慌てずに対処すればいい。
すると、入り組んだ壁と壁の隙間から、魔筆を抱えたナナミがそ〜〜〜〜〜っと顔を出して、ホッと胸を撫で下ろす。
「……あっ、はぁ〜〜〜〜〜、良かったぁ……」
安心したように、壁の隙間から出てきた。
「ナナミさん、お怪我はございませんか?」
「大丈夫、みんなが助けに来てくれるって信じてたから、そこに隠れてた」
身を案じるレジーナに、ナナミは大きく頷いて見せる。
うむ、大人しく助けを待っていてくれたようで何よりだ。
「ともかく、無事で何よりだ。下手に動き回るより、俺達を待ってくれていたのも良いポイントだ」
「うん。こう言うのって、一人で動くのは危険だから助けが来そうなら待った方がいい、って前世のラノベとかネット小説で習ったから」
前世の知識によるものだったか。
結果としてそれが生存に繋がったのなら、何でもいいがな。
「皆さん無事でしたし、一旦落ち着きましょうか」
リザの意見により、一旦休憩だ。
この小部屋に結界を張って、地べたに腰を下ろす。
「さてと……ここからの問題は、どうやってこのダンジョンから脱出するか、だな」
落ち着いて、携行していたボトルの水を呷り、一息ついたところで。
「……、……多分ですけど、わたし達が入って来た入口は無くなってますよね?」
リザはきっと、「アヤトさんがみんなを担いで跳んで脱出すれば良いのでは?」と思ったのだろうが、そこまで楽観的にはなっていないようだ。
「恐らくな。とりあえず、入口は既に消えている前提としよう」
であればどうやって脱出するかは、いくつか選択肢がある。
「どこかに、外へ出るための出口があればいいのですが……」
レジーナがそう言ってくれたように、ひとつは、外への出口を探すことだ。
しかしその出口はどこにありそうなのかと言えば、
「うーんと……普通に考えたら、このダンジョンの最奥部のボスを倒したら、旅の扉とかワープ装置で外に飛ばしてくれるとか?」
ナナミが言っている"普通"と言うのは、ゲームの中の話なのであって、その辺はゲームシステムの都合だ。
それはともかくとして、二つ目は、ダンジョンを突破する、もしくはこのダンジョンのボスを倒すこと。
三つ目は……まぁ、うん、俺がこのダンジョンの天井をぶち抜いて力尽くで脱出することだが、それをやったら一体どんな弊害が起こるか分からんので、二進も三進も行かなくなった時の、本当に最後の手段だ。
結論としては。
「ダンジョンを探索しながら進んで、最奥部に着くよりも前に脱出可能なら、その場ですぐに脱出だな」
って言うかこんな得体の知れない場所にいつまでも居たくない、と言うのが本音だが。
そもそもこのダンジョンの発生原因が謎だ。
世界線によっては、ダンジョンがその辺のゴキブリみたいにポンポン出てくるのが当たり前な世界もあるが、この世界はどちらかと言えばダンジョンと言うより、"狩場"に近く、ダンジョンの自然発生はこれまでに確認されていなかったはずだ。
では何故こんなところで、それもタイミングがタイミングだ、転生者(この世界のイレギュラー)であるナナミを引きずり込むようにダンジョンが発生したのか、偶然の一致にしては事が噛み合い過ぎていると思うのは俺の穿ち過ぎとは思いにくい。
………………ダメだ、思い当たる節があり過ぎてどれに何が当てはまるか分からん。
えぇぃ、考えても分からんものは分からんのだ、一旦棚上げしよう。
ともかくは、ダンジョンの奥に進んで出口を探すと言う結論に至った、その時。
――突然、何か地面に激突したかのような轟音と震動がダンジョン内に響いた。
「なっ、なにっ!?」
ナナミは慌てて魔筆を手にしてキョロキョロと辺りを見回す。
リザとレジーナも何事かとセプターと鎖鎌を手にする。
俺もすぐに気配探知を――んん?大型の魔物かと思ったが、新たな反応は見られない。
何か、巨大な重質量物体がダンジョン――それも、俺達の近くに落ちたというのも分かるが……
すると、
――グオォアァァァァーーーーーッ!!
と言う魔物の咆哮のような吼え声が『背後から』轟いた。
「なっ!?」
さすがの俺もびっくりして振り向いた。
いや、だって、この近くに魔物の気配は無かったじゃん!?
ちなみに、姿を消せる魔物の気配も逃さず探知出来るので、今の今まで姿を消して俺達に忍び寄っていた、なんてことはないはずだ。
――俺達の背後にいたのは、半透明の飴色をした海坊主のような巨人が、石柱を担いだ外観の魔物。
「これは……ゴーレムの類でしょうか?」
リザはセプターを構えながら、その姿からおよその分類を読み取ろうとしている。
ゴーレム……しかし水飴状のゴーレムとはまた珍しいな。
するとゴーレムモドキは石柱を振り上げて、猛然と襲い掛かってきた。
振り下ろされる石柱に、俺は咄嗟にナナミをお姫様抱っこにして飛び退き、リザとレジーナも一歩遅れて石柱を躱す。
「アッ、アヤトく……!?」
「急にこんなことして悪いな」
同時に、石柱が地面に叩き込まれ、小さなクレーターを穿った。
うむ、なかなか強そうだ。
一旦ナナミを下ろして、
「ナナミ、無理に攻撃しないでいい、とにかくこの部屋の中で逃げ回るんだ」
「わ、私も戦……」
「ダメだ」
意気込みは良しだが、敢えて強い口調で脅かしつける。
「死にたく無いなら、自分のことだけ心配しろ。いいな」
「ッ……」
言っちゃ悪いが、今のナナミはまだ足手まといだ。
とにかくまずはこいつを始末して安全を確保しなくては――
――んん?気配を読み取れない?
目には見えるのに、生体反応が無い。
生体反応だけでない、気配そのものや熱紋、魔力すら感じられない。
肉眼では見えるのに、魔法的なサーチには一切引っ掛からないと言っても良い。
幽体のレイスですら、"そこにいる"と分かるのに、このゴーレムモドキにはそれが全く感じられないのだ。
……全くの初見だな、こう言う前情報の無い戦闘は久しぶりだよ。
石柱を地面から引き抜きながら、ゴーレムモドキはゆらりと睥睨する。
「水属性のゴーレムなら、――ライトニングスピア!」
リザは即座にセプターの魔石を紫色に輝かせて詠唱、ライトニングスピアをゴーレムモドキへ向けて放つ。
普通の水系の魔物ならこれだけで勝負がつくほどの威力の雷槍だ。
が、
ゴーレムモドキの水飴状のボディにライトニングスピアが直撃、炸裂し――何も起きなかった。
「そんなっ、効かない!?」
動揺するリザ。
どうやらかなり強い魔法耐性があるらしい
ゴーレムモドキは煩わしげに頭を振り、ライトニングスピアを撃ち込んできたリザに標的を定め、石柱を薙ぎ払おうと振りかぶり、
「さすれば!」
しかしそこへレジーナがゴーレムモドキの背後へ回り込み、鎖鎌を両方とも放ち、その両腕に絡み付かせようとするが、何故かずるりと鎖が滑り、鎌が地面に落ちてしまった。
「な、何故っ!?」
薙ぎ払おうとしていたゴーレムモドキはレジーナに振り返り、フルスイングで石柱を振るう。
「くっ……!」
レジーナはすぐに鎖鎌のチェーンを巻取って飛び下がり、振り抜かれた石柱を躱す。
空振りした石柱はダンジョンの壁に激突し、そのぶつかった壁を崩壊させた。
だが、それは大きな隙になる。
「初心者研修の途中なんでな、悪いが死んでもらう」
レジーナの鎖鎌が滑ったところ、もしかすると奴の体表面はこんにゃくみたいになっている (つまり、ちぎることは出来ても物理的な切断は出来ない)のかもしれない。どこぞの怪盗の三世一味のポン刀使いも、こんにゃくは斬れないって言ってたし。
無影脚でゴーレムモドキの正面に躍りかかり、奴の胴体に右掌を押し付け――こんにゃくとは違うし、寒天質とも違う、不思議な感触だ――
「張ッ!!」
その掌底に練気を流し込む!
いくら衝撃吸収能力に優れようと、いくら刃が滑りやすい体質だろうと、いくら魔法耐性が高かろうと、本体の"核"を破壊してしまえば一撃で死ぬ。
人間で言うなら心臓や脳を破壊するようなもの――ほぼ即死だが、アリスの場合は殺しても復活する恐れがあるので、肉体と各臓器をズタズタに破壊してから心臓を引き摺り出して物理的に潰すまでを目視で確認したかったから。
まぁともかく、核を破壊されたこいつがどうなるかは分から……、……ん!?
練気を流し込み、核を破壊されたはずのゴーレムモドキは、僅かに震えただけで、何も起きなかった……
マ
ジ
で
?




