47話 ハズレスキルが実は超有能とは限らない
アヤトくんとの面接――私が彼のハーレ厶に加わるための面接は、どうにか内定をもらえた。
彼は「俺の婚約者になる必要はない」と言っていたけど、婚約破棄する側の王子や貴族が言うような「真実の愛を見つけた」とは違う、"本当の真実の愛"(自分で言っててなんか胡散臭い……)とも言うべき感情をアヤトくんに抱く可能性もあるわけだし。
これからどうなるにせよ、今は居候として転がり込む身だから、挨拶くらいはきちんとしよう。
「……よし、それじゃぁみんなに自己紹介をしてもらうから、ちょっと待っててくれ。食事は食べてていいからな」
今なんか、アヤトくんが「しまった」みたいな顔してちょっと沈黙してたけど、どうしたんだろう。
「あ、うん、いただきまーす」
食べていいと言われたので、いただきます。
アヤトくんは婚約者のみんなを呼んでくるようで、一旦席から離れていった。
それでは、初・異世界メシ!
だけど目下にあるのは、ほかほかのロールパンに、温かいポトフ、サラダ。……現実世界とあんまり変わらない。
いやいや、贅沢は無し無し。好き嫌いは認めないって言ってたし、ちゃんと食べないと明日から食事抜きとか言われそう。
食べてみると、ロールパンは焼き立てのようですごく美味しい。
ポトフもサラダも程よい味付けで食べやすく、そして美味しい。
現実世界とあんまり変わらないとか思ってごめんなさい、めっちゃ美味しいです!
夢中になって食べていると、複数の足音が近付いて来た。
最初に入って来たのはアヤトくん。
そこから一人ずつ……
赤いショートボブの、素朴そうなコ。多分歳下っぽい。
藍色のツインテールの、真面目そうなコ。見た目小学生くらいなんだけど、あの娘も婚約者?アヤトくんの守備範囲広い。
私を迎えに来てくれた黒髪ロングの美人さん。歩く度に……胸が……揺れてます……私と同じか、一個上くらい。
その黒髪ロングさんとそっくりな美人さん。双子なのかな?でもこっちは全体的にスリムで、ちょっと厳しそうな雰囲気。
銀髪のポニテで、キリッとした背の高い美女さん。着ている服も騎士っぽいし、ゴブリンとかオークに捕まったら「くっ、殺せ!」とか言いそう……多分二つか三つは歳上だと思う。
もう一人いるんだろうけど、その人はよその町から引っ越してくるってさっき言ってたし……その人と私を含めたら、七人?
七人の侍ならぬ七人のヒロイン?なんかカッコイイ。
席につくと、みんな揃って私の方を見る。新しい学年になった始業式で自己紹介するような気分……と言うか、こうして見ると美少女ばっかり。
どうしよう、私一人だけ浮いてないよね?
いや、格好が既に浮いてるかも。一人だけブレザーの制服だし……
「彼女らが、俺の婚約者達。もう一人は、さっきも言った通り別の町から引っ越してくる予定だ」
それと、とアヤトくんは彼女達の方に向き直って。
「さっき話して分かったことだが、彼女――ナナミは異世界からの転生者だ」
え?いきなりそんなこと話していいの?
すると、赤髪のショートボブちゃんが挙手した。
「えっと、アヤトが仕えている女神様に連れて来られた人ってこと?」
しかも女神様のこともなんか知ってるし……
……ちょっと待って、女神様に仕えているってどゆこと?アヤトくんは転生者なんだよね?
「あぁ。元の世界で死亡して、異世界転生する際、女神様に『ハーレム無双するオリ主のハーレムに入れさせてください』とお願いしたらしくてな。それで何故か俺のところに押し付け……ゲフンゲフン、送り込んで来たようだ」
今、押し付けられたって言おうとしたよね?
「あの……やっぱり私、迷惑だよね……?」
「確かに迷惑だし、今後のことも考えると大変困るが……」
迷惑だし、困るんだ……普通に考えたらそうだろうけどさ、そこは作り笑顔で嘘でもいいからイケボで「そんなこと無いぞ」って言ってほしかった。
どうもこのアヤトくん、その辺のハーレム無双系オリ主とは一味違うっぽい。
「迷惑をかけている自覚があるのはいいんだが……ナナミ、もし俺がダメだって言って追い出したら、行く当てはあるのか?」
「ないです。路頭に迷います」
即答する。だってどうしようもないもの。
だからって娼館でカラダを売るのも、奴隷にされて人身売買されるのも嫌だなぁ……
「と言うことだ。ナナミ、君からも自己紹介を」
「う、うん」
アヤトくんから自己紹介するように言われたので、一度席を立って。
「き、今日からここでお世話になります、ナナミと言います。転生してきたばかりで、分からないことしかありませんけど、どうかよろしくお願いします」
背筋を伸ばして、直角45度に曲げる。
「はい、質問よろしいですか」
藍色のツインテールちゃんが挙手して、質問してもいいかと訊いてきたので「どうぞ」と応える。
「つまり、ナナミさんもアヤトさんの婚約者になる、と言うことでしょうか?」
アヤトくんは「俺の婚約者になる必要はない」って言ってたけど、イケメンだし、私としては結婚オールオッケーだしむしろ望むところと言わせてもら……
「リザ、それは違う。彼女の身元を保証するために、俺がその保証人になると言うことだ」
……アヤトくんが身元保証人になって、私がその庇護を受けられるって言う形になるんだ。ちょっと残念。
次に挙手したのは、黒髪ロングの双子の、スリムな方の人。どっちが姉で、どっちが妹なんだろ?
「アヤト様が保証人となり、この家で暮らすことは分かりました。それで、ナナミさんはどうなさるのですか?」
「ど、どうって……?」
目付きが鋭いせいか、本人はそんなつもりじゃないかもしれないけど、責められている気分……
「ですから、働かざる者食うべからず。何もせずにいるというのなら、私は受け入れを反対します」
あぁ、そう言うことね。アヤトくんが言っていたことと同じだ。
「一応……冒険者希望です」
冒険者希望であることを言うと、「そうでしたか」と引き下がってくれた。ホッ。
「よし、それじゃぁみんなも自己紹介してくれ。エリンから順番に頼む」
アヤトくんの隣席にいる素朴そうな赤髪のコから自己紹介が始まった。
「うん。私はエリン。元勇者で、今は普通の冒険者かな。えーっと、この世界から見れば、私も異世界転移者にあたるかな?」
……元、勇者?
こんな華奢でかわいい女の子が、元とは言え勇者なんだ……しかも別の世界から転移してきたって、最初の一人目から情報過多なんですけどー!?
じゃぁ次リザちゃんね、とエリンちゃんと言うらしい勇者ちゃんの隣、藍色ツインテールちゃんに目配せする。
「初めまして、ナナミさん。わたしはリザと言います。魔法使いの冒険者です」
ペコリとツインテールを揺らす、リザちゃんと言うらしい魔法使いちゃん。ローブにマントって、いかにも魔法少女って感じだ。
次にリザちゃんの隣席、黒髪ロング双子の、踊り子っぽい方の人。
「では改めまして……私はクロナと申します。この町とは違う冒険者ギルドから派遣されてきたギルド職員です。本職ではありませんが、冒険者としての資格もございます。以後、このクロナをお見知り置きくださいな」
雅やかに一礼するクロナさん。黒髪ロングと共に、その胸の谷間がたゆゆんと揺れて……ゲフンゲフン。
続けて、もう一人の黒髪ロング双子、巫女っぼい方の人。
「私はレジーナと申します。こちらの姉上……クロナ姉様の妹に当たります。私も姉上と同じくギルド職員で、副職として冒険者の依頼を受けることもあります。何卒、よろしくお願いいたします」
クロナさんと同じく雅やかな一礼を見せるレジーナさん。首下や羽織から見える、胸元や脇のチラリズムが、クロナさんとは違うベクトルで大変目に困ります。
最後に、銀髪ポニテ騎士さん。
「私はクインズだ。このパーティでは新参で末席だが、一応は冒険者だ。……私も実は、この世界から見れば異世界転移者だが、あまり気にしないでほしい」
この人もエリンちゃんと同じ、異世界転移者なんだ。それも、パーティの中では、私を除いて一番後に加わった人っぽい。
改めて思うと、異世界ハーレム系の主人公ってすごいよね?
ヒロイン達全員と婚約して、その関係責任を持つって言うんだから。
――ふと思い返せば、前世の高校一年だった頃、三年の先輩に気に入ってもらえていたけど、身体の関係を迫られた時に拒否したら、興味が失せたのかそのままなし崩し的に別れたとかなんとかってことになっていた気がする。
あれって私の身体目的で気に入っていただけ(簡単に言うけど体型の維持ってすっごい大変!)だと思ったし、決してアヤトくんがそんなのと同じでは無いと信じたいけど、……と言うかエリンちゃんくらい発育がいいならまだしも、見た目小学生くらいのリザちゃんレベルの女の子まで守備範囲が及んでいるのは、ある意味あの先輩以上の節操無しと言うべきなのか。
でも、ちゃんとエリンちゃん達のことを「婚約者です」と明言しているし、食事の好き嫌いは認めない、働かざる者食うべからず、をしっかり規律として決めているから、自分は偉そうに踏ん反り返って女の子とイチャイチャしているだけなんてことは無いし。
みんなの自己紹介も一通り終わったところで、ようやく私はこの家の一員として認められた。
「とりあえずは、役所に行って住民証を用意してもらわないとな」
さて、まずはナナミの住民登録から始めるとしよう。
ちなみに、俺とエリンが初めてフローリアンの町に来たその日は、リザに案内してもらうついでに住民証も発行していた。
クロナとレジーナは元々アトランティカのギルドからの出張と言う名目があったから、話もすぐに通った。
クインズは俺とエリンと同じく、住民証よりも先にギルドカードを作っていたから、書類だけ書いたらすぐに終わったけど。
みんなにはナナミの住民登録をしに行くと告げてから、外出。
役所でナナミの住民証を発行した(表向きは旅の途中で仲間とはぐれてしまったため、俺が身柄を保護した上で身元保証人と言うことになっている)ところで、役所の休憩所の売店で購入した飲み物を片手にベンチに座る。
「さて、ナナミ。これからの君の身の振り方についてだが……先に確認しておくが、一応、冒険者志望なんだったな?」
西暦日本からの転生者なら、このハイファンタジーな世界に何らかの幻想やロマンを持っているだろう。
投稿小説サイト『文豪家になろう』でも、ナナミのようなケースのオリ主転生モノは、ありふれたジャンルだからな。
ナナミは言葉を選ぶようにお茶を一口啜る。
「あ、この町に"鑑定"のスキルとか使える人はいるかな?それで適正とか見てから決めたいと思うの」
……あれだな、異世界転生者だから、チートスキルを持っているとか思っているんだろう。
何にせよまずは確かめてみようか。
「あぁ、何なら俺が鑑てやろうか?」
「出来るの?じゃぁ、お願いしようかな」
「よしきた。では失礼して――『ディスクローズ』」
鑑定――と言うよりも、被術者の情報開示だ。
ピロン、とVRMMOのコンソール画面みたいに表示させる。
と言っても、全部開示させてしまったら、女の子のトップシークレット(体重とかスリーサイズとか)まで表示させてしまうので、レベル・ステータス・スキル・アビリティ限定にして、開示。
えーっと、なになに……
―――
・伊織 七海
・レベル…1
・体力:E 筋力:E− 俊敏:E 魔力:C 魅力:D− 精神:E−
・【固有スキル】…『おえかき』:F
…魔力を帯びた筆やペンなどを用いて、空間に描いたものを実体化させる画力。実体化を行うには魔力が必要となり、描いた絵に応じて消費する魔力が異なる。
・【固有アビリティ】…『異世界転生者』:B
…何らかの要因によって別の世界からの転生・転移を受けた者。幸運期待値を上昇させ、自身にとって都合の良い状況を生み出す。
―――
「えっと、どうかな……?」
ナナミが期待と不安が綯い交ぜになった顔で見てくる。
これは、うーん……まぁ、多分普通の女子高生で、レベル1の時点でならこのステータスは分かるとして。
固有スキルの『おえかき』、ランクはF……最低ランクだ。
空間に描いたものを実体化させるとなると……これ、実用的に見えるけど、切った張ったの戦闘ではあまり役に立たないんじゃないか?ランクもFだし。
ただ、固有アビリティの『異世界転生者』はBランク……けど、幸運期待値を変動させると言うと、運が良くなりやすいってことか?
……目に見える確実性に欠ける不安定なアビリティ、としか言えないな。
ナナミの固有のスキルとアビリティについて説明すると、案の定、ナナミの顔がわなわなと震えながら愕然とする。
「そ、それってようするに……ハズレ……?」
「アビリティの方はともかく、スキルはハズレ……に見せかけた超有能スキルである可能性もゼロではないが、あまり期待しない方がいいかもしれん」
ハズレスキルを理由に追放されたからと言って、そのスキルの真価を発揮出来るとは限らないし、真価を発揮してもそれを認めてもらえなかったり、騙されて死ぬまで利用されるとか、色々と悪いケースはある。
「うーん、でも……アヤトくんの説明を聞く感じ、何かすごい力が秘められているみたいなことも無さそうだし……やっぱり現実の異世界はそう都合の良い展開にはならないかぁー……」
どよよ〜ん、と言う擬音が聞こえてきそうな勢いで項垂れるナナミ。現実の異世界ってすげぇパワーワードだな。
「まぁまぁ、今のは単なる適性検査みたいなものだ」
ナナミ本人の第一志望は冒険者だ。
適性だけを見れば、あまり向いているとは言えないが……
「そりゃね、せっかくの異世界転生なんだから、チートスキルで無双してみたい気持ちもあるよ?でもなぁ……」
俺が異世界転生に理解があるからって遠慮なくメタなこと言いまくってんなぁ。
しかし、魔力を帯びた筆やペンなどを用いて、空間に描いたものを実体化させる画力か……
……ん?このスキルはまさか、"アレ"とセットで用意されたのか?
「ナナミ、一旦家に帰ろうか」
「え?」
「君に見せたいものがある」
一度帰宅して、ナナミを庭先で待たせておき、部屋からある物を取ってくる。
それは、先程にナナミと一緒に降って来た、"でっかい筆"のことだ。
「それは?」
それは何かと訊いてくるナナミ。
「この筆は、ナナミが空から降って来た時に、近くに落ちていたものだ」
鑑定してみたが、やはりこの筆はただのでっかい筆ではない。
魔法の筆――即ち、"魔筆"。
「恐らく、女神様がおまけに用意してくれたものだろうな。君の『おえかき』のスキルと、この魔筆との相性は良いはずだ」
スキルはナナミの天性のものだろうが、魔筆の方は女神様がおまけに用意してくれたのだろう。
スキルに合わせた特典をくれてやったからあとは自分で頑張れ、と言うことだな。
しかし当のナナミは目を見開いて、
「えっ、何そのご都合主義展開。私、まだ追放されてないのにいきなり才能開花とかしていいの?才能開花しても役立たずで追放されるとかナシだよね?」
何を言うとるんだね君は。
「追放も何も、まだ役に立つかどうかも分からない段階だぞ?それとも、本当になんの役にも立たないハズレスキルだったら、婚約破棄でもすればいいのか?『ナナミよ!お前との婚約を破棄する!役立たずのお前は追放だ!』って」
「わー、コッテコテのテンプレ婚約破棄だ」
婚約破棄どころか、そもそもナナミと婚約するかどうかも定かじゃないんだが。
まぁ、それはともかくとして。
「はい、どうぞ」
「アッハイ」
魔筆を差し出すと、ナナミはそれを受け取る。
「あ、重そうに見えたけど、けっこう軽いんだね?片手で普通に持てる」
ヒョイヒョイと魔筆を上下してみせるナナミ。
リザのセプターみたいに自我を持つタイプでは無さそうだな。
「何か変わったことはないか?」
「変わったこと?うーん……分かんない」
ナナミや、魔筆そのものの波長が変わったりはしないらしい。
「ふむ。なら、その魔筆を使ってみようか」
「つ、使うって、どうやって?」
どうやってって?
そりゃもちろん……、……俺は知らんぞ?
うーんと……過去の異世界転生で似たような武器を使った時は、空間から画鬼を生み出して攻撃したりもしてたが……そんな感じか?
分かりやすく、分かりやすく、と……
「自分の中にある空気を掌に集めるんだ。大切なのはイメージ。腹の底から、掌を通して、ゆっくりと筆先に流すようにな」
魔力は目に見えない。
だから、詠唱を介することでそれを目に見える形に変換すると言ってもいい。
「空気を、掌に……」
集中すべく、ナナミは目を閉じて深呼吸を繰り返す。
さっき、ディスクローズで鑑た時の彼女の魔力は"C"。
レベル1の時点でこれは、それなりに高い初期値だ。
すると、ナナミの握る魔筆の筆先がポワ……と淡く輝く。
「あっ、なんか出来た!」
と、思ったら集中が途切れたせいか、筆先の輝きが消えてしまった。
「あ、あれ?消えちゃった……?」
だが、それでいいんだ。
「いいぞ、その調子だ。最初は上手く使えなくていい。魔力を出したり、引っ込めたりする、魔力を使うことそのものに慣れるんだ」
少しでも成長したら褒める。
褒められて、それを嬉しく思えるから、少しずつ自分に自信がついていくんだ。
「とにかく慣れろってことだね、よーし……」
俄然やる気になったナナミは、再び目を閉じて集中を開始し、魔筆の筆先を輝かせたり、すぐに消えたりを繰り返す。
何事も、最後に物を言うのはどれだけの下準備を積み重ねてきたかで決まるものだ。
いくらどれほどのチートスキルを持っていても、それを使いこなせなければ意味はないからな。
性能の違いが戦力の決定的差ではない、と通常の三倍速い人も言っていたし。
――とは言えあれは、本当に量産型の三倍の性能があるんじゃなくて、実際は30%増しくらいで、しかも推進剤の積載量は変わらないから、速く動けるぶん普通の量産型よりも早くガス欠になるらしいが。
つまり、才能勝負の話がしたければ、才能を使いこなせるだけの努力と、そのための情報収集と下準備ををしてからにしろってことだ。




