33話 マヤカシノダイセイドウ
ようやく集落らしい集落が見えてきた。
あれがオキザリス村か。
今となっては廃村で、オバケ達の住処になっていたらしいが、ムルタの影響によって魔物が蔓延っていると。
レジーナはさっきからクロナの背中に隠れているが、戦闘になったらちゃんと戦ってくれるか心配だな……
「……ん?なんだ、この霧は……」
ふと、オキザリス村を前にして、先導していたクインズが足を止めた。
気が付くと、俺達の周囲は霧に覆われ、辺りが真っ白になっていく。
「これは一体……」
クロナは懐から鉄扇を抜き、戦いになると感じ取ってかレジーナもクロナから離れて鎖鎌の柄に手を添え、エリンとリザも構える。
霧は見る内に濃くなり、少し先も見えなくなり……
……
…………
………………
次の瞬間にはパッと霧が消えた。
「ん……?」
しかし、辺りは急に暗くなり、夜になったかのようだ。
さらに言えば、周りにいたはずのみんなもいなくなっている。
今の一瞬で姿が消えた?
まるで、神隠しにあったかのように……
『ようこそ!ボクの夢の世界へ♪』
どこからか聞き覚えのある、人を小馬鹿にしたような声色が聞こえる。
辺りを見回して、背後にその姿――ムルタを捉える。
「夢の世界だと?」
『そうだよ、なろう系インチキチート転生者……いいや、アヤトくん?』
「なぁ、押し問答してる暇は無いから簡潔に答えてくれ。ムルタ、お前は一体何が目的だ?」
シュヴェルトとエスパーダの両国の緊張を煽って戦争を引き起こそうとしてるのは分かってるんだよ。
『うーん、そうだねー。簡単に言うと、君の力を頂戴しに来た……かな?』
「俺の力?」
力は力でも、何の"力"だ?
『もっと言うと、勇気の翠玉と、蒼海の護石、それと、龍神の瞳だよ』
勇気の翠玉、蒼海の護石、龍神の瞳。
その内二つなら持ってるけど、龍神の瞳は二つ前の世界でガルチラ達海賊団にあげちゃったな。ガルチラ達、今頃どこで何してんのかな。
「龍神の瞳なら、別の世界で海賊に渡したから持っていないが、勇気の翠玉と蒼海の護石ならある。……で、それを手に入れてどうするつもりだ?」
問題は、それを手にしたこいつが何をやらかすかだ。答えの如何によっては渡すし、あるいは絶対に渡してはならない。
『ボクが欲しいわけじゃないんだよね。ボクはその人に頼まれたから、君達を津波で沈めて、お宝だけをもらうつもりだったんだけど』
津波で沈めて?
「まさか、あの津波を起こしたのはお前か?」
『ピンポンピンポーン!だいせいかーい!』
はぁん?
マジか、あの津波は偶然じゃなくて、こいつが意図的に発生させたと言うのか?
『ほんとなら、津波で君達を沈めて、そのどさくさに紛れて奪うつもりだったけど、まさか自分で転移しちゃうとは思わなかったよー。さすが、なろう系のチーターはやることが違うね♪』
「はぁ……よく分からんけど、俺のせっかくの休暇を台無しにしてくれやがったのはお前だって言うのは、まぁ分かったかな……」
『おかげで、こんな世界にまで追い掛けるハメになっちゃってさー。ボクだって暇じゃな……』
「――ジャッジメントレイ」
ジャッジメントレイを照射、まばゆい光の柱がムルタをぶち抜かんと迫るが、
その寸前で、奴はまた霧散して消えた。
『おっとぉ?さすがに今のはやばかったかなー♪……冗談キツいって』
そうしてまた俺の背後へ現れるムルタ。
余裕ぶっこいてそうに見えて、ちょっと冷や汗かいてそうだな?
「お前ほんとめんどくさいな。あんまり俺に本気を出させるなよ、冗談抜きにしてこの世界が消えて無くなるぞ」
いやホント。マジで言ってるから。
「あと、次はもう逃さん。これでお前を確実にデリートだ。因子の0.一欠片も残さないから安心して分子レベルで死ね」
ジャッジメントレイ、✕5。
五筋の光柱を顕現して、ここら一帯全てを浄化し――
『それっと♪』
――しまった、それより奴の幻術の方が早かっ……
………………
…………
……
「ん?」
暗かったはず世界はいつの間にか明るくなっていた。
何より、世界の色が鮮明に見える。
空は青く晴れ渡り、その目の前に広がるは、大聖堂。
なんだこれは……夢か?
「アヤトー!」
聞き慣れた声に振り向けば、
白無垢のウェディングドレスを纏った、紅色のショートボブの美少女が駆け寄って来た。
「私達、今日で結婚しちゃうんだね!」
無邪気な笑顔を見せる、紅髪の少女。
「アヤトさーん!」
その反対側からは、藍色のツインテールの美少女。同じくウェディングドレス姿だ。
「わたし、アヤトさんと出逢えて本当に良かったです!」
さらに別の方向からは、
「「アヤト様ー!」」
黒髪ロングの双子姉妹も、ウェディングドレスで駆け寄って来る。
「アヤト様とこうして婚約を結ぶことが出来て、このクロナは果報者です!」
「今、私は一生で最も幸せな時の中に……アヤト様、私はとても幸せです!」
そして一番最後に、
「アヤト!」
銀色のポニーテールを靡かせた、長身の美女。彼女もまたウェディングドレスだ。
「まさか、騎士として王国に尽くすと誓った私が、こうして君と将来を誓い合うとは……ふふっ!」
五人の美少女達が皆、心の底から幸せそうな笑顔で寄り添ってくる。
ゴーン、ゴーン、と祝福のウェディングベルが鳴らされる。
あぁ、本当に幸せだ。
だから――
「鬱陶しい」
ロングソードを抜き放って、花嫁達の首を斬り落とす。
ニコニコした笑顔のまま首が地面に転がり――それら五つの首は、どこの誰とも知らぬ屍の顔になった。
――いつの間にか晴々した世界は再びモノクロ世界に戻り、霧も霧散していた。
俺の周囲には五体の首を失ったリビングデッドが斃れている。
『えっ、ウソ!?なんで今のが破られたの!?』
モノクロ世界の、ちょうど目前にある大聖堂の入り口にいたらしいムルタが驚愕している。
「"まやかし"ごときで俺を殺せると思うなよ、インチキ野郎」
全く、趣味の悪いまやかしだった。
俺じゃなきゃあのままリビングデッドどもに喰い殺されてたね……!
『ボクの術が効かないなんて、こんなの聞いてないよ……っ!』
おやおや、ご自慢の幻術が効かなくて慌てているな。
「自分の幻術に随分自身があるんだな。さては、自分の幻術が効かない相手と戦ったことが無いな?」
何をイキり散らかしていたかは知らんが、ようは自分よりも格下の相手ばかりして、己の力を過信していたか。
「と言うか……今ので分かったぞ。お前、幻術師じゃなくて、"インキュバス"だな?」
人の無意識下にある"夢"を読み取って意図的に見せつける……そう言うのが得意な幻術師もいるだろうが、眠りや夢に関する術はインキュバスやサキュバスの得意分野だ。
『くそっ、これで勝ったと思うなよ!』
そしてまた霧散するように消えるムルタ。
その反応は、大聖堂の中……地下に逃げたようだ。
「アヤト!」
すると、エリン達五人が俺に駆け寄ってきた。
うん、これは本物の彼女達だ。
ついでに置土産のつもりか、周囲の魔物達を呼び寄せていたらしい、四方八方からリビングデッドやヘルハウンド、スケルトンがわらわらとやって来る。
「すまないアヤト、奴のまやかしに遭っていたようだ!」
クインズは背中のトゥーハンドソードを抜いて身構える。
「あぁ。どうやらあのインチキ野郎は、俺が持っている物が欲しいらしい」
俺、エリン、レジーナ、クインズが四方に立ち、四人で囲うようにリザとクロナを守る。
「アヤト様が持っている物?」
クロナは鉄扇をバサリと広げて戦闘態勢に入る。
「それは後だ。とにかく今は、大聖堂に逃げた奴を追うぞ!」
俺の合図と共に大聖堂へ駆け出す。
当然、魔物達は俺達六人を追ってくるし、進路上にも魔物はいる。
「進路の啓開は任せてもらおう」
クインズは率先して先導しつつ、前から襲い掛かってくるリビングデッドの群れへ躍り出る。
「ふぅんッ!」
銀色のポニーテールをなびかせながら放つ薙ぎ払いが、リビングデッドの群れの上半身を次々に斬り飛ばしていく。
ただ力任せに振るっただけじゃない、トゥーハンドソードの重量にクインズ自身の重心移動を合わせており、まるでトゥーハンドソードを支点にポールダンスを踊っているかのようだ。
「私も!」
クインズの隣に立つように、エリンもショートソードでリビングデッドの群れを斬り捨て、時には盾で殴り飛ばす。
その後方では、クロナが水属性の魔法陣を顕現し、
「――アクアブラスト!」
アクアブラストを、すぐ前方の足元に注ぎ込むように放つ。
水圧は殺されているのでリビングデッドやスケルトン達の撃破は見込めないが、奴らの足元が水浸しになる。
「リザさん、雷の魔法を!」
「分かりました!」
クロナの意図を読み取ったリザは、すぐさま雷属性の魔法陣を顕現、
「――ライトニングスピア!」
ライトニングスピアを地面に突き立てるように放つ。
着弾、同時にライトニングスピアの稲妻が、アクアブラストによって水浸しになった地面を駆け巡り――その結果はお察しの通りだ、地に足を付けている奴らは揃って電撃を直撃、全身を痙攣させてバタバタと斃れていく。
だが、それは地上にいる奴らだけだ。
骨だけになった蝙蝠――ボーンバットの群れも空から現れ、俺達の上から強襲してくる。
ここは俺が――
「アヤト様、私にお任せを」
と思ったらレジーナが鎖鎌を構えながら詠唱を開始している。
「――『グラヴィトーン』!」
すると、ボーンバットの群れを包むように強烈な磁場――重力が発生し、ボーンバット達はボトボトと地面に縫い付けられていく。
なるほど、重力属性の魔法だな。
で、地面に落ちて動けないところを美味しく焼いてやれと、そういうことだな。
「――フレイムランス」
ちょっと出力控えめのフレイムランスを放ち、重力に抗おうともがいているボーンバットの群れを焼き払う。
さて、追手は大体排除出来たかな。
前方を見やれば、エリンとクインズによって倒されたリビングデッドやスケルトンが文字通り死屍累々と積み重なっている。
進路の確保も出来たようだな、では大聖堂の中に入るとしよう。
大聖堂の中も、廃村と同じように朽ちており、ところどころに壁が崩れて瓦礫になっている。
「アヤトさんの言う通りなら、あの幻術師は地下に潜伏しているんですよね?」
リザが大聖堂を見渡しながら、ムルタの位置を確かめようと俺に訊ねてくる。
「奴の反応もこの下だ。となると、どこかに地下に続く階段があるはずだ。それと、奴は幻術師じゃなくてインキュバスのようだ」
とはいえ狡猾な奴のことだ、そう簡単に地下へ降ろさせてくれるとも思えない。
……それにしてもあの野郎マジで性格悪いわ、人の夢を弄ぶような真似しやがって。
俺を惑わせようとしたのは五億歩ほど譲って許せなくは無いが、その惑わせ方が婚約者の存在を騙るようなことだ。
普通の人間なら、幸せな夢に囚われたまま死んでいったのかもしれないがな。
奴の口振りから察するに、そう言うやり口で今まで何人もの人間を惑い殺してきたんだろう。
あー、考えれば考えるほど腹が立ってきたな、よし、奴は死なない程度に殺そう、5/6殺しにしたる。
「ア、アヤト……なんかすごい怒ってる……?」
エリンが恐る恐る俺のことを窺ってきた。
すごい怒ってる、か。
うん、確かに俺は今けっこう怒ってると思う。
「いくら夢幻とは言え、俺の大事な婚約者達を騙るような真似をしてくれやがったからな、激おこぷんぷん丸ファイナリアリティインフェルノヴァだ、はっはっはっ」
とりあえず笑うことで怒りを誤魔化そうとするが、滲み出る殺気はちょっと抑えられそうにない、すまんな。
「確か、オキザリス村の大聖堂の、地下への階段ならこちらにあったはずだ」
クインズが先導して、地下階段のある場所へ案内してくれる。
一度廊下に出て、非常用と思しき下へ続く階段を見つける。
……案外簡単に見つかったな?
「ん?階段があるのはここだったか?覚え違いか……」
クインズはこの位置に階段があることに違和感を覚えているようだ。
本人は覚え違いと言っているが……
いや……この地下階段、まさか。
「待てクインズッ、その階段は危険だ!」
「なに?それはどういう……」
しかし一歩遅かったか、クインズは既に片足を階段に乗せており――瞬間、地下へ続く暗闇から何本もの触手が飛び出し、彼女の身体に絡み付き、そのまま引き摺り込んだ!
「なっ、しまっ……罠っ、かっ……!?」
「クインズさん!?」
引き摺り込まれたクインズに、エリンが慌てて覗き込もうとするが、それは止めさせる。
「迂闊に近付くな!巻き込まれるぞ!」
やっぱりそうか、こいつは『ミミック』の一種、『ステアミミック』だ。
よくあるミミックは、宝箱に扮しているものだが、中には階段のフリして降りようとした人間を捕食するようなものもある。
「えぇぃっ、離せ……っ、ひぃっ!?なっ、何をするっ!?くふっ、やめっ……あぁッ!?」
そう言えば、トラップに引っ掛かって身動きが取れない女戦士とか女僧侶とかが、低級の淫魔とかに好き放題サれちゃう展開とかもよくあるなぁ。
……じゃなくてだな。
「ど、どうするのアヤト!?」
「こう言う手合いの相手には……こうだ!」
階段の近くで震脚、ズガンと床を踏み鳴らし、その震動でステアミミックを攻撃する。
その拍子に、階段の闇からクインズが吐き出されてきた。
震脚による震動ダメージで力尽きたらしいステアミミック、つまり扮していた階段ごと消失していく。
「クインズ、大丈夫か!」
「はぁっ、はっ……だ、大丈夫、だ……だ、だからっ、み、見るな……!」
そのクインズと言えば、触手の粘液まみれになり、荒い吐息で頬が真っ赤になりながらも、必死に身体を隠し
……って、これは俺が見たらあかんやつや。
一瞬とは言え見てしまったが、あのステアミミックの触手に犯されかけていたのか、クインズの装備やインナーが剥ぎ取られ、その下の素肌が露わになっていた。
俺が対処してなかったら、きっとR-18なコトになっていただろう。
「クインズさん、お手伝いしますね」
「アヤト様、失礼します」
クロナがクインズの乱れ姿を正すのを手伝い、レジーナには目隠しをされる。
エリンとリザは無防備なクインズを守るために周囲を警戒してくれているようだ。
「あ……あのような辱めを受けるなどっ、クッ……!」
辱めを受けるとか「クッ!」とか言うんじゃありません。
クインズの身形も正してから、改めて階段探しだ。
程無くして再び階段を見つけたが、これもステアミミックの可能性もあるので、俺が鑑定魔法で調べてみて……どうやらこれは本物の階段のようだ。
とは言え、中には鑑定魔法すら誤魔化せるミミックもいるので、念には念を入れて俺が最初に階段に足を入れて、トントンと足でノックしてもしもーし。
……よし、これは大丈夫だ。
階段を降りて地下へ降りると、途端に邪気が強くなった。
ムルタが根城にしている場所だけあるということか。
こんなところにもスケルトンの皆さんが剣や槍を手にお出迎えに上がってくれるのは、これっぽっちもありがたくないので吹き飛ばして行きつつ、邪気の根源らしき部屋の扉を発見する。
特に構えることもなくドアノブを捻って、鍵が掛かって動かない――ので、力尽くで蹴り飛ばします。
「おりゃっ」
バガァンッ、と派手な音を立てながらドアがバウンドしながら部屋の中へ吹っ飛んでいく。
RPGなら、ボス部屋の鍵とか見つけなきゃならないんだろうけど、そんなまどろっこしい真似なんぞ付き合ってられん。
今の俺は大変機嫌が悪いのだ。
ついさっきにクインズの半裸を見てしまったことでちょっとドキドキしたけど、それとこれとは感情が別だ。
『えっ、ちょっとちょっと!そこは鍵を開けてから入ってよ!?』
部屋の奥には、ドアを力尽くで開けたのが良くなかったのか、ムルタが驚きながら怒っている。
「――『アンチドート』」
とりあえず逃げられる前に封印魔法。
これで奴の面倒な幻術は封じた。
術者である俺を殺すか、俺以上のチート能力やスキルを使わない限り、奴は自分の得意分野を活かすことは出来ない。
『……ははっ、そんなにボクのことが許せない感じ?』
自慢の幻術が使えなくなった割には随分余裕だな、やっぱりチートスキルか何かでこっちの手を引っくり返すつもりか。
「逆賊ムルタ、我が国シュヴェルトとエスパーダで戦争を引き起こそうとするなど、何が目的だ!」
クインズはトゥーハンドソードを抜き放って一歩前に出る。
『簡単だよー♪両国の間で戦争を起こして、アヤトくん達をそれに巻き込ませて、そのどさくさに紛れてアヤトくんの持っている物を頂戴するだけ♪』
「アヤトの持っている物だと?」
クインズが何のことかと疑問に思っているので、教えておこう。
「勇気の翠玉と、蒼海の護石。その二つを今俺が持っていて、ムルタは誰かに頼まれて、それを奪いたいらしい」
誰の差金かは知らんが、人の夢を弄ぶような奴に渡したら絶対ロクなことにならないって言うのは間違いない。
「そんなもの……そんなことのために、戦争を起こそうとしたのか!?」
『……ゴーマン第一王子を唆すのは簡単だったけど、アレックス第二王子が思いの外邪魔で、まさかアヤトくんまでもが状況に介入してくるとは思わなかったけどねぇ』
はぁ、と幸せが逃げそうな溜息をつくムルタ。
「許さん!貴様は何としてでも討ち取ってくれる!」
「待て、クインズ」
逸ろうとするクインズを制する。
「奴はインキュバス。術を封じているとは言え、どんなインチキを使って来るか分からん。無闇に突っ込むな」
「っ……」
最初のまやかしや、先程のステアミミックのことを思い出したのだろう、クインズは歯噛みしながらも思い留まる。
『インチキとは随分な物言いだね、そのインチキすらも封じたくせに……』
「こちとら、お前が言うところの"インチキチート転生者"の相手くらい何万回もしてるんでな、潰せるものは潰させてもらう」
『……こんなの、どうしろと?』
やはり、奴は幻術無しではまともな戦闘力は無いらしい。
なら、後はサクッと滅するだけだな。
「わたしは、アリス」
……と思ったら、いつのまにかムルタの背後にウサ耳のゴスロリ――アリスAちゃんがいた。
『アリス!ボクを助けに来てくれたんだね!』
援軍が来たと思ったのか、ムルタは嬉々とアリスに駆け寄る。
――その視線はムルタじゃなくて、何故か俺に向けられている。
『あいつ、ボクに封印魔法なんて使って来たんだよ!こんなのどうしようもないって!』
「あなたは、もうアリスじゃない」
『へ……?』
なんだなんだ?アリスじゃなくなったらどうなるんだ?
すると、アリスAちゃんの右手が徐ろにムルタに向けられ――指先から妖しそうな色の光が溢れ、ムルタを包み込んでいく。
『アッ、アリス!?なにっ、これっ……くそっ、ふざけんなよっ!ボクはっ、君のためにどれだけ、ァァァァァ……』
「かわいそう、あなたはもうアリスになれない」
やがて妖光が消えると、その内側から――ブヨブヨウネウネしたような、大型の怪物になった。
多分白い体表に、浮き出た血管みたいな筋が脈打っている。
控えめに言って――
「ひっどい趣味だね」
ショートソードを抜きながらエリンがそう断言した。そんなきっぱり言ってやるなよ、可哀想だろ。
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