27話 ボーナスステージ!
どこに行くのかと言っても、この宿の中のようだ。
なんだろう、宴でも開いてくれるのかな?
あ、お酒はあかんやで。お酒は……、……この国の法律の飲酒喫煙はいくつになってからだろう?
まぁいいか、(今世では)17歳の俺はともかく、エリンとリザは15歳と14歳だし、多分まだ飲んだらいけないだろう。
目的地は、二つに分かれた部屋になっている。
化粧室ではないな、更衣室だろうか。
「ではアヤト様、右手の男性用更衣室で、こちらに着替えてください」
そう言ってクロナが差し出してきたのは紙袋。
「着替えたあとはそのまま奥へ進んでくださいな」
それでは私も失礼致します、とクロナは左手の女性用更衣室へ入っていった。
これは……ふむ。
クロナの指示通りに、男性用更衣室に入り、紙袋を開いてみると。
それは、少し厚い生地で出来たパンツ。
パンツはパンツでも、海パンだな。
あー……はいはい、エリンとリザが集会所に残された理由がわかったぞ。
海パンに着替えて、荷物はロッカーに入れて施錠して。
で、奥に進んでドアを開けたら……
「おぉ、プールだ」
見事な屋内プール場だった。
広さ自体は小規模な市民プール場とそんなに変わらないんだが、利用客が他にいないのだ。
すげぇな、やっぱり大都市は金の掛け方が違う。
「あ、アヤトー」
金の力にすげースゲーと思ってたら、反対隣……女性更衣室だろう方向からエリンの声が聞こえてきたので、振り返ったら、
素 晴 ら し い 光 景 が 広 が っ て ま し た 。
エリンとリザだけじゃない、クロナとレジーナまでもが水着に着替えてるじゃないか。
なにこの桃源郷、なにこの天国、なにこのユートピア。
「下着みたいでちょっと恥ずかしいけど……どうかな?」
あぁ、エリンと、恐らくリザも水着は初めてか。
どうかって?かわいい!似合ってるぞ!最高!ファー!!
心中で発狂している俺だが、それは表には出さない程度には理性だって鍛えているぜ。
「もちろん、似合っててかわいいぞ。というか、さっき集会所に残っていたのは、採寸のためだったのか?」
「えへへ、ありがと。身体のサイズ測って何するんだろうって思ってたけど、こういうことだったんだなーって」
そのエリンの隣では、リザが恥ずかしそうにもじもじしている。
「そ、その……アヤトさん、わたしは……うぅ、ごめんなさい……」
恥ずかしそうに……というかなんで謝る?
腕で肩を抱くように胸の前を隠している辺り……あぁ、他三人と比べて身体の凹凸の差があり過ぎる(特にクロレジ姉妹)から。
だが何も言わないわけにはいかん、リザにはリザらしい魅力があるということはちゃんと伝えねば。……決して「『一部の層』に対しては破壊的までな魅力に溢れている」なんて思ってないぞ。
「謝らなくていい。リザだって十分かわいくて似合っているし、そんなに恥ずかしがってばっかりじゃ、クロナやレジーナのせっかくの厚意を無為にしてしまうぞ?」
リザにもこのプール遊びを楽しんでほしい。
あと、髪を結ってお団子にしてるのもかわいい。
「あ、ありがとうございます……でもやっぱり恥ずかしいからあんまり見ないでくださいっ」
そう言ってタオルで身体の前を隠してしまうリザ。
で、クロナとレジーナと言えば。
「アヤト様、私達はいかがでしょう?」
「あまりお見せするようなものではありませんが」
クロナは元々露出度過多みたいな格好だからそんなに変わらな……い、わけあるか!それとこれとは話が別です!Oh sexy!!
むしろレジーナこそ水着に抵抗感を見せそうなものだが、意外と堂々としている。クロナと比べても露出度が低めだったから、素晴らしい……!
「もちろん二人ともとてもよく似合っているし、色合いも雰囲気によく合っているな」
フゥ、これを拝めただけでも、女神様に休暇をお願いした甲斐があったと言うものだ。
「お褒めに預かり光栄です。良かったわね、レジーナ」
「は、はい……」
似合ってる、とか、かわいい、とかしか言ってないんだけど、みんな喜んでくれたようで何よりだ。やっぱり褒めてほしい時はそれを言葉にしてほしいものだな。
「ギルドマスターのご厚意により、本日このプール場は貸し切らせております。何か必要があれば、周囲で控えている方々に申し付けくださいませ」
クロナがそう言ってくれたように、周囲にはメイドさんが何名か控えてくれているから、欲しいものがあれば、すぐに用意してくれるのだろう。執事がいないのは、エリンとリザに対する気遣いか。
まさにプライベートプールだな。
さてそれでは早速プールに入りましょうというところで。
エリンはプールに近付くと何故か怪訝そうな顔をした。
「これ、もしかして温かくない?」
「ん?温水プールというわけでは無さそうだな」
試しにプールに手を入れると、やはり温かくない。常温水くらいだな。
よし、ならば俺が率先してみせよう。
身体が水温に慣れていないまま飛び込むと心臓に悪いので、ゆっくり入るのだ。
ふむ、大体1mくらい。
水泳をするわけではないからこんなもんだろう。真っ直ぐ立って、リザの胸が浸かるくらいか。……リザの胸と言ってもバストサイズの話ではないぞ、水深の話だからな?
「入って大丈夫?風邪ひいたりしない?」
「室内だからそこまで冷たいわけじゃないぞ。ぬるま湯が少し冷めたくらいだ」
「じゃぁ、私も入ってみよっかな」
エリンが俺の真似をするようにそろーっと足から浸かっていく。
「ふぅ、そんなに冷たくないね。気持ちいいくらい」
水に身体を浸けながら歩こうとするエリンだが、
「……あ、歩きにくいね?」
「水圧の影響だな。こういう場所では歩くより、泳いだ方が速いぞ」
例えばこんな風に、と壁際まで移動して――壁を勢いよく蹴ってクイックターン、からのクロール。
「え、なに、すご、はや!?なんだか魚みたい!」
俺の超速クロールを見て、エリンが驚きながらはしゃいでいる。
フフッ、過去の異世界転生で霊長類最速のスイマーに憑依していた頃を思い出すぜ。
「ぷはっ……とまぁ、こんな感じだな」
端まで泳いだところで顔を出して深呼吸。
「さすがはアヤト様、水泳もお上手ですね」
クロナが手放しで褒めてくれる。ドヤァ。
「アヤト様……実は魚類の遺伝子など含まれておりませんか?」
プールサイドから様子を覗っているレジーナから失礼なことを言われた気がした。誰が魚類やねん。
「えーっと、こんな感じで、こう……!」
すると、エリンもクロールに挑戦しようとするが、
「あぷっ、わぷぷっ……あ、あれ、全然進まないっ、よぅっ……」
……どう見てもあれは溺れているな。
水に慣れていない人間が無理に泳ごうとすると、大抵あぁなるんだよなぁ。
「エリン、まずは足を底に付けて落ち着くんだ」
「え?あ、うん」
俺の指示に従って、泳ぐのを止めてその場で立つ。
「いきなり泳ぐのは無理だ。まずはゆっくりバタ足から練習しよう」
「お、お願いします」
「わ、わたしもお願いしますっ」
リザも慌ててやって来た。
プールでのんびりするはずが、水泳教室になりそうだな……
エリンとリザに泳ぎ方をレクチャーしたり、クロナやレジーナと競泳したり(結果は俺の勝ちだったけど、二人ともメチャクチャ速かった)していると、もう夕方頃になりつつあったので、そろそろお開きだ。
昼過ぎ辺りだったのに、楽しい時間が経つのは早いなぁ。
「はふぅ、いっぱい泳いだぁ……」
ちょっと疲れちゃった、とエリンは背伸びしている。午前中はあれだけ戦った上から、午後は水泳教室だったもんな。
「疲れましたけど、楽しかったですね」
最初は怖がっていたものの、だんだんと水に慣れていったリザ。楽しめたならよしとしよう。
「御三方、このあとはご夕食になります」
「慌てずにごゆっくりと着替えてくださいね」
タオルで丁寧に髪を拭いているレジーナとクロナ。この二人が水に滴っていると色気が凄まじくて俺の理性に大変悪いです。
さて、早いところ着替えて夕食を待つとしようか。
夕食と、その後の入浴を終えた後は、水の霊殿での戦いとプール遊びに疲れたらしく、エリンとリザは早い内に就寝についてしまった。
うんうん、ぐっすり眠れるに越したことはないな。
そんな俺は、自室に戻ったあとは紅茶を片手に、窓から見える星空の下で、ぼんやりと物思いに更けていた。
その内容は――水の霊殿を出てすぐ、ほんの僅かな間だけ感じていた、謎の妖しい気配。
あれは、時空の歪みによく似ていた。
だが、アリスAちゃんのそれとも異なるものだった。
マオークの魂の残滓?いいや、奴は魂もろとも浄化してやったはずだし、それらしい気配でもなかった。
ほんの僅か、俺の中の誤差の範疇である可能性もあるが、あれは……なんだかどこか、寂しさと、諦念と……『孤独』が感じられた。
誰にも顧みられず、やがて存在すらも忘れられて、そして『最初から無かった』ように消えていく。
……孤独、か。
今世では、エリンやリザと婚約すると決め、肌を重ね合う仲になったが、死によってこの肉体から魂と記憶が切り離されてから天界に還り、そしてまた別の時空の別の肉体(あるいは物体、思念体)へ派遣される。
そうした先でもまた誰かと結ばれ、愛を囁き、肌を重ね合い、子を生み、託してその世を去り、また天界に還る。
結局、"俺"はずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、『生まれてからずっと独りぼっち』なんだ。
普段は「自分は孤独なのだ」と思わないように『意識を殺している』のだが、あの妖しい気配から『孤独』を感じてしまったせいか、やけに感傷的になってしまった。
……ふぅ、こんな時はさっさと寝て忘れるに限るな。
紅茶を飲み干し、口を濯いでからベッドに入ろうとして、
コンコン、とドアノックの音が。
「はいはい、そちらさんはどちらさんですかい?」
エリンかリザだろうかと思っていたら。
「アヤト様、クロナでございます」
「同じく、レジーナでございます」
オロ?まさかのクロナとレジーナだった。二人はプール遊びのあとは自宅に帰ったんじゃなかったか。
まぁいい、とりあえず応じるとしよう。
ドアを開けたら、二人とも寝間着姿だった。
「夜分遅くに失礼致します」
「そろそろ寝るつもりだったが……何か、事件か?」
……火急の件でも起きたのかと内心身構える。
「いえ、至って平和ですよ」
クロナはそう答えてくれたが、それでは余計に分からん。
続いてレジーナが口を開く。
「アヤト様。此度は、アトランティカを呪いから解き放ち、別世界の魔王を再び討ち果たしたこと、私達姉妹、心から感謝と敬意を表します」
深々と雅やかなお辞儀をしてみせる二人。
「そんな大仰な挨拶をしに、わざわざここへ来たのか?」
だとしても、寝間着のままで来ることもないはずだ、何となくそれだけでは無い気がする。
「それでですね……アヤト様。昨日に、バーロックスの砦に侵入する前、私に言ったお言葉を覚えていますか?」
バーロックスの砦に侵入する前に言った言葉?
んーと、なんだっけ……?
「……「報酬は少し弾ませてもらおうか」、だったか?」
「はい、その通りです」
うむ、その通りだったな。
そして次にレジーナが、ものすごく恥ずかしそうに、
「で……ですので、その、"報酬"をお支払いに参りました……」
報酬?
いや、レジーナ奪還の報酬は既にいただいたけど……
しかし同時に、俺のその後でクロナが言ったことも思い出した。
――契約金として払えるものはありませんが……その、私の"身体"でよければ、手付けとして好きにしていただければ……――
は?まさか……いや待て、つか、あれマジで言ってたのか?
俺の脳内が急速に回転してその言葉の意味を解しようとしている間にも、クロナとレジーナは部屋に踏み入ってくる。
「さぁアヤト様、今宵は私達姉妹が、夜のお相手を……」
「か、か、覚悟、なら、出来ております……ッ!」
ガチャリとドアが閉じられ、鍵まで閉められた。
あぁ……やっぱりあれ、マジで言ってたのか。
「……なぁ二人とも、その前にひとつだけ確認する」
エリンとリザと一緒に"初夜"を過ごした時と同じだ。
「その"夜のお相手"というのは、本当に義務によるものだけか?それだけなら、俺はお断りする」
お断りする、という言葉を聞いて、クロナとレジーナの動きが止まる。まぁ待てよ。
「けど、だ。俺としては、二人はとても魅力的な女性だと思っている。だから、二人が望むのなら『これから先の全てを受け容れる』覚悟もある。……ようは、「ここで一線を越えたいと言うなら、俺と結婚してくれ」ということだ」
お付き合いするなら結婚前提で考えてね、ってことだな。
「「………………」」
俺の偽りひとつない言葉を受け、クロナとレジーナは顔を見合わせ――互いに頷いた。
「アヤト様。私もレジーナも、元よりそのつもりでここへ馳せ参じました」
「先にも申し上げた通りです。「覚悟は出来ております」と」
いいだろう、その覚悟、承った。
……エリンとリザには"事後"承諾になるが、説き伏せてみせよう。
「分かった」
クロナとレジーナの二人をベッドに招き入れる。
このあと、めちゃくちゃ蜜月の夜を過ごした――。
………………
…………
……
そうして濃厚な一夜を明けてから、クロナとレジーナが俺の婚約者に含まれることになったことをエリンとリザに話したら、
「うん。なんとなくそうなるんじゃないかって思ってたし、私はもちろんいいよ」
「不潔です!えっちです!……でもきっとアヤトさんのことだから、拒まずに受け入れちゃったんですよね」
(リザには怒られながらも)理解を示してくれた。すまんな。
というか、エリンの悟り具合がやばい。自分が正妻であるが故の余裕なのか?
もう数日をアトランティカで、エリックマスターからの依頼を受けたりしつつ過ごせば、いよいよフローリアンの町へ帰る日になった。
クロナとレジーナは、エリックマスターに俺の婚約者となったことを話し(エリックマスターは大変驚いていたが、俺達の関係には納得してくれた)、これからは基本的にフローリアンの町で過ごすことになるが、定期的にアトランティカのギルドにも帰ってくることを約束していた。
まぁ、こっちの役所仕事とか、海巫女のお役目とかもあるだろうし、そのくらいは俺も了承済みだ。
旅支度を済ませ、いよいよアトランティカから出港する時が近付いて来た。
船員さん達が慌ただしく出港準備を整えている中、俺達"五人"はエリックマスターに見送られていた。
「アヤト殿。短い期間であったが、尽力してくれたこと、感謝の言葉も無い」
「いえ、俺達は俺達の役目を全うしたまでのことです」
「クロナとレジーナを婚約者として迎えたいと聞いた時は本当に驚いたが……アヤト殿なら心配あるまい。二人を、よろしく頼む」
「えぇ、末永く大切にします」
社交辞令の最後に、カッチリと男の握手を交わして。
さぁ、出港だ。
行きと同じ客船に揺られながら、今後のことについて相談だ。
今あの家では、俺、エリン、リザの三人で個別に使って、残る一部屋は物置にしているが、クロナとレジーナもそこへ住むとなると、一部屋足りない。
まぁ足りない分は俺が妥協すれば良かろうと思っていたのだが、クロナとレジーナは一つの部屋をシェアする、という案を挙げた。
元々二人は寝室も共有しているそうなので、姉妹で同じ部屋で過ごすことに抵抗は無いらしい。
部屋の問題はこれでよしとして。
そうしてのんびりしてたら……
「――さぁ、その力をアリスに渡してもらおうかな――」
「……?なんだか空が暗くなってきましたね?」
リザが空を見上げた。
つられて見上げてみれば、分厚い曇が空を覆い尽くしている。
「妙ですね、今日のこの辺りのこの時間帯、曇るようなことはないはずですが……」
レジーナは訝しげに曇天を睨む。
そして間もなく豪雨と雷が降り注ぎ、凄まじい突風が船に襲いかかってきた。
嵐の中にでも突っ込んだか?
「どうしてこんな嵐が……皆様っ、早く船室に……!」
クロナは船室に避難するように呼びかけてくれるが、しかし船の揺れが酷いな、転覆するんじゃないかってくらいだ。
「あっ……ア、アヤト、なんかやばそう……!?」
エリンが慌てて指を差したその方向。
「……津波!?」
マジかよ!?いくらなんぼでもそれは聞いてないぞ!?
このままでは津波に船が呑み込まれる。
……やるしかないか。
スマン女神様、俺ちょっと今から"ルール違反"するわ。
「――マーゴケラヒ ヨンモ ノイカセイ!!」
ルーンを顕現、詠唱。
すると、俺の目の前の空間が"開き"、その内より闇が渦巻く。
「みんな!俺に掴まれ!」
「アヤトさんっ、一体何を……!?」
「十秒以内に掴まれ!早く!」
リザの問い掛けに答えている暇はない、とにかく早く俺のどこかに掴まるように言いつける。
クロナが右腕、レジーナが左腕、エリンが背中、リザが胸に、それぞれしがみつくのを確認する。
「しっかり掴まっていろ!」
この状態で縮地、"開いた"空間の中へ飛び込む。
その0.5秒後に空間を閉じ、次の瞬間には船が津波に呑まれるのを感じ取った――
………………
…………
……
次回から新章に入るので、しばしの準備期間に入ります。
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