第1-⑦話:ウラ世界
しばらく待っていると、記憶屋が戻ってきて、私たちの前にカップを差し出した。アツアツの紅茶を一口飲もうと、必死に息を吹きかける。
私と記憶屋が一口飲んで、ホッとしたのを見てから、仲介人が言葉を発した。
「それでは、本題に入るとしよう」
仲介人が膝の上で手を組み、私をひたと見つめる。
いよいよ始まる。取材の時だ。
「め、メモを取って大丈夫ですか」
「もちろん」
カバンからメモを取り出し、ペンを握りしめる。緊張で汗が出てくる。普段は手汗なんて出ないのに。この時ばかりは、本当に手が汗で湿って、メモ帳がたゆんで書きにくくなるほどだった。
「まずはウラ世界についての説明を」
ウラ世界とは、他人とは少し違う人々が住まう世界である。
例えば記憶屋。彼は人の記憶を取り出し、嫌な記憶を消したり、死者の記憶を保管したりする。常人に行えるはずがない。
そういった人々を管理下に置いて、統制を図っているのが仲介人である。
「私が管轄できているのは東京だけです。一人の身ですので、日本全国、ましてや海外まで統括することはできません。そこで、貴方の出番です」
私が取材をして、記事を書くことでウラ世界にいたほうがいい人を東京に集めたいという。私にそこまでの影響力があるだろうか。記者になって早三十年近いが、ビッグニュースを掴んだこともなければ、人気のある記事を書けるわけでもない。
それでも私を選んでくれたのだから、私は誠意をもって仕事をするだけだ。
「これまで取材はしないようにしていましたが、それではいけない。そう思い、貴方を起用させていただきました」
「光栄です」
ウラ世界は知る人ぞ知る世界。だって、記憶を操れる人がいるなんて大々的に宣伝すれば、様々な人がやってきて危険だ。超能力てきなものに憧れるのは、なにも自分だけではない。ただ話をしたいだけならまだいいが、そういう人は少ない。誘拐されたり、悪い人に利用されたり。戦争の起因になる可能性もある。
国で保護をするのが一番なのだろうが、それはきっと難しいのだろう。だから仲介人がこうやって動いているのだ。
「ウラ世界を取材するにあたり、もしかしたら危険な目に合う可能性もあります。それでも、貴方にはもう拒否権を与えられません。知ってしまったからには巻き込むしかない。墓場まで秘密を持っていってもらわなければ」
そう話す。恐ろしいことだ。それでも取材を希ったのは自分自身だ。だから、逃げるなんてことはしない。
仲介人は続けてルールについて話した。