第1-⑥話:洋館の中
記憶屋を先頭に、私は一歩踏み出した。
洋館は三階建てであった。玄関があるところが、半円に突き出ている。
外壁は茜色のレンガで、花や草木、鳥などが描かれている。やや細長い窓には柵があり、蔦が巻き付いている。
記憶屋が玄関のドアを開けて、中へと案内される。
入ってすぐに目に入るのは、中央奥にある大きな階段と天井から吊り下げられたシャンデリアだ。ガラスなのか宝石なのかはわからないが、煌めいている。
「どうぞ、靴を履いたままで構いません」
「あ、どうも」
そうだ、ここは家の中だ。普通なら靴を脱ぐところだが、通常の家と違って床が石だ。フローリングや木じゃないだけで、靴を脱がないことに違和感を持たない。家というより、ホテルに似ている。ホテルは部屋に入るまでは靴を履いたままだから。それに、博物館や美術館といった建物も想起させる。だから、靴を履いたままでもとくに気になることがないのだろう。
三人分の足音に加え、仲介人が持っている杖の音がリズミカルに響く。
玄関、というよりロビーから右手に進み、部屋へと案内される。
ソファにテーブル、棚があり、壁には絵が飾られている。隣の部屋と繋がっているのか、ドアがある。
記憶屋と仲介人、私という二対一の状態で別れてソファに座る。私の前には仲介人がきて、真正面でペストマスクと相対することになった。正面にくると少し身構えてしまう。
「少しお待ちください。お茶を持ってきますので」
記憶屋が部屋を出ていき、仲介人と二人になる。
時計が針を刻む音が鮮明に聞こえる。とても静かだ。意外なことに外の音は聞こえない。防音になっているのだろうか。
何か話そうとも試みたが、仲介人はあまり話をしたがっていないように見えた。彼はあまりお喋りが得意ではないのだろう。必要なことがあれば話すが、それ以外の時は口を閉ざし、場を静観している。何を考えているのかわからない。だからこそ緊張する。
私はテーブルに置かれている花瓶を見た。花が生けられているが、それはよく見ると造花であった。ややホコリを被っている。掃除を怠っているのだろうか。そう考えると、記憶屋への親しみを覚えた。