第1-⑤話:公園の奥へ
目を向ければ、そこは先ほど説明してくれた場所の一つ、嗅覚をメインに打ち出した区域だった。
「奥に洋館があることはご存じでしょうか」
「い、いいえ。すみません」
四辻公園に行ったことがなかったので、洋館があることも知らなかった。
申し訳なさそうにする私の傍らで、記憶屋は微笑み、「それでよいのです」と言った。
「あの洋館は、公園の中にはありますが、一般に開放していません。なんといっても、私の家ですから」
「家、ですか?」
驚いて記憶屋を見る。彼は自慢げに頷き、これからそこに行くのだと説明した。
彼らの後に続いて、歩いていく。
「ここが庭園のようになっているのも、元々からそうだったためです。庭園から始まり、東京都のほうからここを公園にしませんかと話が持ち掛けられ、了承して、四辻公園が出来上がったのです」
「そうなんですね。え、ということは、ここは私有地っていうことですか?」
「土地自体は私が引き継いでいますが、行政に貸している状態ですので、私有地とはまた違いますね。家がある部分だけ、私の私有地という考えでよろしいかと」
当時はさっぱりだった。利権とか土地とかは専門外なもので。
後日調べたところ、無償で土地を貸し出している状態、ということだと納得したようだ。そうメモされている。まあ、曖昧なままでも大丈夫だろう。公園であるということに代わりはないのだから。
こういう杜撰なところは、記者としてよろしくないところだろうか。今更すぎるけど、反省するべきところだ。
庭園の端まで来て、フェンスが見えた。花の模様があしらわれたフェンスには、木の看板で「立ち入り禁止」と掲げられていた。
その看板の左側を押して、フェンスを開ける。
レンガで作られた通路が見えて、その先に洋館が見えた。
「さあ行きましょう」