第1-③話:四辻公園
仲介人と記憶屋に案内され、私たちは新宿にある「四辻公園」へと向かった。
四辻公園は新宿区にある公園だ。駅から徒歩十分ちょっとぐらいで、都庁の背中に守られたその姿は、道路のど真ん中にあるはずなのにまるで異界のように感じられる。
最大の特徴は、名前の通り四つに区域分けされていることだ。それぞれ雰囲気の違う領域となっており、十字路を挟んだ向こう側には全く別の世界が広がる。四季折々に見せる顔も違い、毎シーズン行く人もいるのだとか。
家族向きの公園ではないけど、デートスポットとしては有名な場所だ。
…………残念ながら私は、一度もデートで使ったことがないけれど。
そんな公園に向かうことを聞いたときは、どうしてだろうと思った。公園は確かに、広くて魅力的だ。しかし、取材を始めるにはいささか不適切に感じる。通常ならカフェとかどこか屋内で、腰を落ち着かせて話をするものだ。
何か理由があるのだろう。
そう思い、私は公園に向かう理由を尋ねることはしなかった。
「記者さん」
急に声を掛けられ、私の心臓がドキンと大きく音を立てた。
「なんでしょう」
疑問が顔に出ていたのだろうか。それとも、別の話だろうか。そういえば、疑問について考えるばかりで、記憶屋と仲介人に話しかけることもなかった。これでは記者失格だ。
「ほほ。そう緊張なさらないでくださいな。ところで、記者さんは四辻公園についてご存じですかな」
「ええっと。名前と、それからテーマが五感であるぐらい、なら」
四辻公園のテーマは五感だと言われている。
視覚、嗅覚、聴覚、触覚の四つがテーマとなった区域と、それぞれに甘味処やカフェといった味覚を楽しめる場所があるのだとか。
元ネタはしらないけど、ネットで調べればすぐに出てくる情報だ。
「やはり記者さんは情報に鋭いですなぁ」
「そんなこと。実を言うと、詳しくは知らないんです。ネットで見た情報なだけで」
「ほほ。そうでしたか。では一つ、ご説明をしましょう」
記憶屋が嬉しそうにそういうと、公園についての説明を始めた。