第1-②話:記憶屋
仲介人たちと話した内容に関しては、後述するため、まずは記憶屋の紹介を済ませてしまおう。
記憶屋は仲介人に比べると、本当に普通の人だ。これは本当だ。見慣れたわけではないし、一般論的な目線で書けれている、と思う。
記憶屋はスプリングコートにストールを肩にかけている、初老の方だった。ハンチング帽がよく似合っていたことを覚えている。
思い返せば、あの時、コートの下に着ていた服は上下のスウェットだった。普段着というかパジャマの上にコートを着て出てきた、みたいな。まあ、何を着ていても上品に着こなしているのが素晴らしい。
柔和な笑みを浮かべていて、仲介人と握手をした後にこちらも握手を求めてきた。
かさついてしわだらけの手は、温もりを感じられて、仲介人よりもよっぽど親しみやすい人だった。
「初めまして。私は記憶屋という者です。どうぞ、お見知りおきを」
「こちらこそ。この度取材をさせていただく……」
「ああ。お名前は結構。あなた様のことは、記者さんと呼ばせていただきますね」
笑みを浮かべ続けている彼に冷や汗を覚えたことを、私は忘れない。
有無を言わせない感じに、仲介人とは違って食えない人だと一瞬で感じ取れた。見た目からはわからない、まさに能ある鷹は爪を隠すという感じであろうか。
ああ。もう一度話したいな。緊張感のある取材は、とても心がシャキッとするものだった。
しかし残念ながら、記憶屋とはもう会えない。死去してしまったからだ。
現在の記憶屋は、弟子である子が受け継いでいる。彼に関しては、今後紹介するので割愛させてもらおう。書くのが楽しみだ。
すぐに話が逸れてしまう。私の悪い癖だ。
記憶屋と握手を終えたところで、仲介人は場所を変えようと提案した。
今ここは、新宿の駅前ど真ん中だったのだ。人の目が多すぎる場所だ。興奮して気づかなかったが、多くの人が仲介人を見て、距離を取るように変に迂回して歩いていた。
配慮が足りなかったことは反省することとして、私は二人の後を追って歩き始めた。