第1-①話:仲介人
さて、誰から紹介しようか。
まずは、私が初めて会った人から紹介するのが筋というものであろうか。
私が最初にあったのは、仲介人と記憶屋の二人である。二人とも個性の強い人たちだが、なんといっても仲介人のインパクトはすごかった。
仲介人と会ってまず目につくのは、頭全体を覆っている鳥頭のマスクだろう。いわゆるペストマスクである。顔だけではなく、後頭部まで覆うものだ。なので、情報が一切わからない。表情ももちろんわからない。
目の部分には網目上になっているが、その下には黒い布があり、相手の顔は見えない。マスクにマイクが仕込まれているのか、発せられる声も機械じみた声である。
頭の異様さとは裏腹に、出で立ちは普通である。
黄色に近い茶色のダブルスーツをパリッと着こなし、スーツと合わせた中折れ帽子を被り、右手にはシンプルでありながら存在感のある杖を持っている。
首元はワイシャツで隠し、さらに下にタートルネックを着ている。これは後からわかった情報だ。手は光沢のある高そうな手袋をしている。
普通と書いたが、訂正しよう。
町中ではあまり見ることのない出で立ちだ。パーティーとかのフォーマルな場所なら普通と言えるだろうが。
見慣れてしまったせいで、普通と思ってしまった。感覚を戻さないと。
見た目で尻ごみをする人もいるだろう。私自身も、会った瞬間に「やばい人だ」と思った。
しかし安心してほしい。仲介人は、意味もなく権力を振りかざす人ではない。基本的には穏やかで、害のない人だ。表情を読めないので話すときは、どうしても緊張してしまうけれど。怒らせることは少ない。
ルールを破ったものには手厳しいが、これはトップである責任の一つであろう。
仲介人は私と会うと、握手を求めてきた。
そしてこう言った。
「ようこそ、ウラ世界へ」
この言葉を聞いた瞬間、背中に痺れるような震えが走った。
ずっと夢みていた世界へ踏み入れられる。その許しを得られたのだ。
この興奮を、私は一生忘れることはないだろう。