69. 組み替えられた結界
翌朝。
騒ぎになっていると思ったら、学園の様子はいつも通りだった。
ただ、ジークハルト先生は急病で長期休暇を取った──ということになっていた。
体育の担当教師が変更になった報せで、私はそれを知った。
(あのジークハルト先生は魔獣だった。そしてレジナルドからのお守りが発動して……)
もちろん、ジークハルト先生の正体が魔獣でした、なんて設定はない。
魔獣化するようなイベントだってない。
でも、急病で長期休暇を取る展開はあった。
それは生徒達にそう伝えられただけの話で、実際は、亡くなった恋人への思慕とアニエスへの想いに苦しみ、しばらく旅に……という筋書きだった。
この時に『ジークハルト先生に逢おう』という選択肢をえらぶと、エンディングはもう近い。
発生時期的にもほぼ一致する。
でも、アニエスがジークハルト先生ルートに入っているはずがない。
彼女はラファエルルートに入っているはずなのだから。
レジナルドには昨日の出来事だけを伝えた。
必要があれば、ジークハルト先生のルートについても(うまい具合に)伝えようと思ったけど。
「……。アラスターの耳も、ノアの結界さえも欺く魔獣の変装か」
その眼に怒りを滲ませ、そして落ち着かせるように息を吐いてから、彼は言った。
きっと、私が傷つけられたことを怒ってくれている。
でも、それを抑えてくれているんだ──。
おかげで私も、冷静になれた。
「ねえ、ノアのところに行こう。私、倒れちゃって、ノアにこのことを伝えられていない」
「ノアも気づいて対策を講じているだろうが、行こうか」
バーリフェルトの小僧ではなく、ノアと呼ぶ。
それほど緊迫した状況なのだと、私はひしひしと感じた。
「……僕の、結界が……」
「……っ、マリアンヌ様っ、今すぐ学園から離れてください」
「どういうこと?」
「僕が感知できなかったなんて……僕で抑えられないなら、戦士の誰も……僕には魔法しか、ないのに」
「ノア……?」
「……どうして気づかなかったんだ……僕は、命を削りながら……敵にとって最も最適な空間を……?」
「落ち着いてよ!」
「僕の結界を操作している者がいます! いえ、正確ではないかもしれませんが……っ、僕に気づかれないまま、相手は結界を組み替えていたんです……っ!」
「組み替え……?」
「今、この結界すら、安全かどうかすら……いえ、もうこの学園のどこにも……安全地帯は……ない」