06. アニエスに優しくしたい
乙女ゲーム『BELOVED SOUL3~永遠なる最愛の魂を求め~』とは。
1から一貫しているのは、ヒロインが陰謀に巻き込まれ、悪と戦いながら恋と友情を仲間と育んでいく、剣と魔法のシミュレーションゲームということ。
3の舞台はマルモンテル王国の都に建つ、王立ミシェル学園。
実は学校が主な舞台になったのは今作が初だ。
よく魔法の素質があれば入学という設定も聞くけど、王立ミシェル学園は魔法学校ではない。
魔法は存在するけど、その力はごくごく稀に発現するもので、学校教育を行えるほどの人口はいない。
が、一般に認知はされている。
最も、貴族には発現しやすいとされている。
魔法使いを配偶者にしやすかったから、と設定集には書かれていた。
登場人物、主に攻略対象キャラ達も、多くは魔法が使える希有な存在だが、種類や力量には違いがある。
アニエスは、たぐい稀な魔法の素質があることを見込まれて、特待生となった少女だ。
だが作中で魔法の力が顕現するのは、かなり終盤。
それまでは仲間を応援・回復することで、連携プレイの要となって戦う。
アニエス最強プレイを『めかぶ大好き娘』としてやったことはある。
強化アイテムを全てアニエスに突っ込んで、ワンパンでモンスターを倒すのだ。ただしアイテム回収はドロップ運が必要なので、結構根気が必要。
ラスボスはさすがに2回ぐらい叩かないとダメだった。
……ちなみにレジナルドはラスボスではない。
ラスボスより強いけどさ。
と、こういうのは思い出したものの……そう、この世界がゲームが元になっていて、陰謀にはレジナルドが絡んでいて……ということはわかっても、細かいところがなぜか今も記憶に靄がかかっている。
おかしいな。
アニエス最強プレイするぐらいやりこんだ、とかは覚えているのに。
あと攻略対象キャラ全股プレイとかね。
あれも結構きつい。デートで鉢合わせするし、メモ必須だし。
熱が下がって動けるようになり、アカウント名『めかぶ大好き娘』を思い出してから、私は部屋にこもって、記憶から引き出せる限りのことをメモした。
まず、ここは『BELOVED SOUL3~永遠なる最愛の魂を求め~』の世界で、場所はマルモンテル王国の都に間違いない。
私こと『めかぶ大好き娘』は、悪役令嬢のマリアンヌに転生した。
前世の記憶が戻りつつあったのが、今年の春。
アニエスが特待生として入学したので、これはゲーム開始時期と一致する。
ちなみに作中の時間の流れだが、キャラによってエンディングまでの期間が違う。
いや、プレイ時間に換算するとほぼ一緒ではあるのだが、完全固有ルートに入った時に独自展開が始まるため、そこで一年とか時間が飛ぶこともある。
が、どうにも各キャラのイベント発生条件とか、ルート分岐がしっかり思い出せない部分がある。
マリアンヌ自身も、実は魔法の素質がある。
だが戦うことはできない。適性だけなので、具体的に何かできるわけでもない(ちょっと試してみたけど何も起きなかった)。
展開によっては戦えるほど力が増幅されるけど、そうなると大体は破滅。死にはしない辺り、そこまで深刻ではないと思うけど。
……うーん、設定集の裏話とかそこそこ覚えているのに、あれこれ抜け落ちているのは何かの制約なのか?
それとも、私の記憶力の問題か。
あとは「コラボカフェ行ったなー」「あんな人おったなー」ということは覚えているのだけど、肝心の本編の記憶が曖昧になっているところが多い。
というよりも、だ。
薄い本とか、コミカライズとか、そういう本編と違う内容とごっちゃになってしまっている可能性がある。
あれ、この設定、公式だっけ非公式だっけ?
(これって逆に、参考にしたらまずいのでは)
対策が必要なのだが、いかんせん、マリアンヌにできることは限られている。
基本的にマリアンヌは脇役なのだ。
だが、本編通りに進むとも限らない。
「……よし! まずは」
アニエスに優しくしよう。
そこから始めよう。
最推しのレジナルドに逢えたらそりゃーいいけど、正直、自力でフラグ立てられそうにないんだよね。
まずは平穏無事に生き延びるところから。
「アニエスさん! 今日、カフェテリアでお茶を」
「なんだ、マリアンヌ。アニエスはこれから俺と用事があるんだ」
「申し訳ありません……ラファエル様とお約束があって」
「そ、そう。じゃあ、仕方ないわね」
「アニエスさん! このお菓子とっても美味しいのよ」
「アニエスはそのような菓子は好まない」
「私には勿体ないですから、殿下と召し上がってください」
「アニエス……! そんなに気を遣うことはない」
「アニエスさーん!!」
「アニエスは今日は休みだ!!」
こうして、主にラファエルに妨害される形で、私は彼女と交流を深めることはできなかった。
そして、半年後の卒業の日を迎えることになる。
▼人物紹介▼
【ラファエル・ド・マルモンテル】
王太子。王立ミシェル学園三年で、マリアンヌの婚約者。
冷静に見えて激情家。真面目だが、向こう見ずなところが玉に瑕。
時に、正義心が暴走してしまうことがある。
職業:聖剣士 射程:近 属性 : 聖 武器 : 聖剣
HP : B- 筋力 : A- 器用 : A+ 守備 : B+ 速度 : C 魔力 : B+ 幸運 : B
▼固有スキル
『聖なる誓い』……パーティー全員の武器に聖属性の追加付与+攻撃力上昇。