44. 共闘者と信奉者
「バーリフェルトの小僧。一部の結界が早々に破れたぞ」
「ノアでございます。申し訳ありません、さすがの僕でも、学園全域にくまなく結界を張るのは大仕事ですので」
「それで魔獣が入り込んでは意味がなかろう」
ちょ、ちょ、ちょ!
敵同士のレジナルドとノアが、普通に会話してるんだけど?!
状況が飲み込めない!
私を無視して話を進めないで!?
レジナルドがちらりと、こちらを見た。
私の困惑を読み取ってくれたらしい。
「バーリフェルトの小僧……ノアと俺は今、共同戦線を張っている」
「きょ、共同戦線?!」
知らない。なにそれ。
レジナルドはいつだって、孤高の敵キャラだった。
確かに配下や従僕はたくさんいたけど……。
でも、対等な立場の人間はいなかったはず。
ましてや、アニエス側の戦士と共闘なんて、あり得ない。
すると、ノアが続いて口を開いた、
「といっても、最近のことなのです。マリアンヌ様」
「そうなの……?」
「はい。先週、この方を学園で見かけて、驚いて……僕はこっそりと、ベアトリスに相談したのです」
ベアトリスに? アニエス達でなく?
ふとレジナルドを見やると、今にも舌打ちしそうに苦い顔をしている。
「そいつに俺の術が効かなかった。『歴史教師のマーク』の顔が通じない。油断した」
「いえ、最初は気づかなかったのです。ただ、少しだけ違和感があって……それで、密かに霊視してわかったんです。まぁ、霊視したことはバレていたのですけど」
そっか。
レジナルドはとても強い魔力を持つけど、ノアだって桁違い。
だから、見破れてしまったんだ。
あれ? 私も違和感ぐらいは覚えたけど、別に霊視なんて使ってない。
恋人だから、気づいたってこと、かな?
……へへへ。愛の力、すごい。
じゃなくて!
「なんでベアトリスに相談したの?」
「彼女と親しくしているマリアンヌ様が、今は皇帝と婚約して、すでに相思相愛で仲睦まじいと聞いていましたので……事情をご存じかもしれないと」
私は何も知りませんでしたよ!?
それに、仲睦まじいって、わわ、なんか色々知られてる?!
私が知らないところで!!
ハッ?! まさか情報源は……ベアトリス?!
でも、私が事情を知らない以上、ベアトリスも知らないわけで。
詳しく聞くと、ベアトリスから「マリアンヌ様が皆に話したいことがあるみたい」と連絡してきた時に、ノアはレジナルドの名前を出さず「マリアンヌ様は信頼できる御方か」と返したそうだ。
すると、ベアトリスからこう返ってきたという。
『私が心から信頼し、敬愛している御方です。あの方と、あの方が信じている方を、ノアも信じてください。それしかいえなくて、ごめんなさい』
ベアトリスから私への手紙には、レジナルドのことは書いていなかった。
彼女も、知っていたら「学園にいるよ」と教えてくれたと思う。
でも、レジナルドに関わることだから、ベアトリスはきっと先回りしてくれたんだね。
ベアトリス……。
そんなに私のこと、信じてくれているんだ……。
嬉しいな。前世からの、大事な友人。
「なので、僕が単独で先に接触したんです。アニエス達には秘密で」
ノアは、ベアトリスを信頼している。
彼女が信頼する私を、信じてくれたんだ。
そして、私の好きな人のことも信じてみようと決めたんだね。
すごい。ノアがこんなにも人を信じるようになったなんて。
失いたくないから、大切なものを作らないと殻に閉じこもっていたキャラだったのに。
「お前と繋がりがある人間は、どいつもお人好しで無謀だな、マリアンヌ」
「私のせいですか?!」
「でも、僕の話を聞いてくださったではないですか。「『夜の世界』のさらなる異変は、貴方のせいですか」なんて聞いたら、普通は叩っ斬ると思います」
おおっと?!
それはさすがに直球だぞ、ノア?!
無謀だ。
ま、まぁ、魔法勝負なら何とかなる??
でもレジナルドの本領って物理攻撃だもんなぁ。
ノア、HPと筋力が最弱なんだよね……。
にしても、ノア。
ベアトリスの行動力に感化されすぎてない?!
「利用価値のある人間は、とことん活用する。ノア・バーリフェルトといえば、光と闇の二重属性を持つ希有な存在。無礼だと斬るには惜しい人材だ」
「それをいってしまう辺り、どうも、皇帝に抱いていたイメージと違うんですよねぇ」
うんうん。
レジナルド、変わったよね。
でも、利用価値、か……。
……私のことも最初は『神』にしてもらうための……。
「俺が変わったとするなら」
「っ、わっ」
レジナルドが、私の肩を引き寄せた。
よろめいて、私は彼にもたれかかった。
「マリアンヌのせいだ。どうも俺は彼女といると、調子が狂う」
「え、えっと」
「そして、それを喜んでいる自分がいる」
はわ、わわわ。
ひ、人前ですよ?!
おおおぅ、ノアがすっごく笑ってる!?
ノアの笑顔はかなりレアだぞ?!
でも元は明るい性格なんだよね。
「そこは、マリアンヌ様のおかげにしておきましょうよ」
そ、そうだよねー?!
せいじゃない、おかげ、だもんねー?!
あーーもう、私がここに来たのってさ。
レジナルドとアニエス達の戦いを止めるためだったんだよね。
ラファエルはまだ、レジナルドと敵対しているみたいだけど。
でも、ノアがすでにレジナルドと共闘しているなら。
きっと、大丈夫……!!
……ところで、ノアの横にいる男の人。
すっごいメンチ切ってくるんですけど?!
貴方いったい誰ですか?!?!
「おい、アラスター。斬られたいか?」
「はい。今すぐにでも!」
レジナルドが低い声でいったのを、青年は即座に返した。
って、待て待て。正気か?!
しかし、本当に見たことないなぁ。
誰? アラスターって名前だよね? 初耳。
すると、アラスターと呼ばれた青年が、すっと無表情に戻った。
「いえ、失礼致しました。つい本音が」
本音?!
メンチが?! それとも斬られたいってのが?!
「……こちらは、どちら様でしょう?」
私がレジナルドに訊ねると、彼は心底嫌そうな顔をした。
え、なに。どういう感情ですかそれ。
ますます関係性がわからない。
「様は要らん。そいつはアラスター。俺の従者だ」
「従者?!」
一度も見たことがありませんでしたが?!
レジナルドに従者がいても、全然おかしくないんだけどさ。
本編にもコミカライズにも設定集にもいなかった。
まさかの新キャラ?
「お前が気に留める必要はない」
「でも、レジナルドのおつきの人なんだよね……?」
「一応教えたが、名前も覚えなくていい。無視しておけ」
さすがにその態度は可哀想では?!
……と思ったけど、あれ?
アラスター、すごく嬉しそうな顔している。
我々の業界ではご褒美です! といわんばかりだ。
「マリアンヌに気味の悪い顔を見せるな」
「重ね重ね失礼致しました。陛下に冷たくされると、どうしても悦びを抑えきれず……マリアンヌ様も、私のことはその辺の石ころと認識してくださって結構です」
「……」
「どうぞ、いくらでも汚く罵ってください。我が君の御言葉以外、一切響きませんので」
間違いない。
こいつぁ、結構な変態だぁぁーーーーーーーー?!?!
(……レジナルドのガチ勢、怖すぎない?)