表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/74

40. 謝罪と忠告

 ラファエルから聞かされたのは、意外な事実だった。

 アニエスが、マリアンヌから苛められた記憶はないといったのだ。


「彼女はまず、俺に謝罪してきたのだ。私を許せないなら、どうか別れてくださいとも……いわれた」



 いったいどういうこと?


 確かに、私にはマリアンヌを苛めた記憶はない。

 ただ、たまに特待生の心得とかを指導したり、私の知らないところでベアトリス達が二人の仲を邪魔したりとか、そういうのはある。


「それ、本当にアニエスがいったのですか?」

「アニエスは体調を崩し、昨晩からは寝込んでいる。ここへ来たのは、彼女への見舞いだ」

「嘘……」

「よほど、心身に堪えたらしい。だから、虚偽だったという方が真実だと判断した」



 ゲームでは、まず、苛めは事実。だから否定のしようがない。

 アニエスはそれを、ラファエルに告発する。


 私にはその意図はないけど、解釈次第では苛めたことになってもおかしくない。

 でも、そもそも、接触すら阻まれることが多かったのに。


 アニエスが嘘をついていた。

 そしてそれを、後になってから認めた?



 でも、マリアンヌが苛めたことにしないと、ラファエルが婚約破棄をするなんて行動、あんなに堂々ととることはない。

 私が苛めなかったことで、今度はアニエスが嘘をつかないと、整合性がとれなくなった?



(まさか、あの【断罪イベント】を起こすためだけに……?)



 この世界は、今もゲームシステムに支配されているということ?

 ……私のこの感情も、今起きていることの全ても……?



(違う! それは違う! だって、私は……レジナルドが好き。心から)



 でも。

 私がもし、さっき【選択肢】を間違えたのだとしたら?



 ゲームでは、たった一度の失敗がバッドエンドに繋がることもある。

 そんな選択肢を、さっき、選び取ったのでは?



「マリアンヌ、どうした? 黙り込んで……」

「い、いえっ。何でもありません」

「……お前にとっては、今更どう謝罪されても、怒りは治まらないだろう。現にお前の父君、アズナヴール公爵は、今後一切、俺と関わるつもりはないと宣言した」


 そりゃそうだなぁ。

 娘を一方的に悪者にして、婚約破棄までしたのだから。

 しかも、ラファエルの立太子には、アズナヴール家も支援していた。


 でも、ゲームのマリアンヌは悪役。

 だから、断罪をすることは、ゲームの流れとしては正しい。


「だが一言、お前には、直接謝罪したかったのだ」

「……少し、よろしいですか?」


 ちょっとね、せっかくだから。

 引っかかったこと、いっちゃう。


「結局、この謝罪も、アニエスの言葉だけが根拠なのですね?」

「それは……すまない、その通りだ」


 ラファエルは、認めた。


 だってさ、私にはなーんにも事実確認してこなかったじゃん。

 ……お父様が拒否したから、後からは確認できなかったのかも。

 うーん、恋と正義の暴走って怖い。



「今更だが、直接聞かせてくれ。お前はアニエスを害してはいないのだな」

「もちろんです。ただ、アニエスさんがそう感じた可能性は、完全には否定できません。首席として、厳しいこともいいましたので」

「……そうか。そうだな」

「殿下?」

「お前は、誰よりも己を厳しく律していた。そんなお前が他人を害するなんて、おかしな話だったのだ。本当に、申し訳なかった……」


 彼は彼なりに、マリアンヌを理解していたんだなぁ。

 なのに、恋は全てを見えなくしたんだね。


「全て俺の責任だ。死力を尽くし、お前の名誉回復をはかると約束する」

「……できるのですか?」

「王太子の座を返上すれば、皆も理解してくれるだろう。判断を誤った俺が、国王になることは許されない」


 ん? それはちょっとまずくない?

 だけど、ラファエルは、本気っぽい。

 それはむしろ事態を悪化させるんじゃないかな。


「いいえ、それはおやめください」

「なぜだ」

「殿下が王太子の座をおりれば、我が家に反感を抱く者が喜ぶだけです」

「……俺の立太子に最も協力してくれたのが、公爵だからか」

「その通りです。過ちは過ちとお認めになった上で、殿下が良き国王となられることを、元婚約者としてお願い申し上げます」


 ラファエルは正義心が暴走さえしなければなー。

 でも真面目だし、過ちを正したい気持ちが強いから、いずれは良い王様になると思う。

 そしたら、お父様だって態度を和らげるはず。


「……。お前はいつだって、最も厳しい道を、俺に指し示す。わかった。約束しよう」


 ラファエルはため息をついたけど、とても良い笑顔だ。

 もしかしたら、以前のマリアンヌの厳格さが、さすがの彼でも息苦しかったのかも?


 でも、これはマリアンヌが断罪されて終わるより、ずっといい展開じゃない?

 んで、もう一つ。いっちゃおう。


「虚偽を申告したアニエスを、どうなさるおつもりですか?」

「お前にとっては不愉快かもしれないが、俺は彼女と別れるつもりはない」


 オッケーオッケー。それでよい。

 アニエスも実はかなり悩んでいたのかもなぁ。

 うーん、知らない間に私も、彼女を追い詰めたのかも。


 私もさ、心の中でだけど、アニエスに……嫉妬したし。

 だって……レジナルド、会ったとかいうし。

 駒鳥『姫』って呼ぶし。


「でしたら、彼女の手をしっかり握って、離さないであげてください」

「マリアンヌ?」

「アニエスはこれから先、常に矢面に立たねばなりません。その時、殿下だけは味方になってください。でも、それで道を誤ってはなりません」


 そう、手放しちゃダメだよ。絶対。

 すると、ラファエルは私を真っ直ぐに見据えて、いった。


「もちろんだ。アニエスは、俺の『最愛の魂』なんだ。でも、お前の言葉通り、これからはお互いよく話し合っていくと誓おう」



 ああ、よかった……。

 うん。私、ラファエルと話し合えてよかった。



「あ、このハンカチ、洗ってお返ししますね」

「ただのハンカチだ。そのまま受け取っておいてくれ」

「いけません! 新しいものと一緒に必ずお渡しします」


 うっかり受け取るとね、王族からのプレゼントになっちゃうからね。

 私はひとまず、ハンカチをスカートのポケットに入れて……気づいた。



 あれ?


 ここに、あの金色のリボンを入れてた……よね?


 ない……?



「どうした?」

「なんでもありません!」


 レジナルドから貰ったリボン落としたかも、なんていえない。

 どうしよう。

 あんな態度とったうえに、贈り物までなくしちゃうなんて。

 レジナルドは気まぐれの産物とかいっていたけど。

 私には、お守りなんだよ。



「……マリアンヌ」


 困惑を隠すために俯いていた私に、ラファエルが呼びかけてきた。

 私は顔をあげた。


「謝罪とは別に、お前に告げるべきことがある」

「え?」






「レジナルドに嫁ぐのはやめるんだ。今からでも、婚約を破棄しろ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ