03. 都合の良い夢でもいい
「マリアンヌ。お前……そいつと行くという意味を、本当にわかっているのか?」
「そ、そうです! マリアンヌ様、いけません!」
わななくラファエルに、隣のアニエスも同調する。
「仮にも貴女様は、この国の公爵のご令嬢ではありませんか。それを……こ、こんな急に婚約者を乗り換えるだなんて、ふしだらです!」
「……いえ、そもそも私の方が、先に乗り換えられてしまったのですが」
さすがに聞き流せず、思わずそう返してしまった。
うん? しかし、アニエスってこんなこという子だったっけ。
この作品に限らず、乙女ゲームの主人公って、意思は強くても他人を罵るようなことはいわないと思うんだけどな。
するとアニエスは、反論されると思っていなかったのか、心底心外そうに顔を歪めた。
「それとこれとは話が違います! だって、相手はモグリッジの剣豪皇帝なんですよ!」
「あの……私、国外追放ですよね? だったら身分も剥奪されます。この国における罪人ですから」
いいながら、私はレジナルドの方を見やった。
私が手を取った彼は、すでに立ち上がって、ラファエルとアニエスを見据えていた。
「ならば、私はもう公爵令嬢ではありませんが……それでも、よろしいのでしょうか」
おそるおそる訊ねる。
すると、赤い眼が柔らかく細められた。
そんな、優しい顔……バリバリの新規絵じゃん……。
「些末なことだ。その身一つで、俺に全てを委ねてほしい」
はぁん。良い声。
……うん、改めて確信したわ。
これ……追加ファンディスクの内容ですわ……。あはは。
私、プレイしてないけど。
「無視をするんじゃない!」
ラファエルが声を荒げた。
うーん、どうもラファエルも……性格が違うような?
(……シナリオライターが変わった?)
そこまではチェックしていなかったけど。
ライターの個人名義はEDにのみクレジットされて、パッケージでは確認不可だ。
SNSでも特に告知はなかった。
もっとも、完全に一新はされているとは思えないが。
「と、ともかく、追放の件は取り消す……だからマリアンヌ、行くな」
「え、ラファエル殿下?」
困惑の声をあげたのはアニエスだ。
どうしよう。もう私はレジナルドについていく気満々なんだけど。
「でも、私との婚約は破棄なんですよね?」
「……ああ」
「では、私に婚約者が不在なのはかわりないと思うのですが」
「だ、だが、この国の権利を戻すということは、義務もまた戻る。お前は貴族なのだから、当然、国王の許しがなければ結婚は不可能だ!」
なんか、一貫しないなぁ。
しかしラファエルの言葉は、その通りなのだ。
マルモンテル王国では、王族や貴族の結婚には、国王陛下の承認が必要となる。
逆に平民は教会の許可が出れば問題ない。よほどの問題がなければ出る。
それをいってしまうと、ラファエルとアニエスの結婚だって、結構ハードルが高いのではないか。
「なんだ、そのことか」
レジナルドが鼻で笑った。
「マルモンテル国王の許可があれば問題ない、ということではないか」
「しかし……っ」
「国王ならば、俺とマリアンヌ嬢との結婚を快諾するさ。なにせ、モグリッジ皇国とこの上ない縁ができあがるのだから」
今日の夜会には国王はいない。
最近、足を悪くして用心のため休んでいるのだ。それ以外は元気と聞く。
だが、そもそも国王がいたら、こんな断罪式はなかったかもしれない──。
「では行こうか、マリアンヌ嬢」
「えっ、え」
「我らが許しを乞うべき相手は、ラファエル王太子殿下ではない。ならば、今夜はもうここに用事はない」
「ですが」
「──今すぐここで、『お前』の全てを奪ってもいいんだぞ」
ぞくぞくぞく。
良い声で囁かれた。きっと聞こえているのは、自分だけ。
私を見下ろす赤い瞳が、冷酷な光を宿す。
そう、それよ。それでこそレジナルド!
「……ついていきます」
実際、私──マリアンヌが主人公ルートだとして、いったいどんな選択肢が出ていたのだろう。
なぜか、それはわからない。
どう行動するべきか、選択肢を見ればだいたいわかる。
マリアンヌは、こんな軽々しいキャラじゃないはずなのに。
私、とても都合の良い夢を見ているんじゃない?
▼人物紹介▼
【レジナルド・マクシミリアン・モグリッジ】
モグリッジ皇国の『剣豪皇帝』。23歳。銀髪紅眼が特徴的。
傲慢な性格であり、全てを蹂躙して覇道を往き『神』になることを望む。
一方で、この世に辟易していると思しき節も……?
射程:全 属性 : 無→魔 武器 : 陽剣・陰剣
HP : S+ 筋力 : S 器用 : A+ 守備 : A 速度 : D 魔力 : S 幸運 : C+
▼固有スキル
『雲消霧散』……低確率で物理攻撃を無効化。
『活殺自在』……単体に防御無視の貫通ダメージ。一定確率で即死。