34. 『真実の書』
レジナルドを見送って、晩餐も終えて、レインも下がらせて就寝する前の、独りだけの時間。
私ことマリアンヌは、鍵をつけた引き出しの奥から、ノートを取り出した。
これは『真実の書』……と、勝手に呼んでいる。
私が前世の記憶を鮮明に取り戻した時、備忘録を兼ねて書き連ねたものだ。
実をいうと、これを読ませることで、レジナルドを『神』にしてあげようと考えていたんだよね。
直接的に『神』にするんじゃないけど。
まぁ、知っていれば行動しやすくなるかなって。
それしか思いつかなかった。
……そう。
王城のバラ園の時点では、そんな考えでいた。
最推しと結婚に浮かれて、それしか道がないと考えていた。
(要は、あの人を繋ぎ止めたいと必死だっただけ。私の、本当の願いじゃなかった)
私はページをめくった。
まず、この世界はゲームの中だということ。
登場人物はシステムに支配されているだろうこと。
無限ではないけど、アニエス次第でいくつものパラレルワールドが発生すること。
隠しアイテムの存在。
レジナルドの最期。
アニエス達が辿り着いた平和な世界について。
黒幕は、実は明かされていない……プレイヤーの想像に委ねるオチだったこと。
でも、ここは追加ファンディスクがベースになっている世界。
となると、本編の情報は、レジナルドを破滅に向かわせるだけな気がしてきた。
……だから、この『真実の書』をどうするべきか……。
悩みながらも、私は読み進める。
『BELOVED SOUL3』は、剣と魔法と恋のストーリー。
主人公のアニエスは、平民ながら魔法の素質を見込まれて、王立ミシェル学園の貴族クラスに特待生として入学する。
だが彼女は、世界の危機を救う戦いに巻き込まれてしまう。
この世には『夜の世界』と呼ばれる時空があり、そこには神々が存在している。
だが、現在は今は魔獣達によって荒廃している。
癒やしと増幅の力を持つ彼女は、仲間達とともに魔獣を倒していく。
レジナルドは、『夜の世界』を支配し、現実世界をも手に入れようと目論む悪役。
兵士や魔獣を従わせ、アニエス達を妨害してくる。
さらに現実でも、王国滅亡の一歩手前まで追い詰めてくる。
最後は自身が魔神となり、倒される。
(でも、レジナルドはラスボスではないのよ)
そう、彼を倒した先には──世界を統べる真の神がいる。
ただ、こちらは特殊で……アニエスと、その時固有ルートに入ったキャラだけが戦いを挑むことになる。
なので、データ的にはレジナルドの方が圧倒的に強い。
(今のレジナルドは、世界を支配しようなんて考えていないと思う)
それはつまり、レジナルドにとっての破滅……不幸の道だから。
私を想ってくれているなら、手を引いているはず。
じゃあ、夜の世界は今、どうなっているの?
レジナルドが干渉を辞めたとしても、元々あそこは荒廃が始まっていた設定のはず。
あくまでレジナルドは、そこに眼をつけただけに過ぎない。
アニエス達が戦っているとは思うけど。
レジナルドが干渉していないなら……どう進んでいるの?
……放っておいてもいいのかな。
私とレジナルドは、それらと関係ない存在として生きていていいの?
だったらもう、ここに書いてあることは全部無視でいい?
(うーーーん、確認だけでもする?)
ここが追加ファンディスクの世界だって早々に気づいていれば、もっと早く手が打てたんだろうけどなぁ。
ただ、アニエス達とは会わなきゃいけない。
断罪イベントのラファエルの様子からして、レジナルドはきっと直近までは『夜の世界』に干渉していたんだと思う。
そして、ラファエルは彼を敵と認識している。
……やっぱり、話をしなきゃ。
でも、王城へ乗り込んでもラファエルは会ってはくれないだろう。
警戒されるに違いない。
(あ、そうだ!)
前世でも今世でも友人の、ベアトリス。
彼女は今、アニエスの仲間であるノアと恋仲だ。
だったら、ノアは私の話を聞いてくれるかも。
彼は一つ年下だから、まだ在学中のはず。
彼を通じて、アニエス達と接触できれば……!
「よし、じゃあ……学園へ行ってみよう!」
まずはベアトリスに連絡してから!
前世のことは、できるだけ表にしないって約束だけどね。
よし、明日からの行動は決まった! おやすみなさいっ!
夢の中で、レジナルドに逢えるといいな。
私は金色のリボンを、手首に結んだ。
戯れの産物だってレジナルドはいっていたけど。
捨てられないよ。
前に逢えなかったのは、きっと寝てなかったからだよね。
ちゃんと休んでなきゃ、許さないんだから。
……結婚したら絶対、毎日寝かす……!