表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/74

32. 二人だけで、お茶を。

 お茶の時間を告げにきたレインは、私がブラウスとスカートに着替えていても、何もいわなかった。


 着替えの間、レジナルドには反対を向いてもらった。

 私の方がチラチラ見ちゃったけど、レジナルドが振り向くことは一度もなかった。

 どーしても、背中のホックだけは外せなくて、手伝ってもらったけどさ。


『恋人の着替えを手伝うのは、男にとっては本来、名誉なことだ』


 なーんて、レジナルドは笑っていたけど。

 生着替えを見せる勇気は、まだありません。


 だから、何もなかったってば!

 キスより先は何もしてませーん!!

 ちゃんと(途中寝たけど)ダンスもしましたし!!



 なのにレインは、めちゃくちゃ良い笑顔をしている……。

 ……まぁ、さすがに……誤解はしてない、よね?

 確認するのも怖い。



 お茶とお菓子を用意してもらって、レインとメイドは退出した。

 本当なら二人には、おかわりを淹れてもらったり、皿を下げてもらったりしてもらうため、残ってくれる方がいいんだけど。

 私が、用事があれば呼びに行くといったのだ。



 だからレインってば、親指をグッと立てないで……。



 私のは、ダージリン。

 レジナルドには、紅茶じゃなくてコーヒー。


 ブラックのイメージだったけど、彼はミルクを少しだけ混ぜた。

 砂糖は全く入れていない。

 ちなみに私は、甘いお菓子がある時の紅茶はストレートで飲む。




「それで。側仕えを追い出して、また二人きりになったわけだが」


 あ、はい。ちゃんと理由はあります。


「ベッドでの続きをしてもいいということか?」

「は?! 違います違います!」


 私はぶんぶんと首を横に振った。

 レジナルドは楽しそうに口角をあげている。

 またわざとやったな……この人。


「聞かせてほしいことがあるんです」

「ほう?」

「どうして、婚礼を五ヶ月も早めたんですか?」


 聞きそびれちゃったことね。

 私に関係があるといっていたし、教えてくれるはずなんだけど。


「この国に留まるより、早めに皇国へ来てくれた方が、お前を守りやすい」

「……? それが理由なんですか?」

「そうだ。それ以外にはない」


 え?

 てっきり、私の知らないやばすぎる陰謀が! とか。

 そういうのかとばかり。


 ゲーム本編はどうだったかな。

 ……ダメだ。アニエス視点でしかわからない。

 わかるのは、ここからレジナルドが本格的に戦い出すことだけど……。

 でも、今のレジナルドではあり得ない。


(純粋に、私を守りたい……だけ?)


 い、いや、嬉しいんだけどさ。

 でもわざわざ五ヶ月も早める必要はないのでは?


 第一、レジナルド自身がいったんじゃないの。

 モグリッジ皇国に安全地帯はない、って。

 ……ま、まぁ、その時も守ってやるっていってくれたけどね。



「俺は一ヶ月後に、皇国へ戻らねばならん」



 ……あ、もしかして……!?



「つまり、帰国する時に、私を連れて帰りたいってこと?」

「まぁ、そうだな」


 真意ってそれー?!

 誰にも聞かせたくないっていってたくせに?!




(……花嫁を連れて帰りたいって我儘を、他の人に聞かれたくなかった、ってこと!?)



 可愛い……。剣豪皇帝、可愛いぞ?

 じゃなくて、これでも不安だったんだから!

 何か、大変なことが裏で起きているんじゃないかって。



「しかし、お前にとってはその方がいい、というのは本当だ」

「え?」

「今のマルモンテル王国内において、お前の立場は微妙だ。王太子に婚約を破棄され、あろうことか奴は平民の娘を選んだ」

「あ……」

「俺がすかさず求婚したから、幾分かマシだろうが……今のお前は、貴族達の間で『王太子に捨てられた女』と認識されていると思え」


 今は家で大人しくしているから知らなかったけど、レジナルドがいうなら本当なのだろう。

 第二の王家ともいわれるアズナヴール家に対し、やっかむ人間は多い。


「……早めるのは、私の名誉回復のために……ってことですか?」

「そうだ。加えて、俺がしつこく熱烈に求めたことにすれば、求婚をすぐに受け入れたことも言い訳が立つだろう」


 後先考えずに、元気よく返事しちゃったもんなぁ。

 なのに全部、私のために。

 こんなに、考えてくれてたんだ。


 だって、婚約破棄された女を熱烈に求めるなんて、レジナルドの方こそ、名誉に傷がつかない?


 それでも、いいってこと……?

 身と心だけでなく、名誉まで守ってくれるの?



「私に、そこまでの価値があるんですか?」



 思わず、聞いてしまった。

 理由を聞かせろなんていったのが昨日なのに。

 また、求めちゃった。欲ばりすぎ。



「ある」



 レジナルドは即答してくれた。

 そして、テーブルの上に置いたままだった私の手を取って、甲にキスをした。


「たとえお前に理解されることがなくとも」

「……っ」

「俺の中には確かに存在する。それさえ覚えておいてくれればいい」



 理解、したい。

 でも、教えてくれない。



 私の存在価値は……。

 貴方だけの、大事な秘密ということなのね。

 私自身にさえ教えられないぐらい、大切なもの……。



「おい、泣くな」

「っ、だって、嬉しいから」

「嬉しいなら、笑え。……笑ってくれ」



 嬉しい涙だってあるのになぁ。

 でも、同じことなら、笑う方がいいよね。


 私、ちゃんと笑えたかな。

 レジナルドが微笑んでくれたから、たぶん、大丈夫。



 ……ここまで私を想ってくれる貴方なら。

 絶対に悲劇へ向かうはずがない。

 そうだよね?





 涙を拭って、お茶を再開。

 そこからは他愛のない会話ばかりだったけど。


「お前は美味しそうに食べるな」

「……レジナルドは食べないんですか?」


 レジナルドは、お菓子に全然手をつけない。

 ……踊って寝て、ちょっと泣いたから、私はお腹空いたけど。


「んっ」


 唇──ではなく、頬との境目あたりにキスをされる。

 いや、キスじゃない。

 ぺろりと舌先で舐められた。

 あ、あ、これは……。


「これで充分だ」




 食べかすつけたままだった恥ずかしさ。

 好きな人に見られた恥ずかしさ。

 ぺろりと舐め取られた恥ずかしさ。



 ……ミルク入りのコーヒーの匂いが、する。



 あ、穴があったら入りたい……!!



紅茶とコーヒーを合わせた飲み物を『鴛鴦茶』と呼ぶそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ