28. ダンス・レッスン1〜人づてのプロポーズ〜
レジナルドと恋の再始動。
とはいえ、予想以上に彼が私を好きだとわかって、結局すっっっごくあの人が甘々になっただけなんだけど……。
私が知らないだけで、ちゃんと理由はあったのね。
まさかオーガに突撃したのがきっかけとは。
……普通は引くよ、あれ。
ま、いっか。それよりも……。
「……はぁ」
夢の中で逢おうなんて約束をして、結局レジナルドの夢は見なかった。
そりゃそうだね、そんな都合良く見ることはできない。
……すごく寂しかったけど。
朝、とても静かに起きて、あれ? ってなって……。
私はただ転生しただけで、レジナルドとは何もなかった、とか?
でも、レインが来る前にふと鏡を見たら。
首筋に、あの人の唇がつけた跡が、生々しく残っていて……。
「う……うへへへへへぇ」
顔が締まらなくなったってわけ。
でへへ……レジナルド、キス魔なんだなぁ。
そっかそっかぁ、私のこと、ちゃあんと好きなんだぁ。
仕切り直し、早まったかなぁ?
でも、これからもーっとラブラブに……?!
「お嬢様、おはようございます! 素敵な朝ですわ!」
「のわーっ?! レイン?! おはよういつの間に?!」
「何度も何度もノックをしましたがお返事がなく、朝食の時間も迫っておりましたので、失礼ながら勝手に入らせていただきました!」
「ご、ごめんなさい……。って、あれ? なぁに、その花束」
「これですか? お嬢様に贈り物ですよ」
それは、赤い薔薇の花束だった。
うわっ、すっごい綺麗! 鮮やかだな-!
……でもドラマとかでは、もっとでっかいの見たような?
本数これそんなに多くないね?
「誰から?」
「もちろん、陛下からですわ! 朝一番で届きましたのよ」
「ええっ、レジナルドから?!」
女に花贈るようなキャラでしたっけ?!
いや、うん、キス魔だし(?)、まぁ、ありえるか!
うわぁぁ、真っ赤な薔薇って、ベタ過ぎる……!
で、でも、嬉しい……。冗談抜きで。
『薔薇ってさー、色や本数で意味違ってくるのよ』
ふと、あいこちゃん(ラファエル推し)の声が脳裏をよぎった。
字書きのあいこちゃんは、この手のことにとても詳しかった。
『ラファエルに黒薔薇持たせてさ、「呪うほどお前を愛している」っていわせたいんだけど』
相変わらず彼女の書く王太子は病んでる。怖い。
その話は結局、前世の私が死んじゃって読めなかったんだけど。
違う。その前後の言葉を思い出せ。ちょっと曖昧だけど。
『一本が『一目惚れ』でね、二本がー……』
私は、レインから花束を受け取って密かに数えた。
一、二、三……。
九。
『九本がね、『いつも想っている、一緒にいてくれ』って意味なんだよー』
「おおおっとぉーーーーーー!?」
「お、お嬢様っ?!」
こ、これはプロポーズの定番本数だった!
いやいや、もうプロポーズされてるんだけどさ?!
え、え、待って。
こんなさらっと人づてに渡さないでよ!!
めちゃくちゃ大事な意味じゃん!!
『ちなみに赤にも色々あってね』
『鮮やかな紅は……』
『『死ぬほど恋焦がれている』なんだってさー!』
キャパオーバー。
で、でも鼻血をぶしゃあしたら、薔薇を汚しちゃう。
耐えろ!! マリアンヌ!! 私ならできる!!
「……ど、どうしましょう……この花束……」
顔が真っ赤になるのは抑えられなかったけど。
私は花束をぎゅっとして、レインにおずおずと訊ねた。
すると彼女は、ふふっと笑った。
「飾りましょう! その花束と一緒に「今日の午後、ダンスの補習をする」という言づてもいただいていますから」
「う、うん。そうね」
「奥様に相談して、一番美しい花瓶に活けましょう。私にお任せくださいませ」
補習どころか、レッスン自体できなかったんだけどね。
だから、今日もレジナルドは先生役として来てくれる。
私のために、時間を割いてくれる。
……とても、忙しいのに。
皇帝なのに、今は国を留守にしていて……。
賓客として招かれているのだから、やることいっぱいのはず。
(でも、ゲーム本編だとその裏で……王国を滅ぼそうとしていた)
違う違う。
ここはもう、ゲームじゃない。
大丈夫……大丈夫だから。
暗躍するつもりなら、そもそも私と一緒に過ごさない。
ふと私は、真ん中の薔薇に金色のリボンが結ばれていることに気づいた。
黒い染みがついていた。そっと解いてみる。
流れるような美しい筆蹟で、メッセージが書かれていた。
【夢に現れなかった男は忘れろ。俺だけを見ていればいい】
……私が夢を見なかったことを、知っているの?
でも、なにこれ。
逢いに来なかったのは貴方でしょ?
それとも、私が貴方を想う気持ちが足りなかったから?
……うん。でも、そうだね。
そうするね。レジナルド。貴方だけを見るね。
花束で隠すようにしながら、私はリボンにそっとキスをした。
そして顔を上げて、レインに告げた。
「あ。あのね、レイン」
「はい? なにか?」
「レジナルドが来る直前でいいんだけど、お願いしてもいい?」