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27. 予定調和の崩壊~『08. >戦う』レジナルド視点~

『第八話 > 戦う』のレジナルド視点です。

 王立ミシェル学園。

 都の中央区域に建つ、マルモンテル王国最大の教育機関だ。

 校舎内にも図書室はあるが、より専門的な資料を保管している図書館が敷地のはずれに存在する。基本的に許可を得た者しか出入りできない。


 レジナルドは出入りを許されている。


 表向き友好関係を築いている、この国の王によって。

 レジナルドは時々ここに来る。

 退屈しのぎでもあるが、一番は監視。


 ──この学園は、夜の世界と繋がりやすい。


 だから、ここに来て様子を見るのだ。

 だが、どうあっても、自分は死ぬ。

 もちろん、戦士らを事前に始末したこともあったが、結局またすぐ元に戻された。


 記憶も全ては残っていない。

 まるで何者かに干渉されているかのように、肝心な部分は靄がかかる。

 ただ、繰り返していることだけを覚えている。

 そしてほぼ全てを思い出す頃には、自分は魔の契約を終えている。


 つまり……運命は変わらない。


 これが欠落した者のさだめなのだろうか。

 己の不完全な魂を思い知らされるようで、何もかもが虚しい。




 獣の気配がした。

 レジナルドは、本を閉じて窓から表の様子を窺った。



 オーガがいる。



 夜の世界からの迷い出たか。

 知性のかけらもないモンスターだ。

 だが、一般人には手に余る──。


(あの娘はまたいるだろうか)


 繰り返す運命の中、定着し始めている記憶の一つ。



 マリアンヌ・ド・ラ・アズナヴール。



 彼女の存在そのものは、繰り返している期間よりも前から知っている。

 この国の王太子ラファエル・ド・マルモンテルの婚約者だ。

 二度ほど、国王父子のいる場で対面したことがある。


 ──彫像のような女だ、と感じた。


 淑女の鑑である自負ゆえに、感情を全く出さない。

 かといって悪印象もない。好印象でもないが。

 会話は殆どしなかった。


 その女のことを、なぜ覚えているのかは謎だ。




 あの娘が無様にやられると、すぐに元に戻される。

 だからレジナルドにとって選択肢は「助ける」しかない。




 ため息をついて、レジナルドは壁をすり抜け、念のため姿を消してオーガに近づく。

 あの娘の取る行動は二つ。


 逃げる。悪手だ。

 巨躯なオーガの歩幅に、あの娘は敵わない。

 背後から棍棒で押し潰されて終わり。

 ゆえに、こちらでオーガの背中を斬って助ける必要がある。


 助けを呼ぶ。これが一番楽だ。

 学園関係者が始末してくれれば、こちらの出る幕はない。



(さあ、どう出る? 娘……)



 面倒だから助けを呼んでくれよと願いながら、見守る。

 オーガとは視線が合ったようだが、まぁ、いざとなれば手助けをすればいい。


 だが、娘は、あろうことかキッとオーガを睨み返した。






「う、うあああああああっ!!!!」






(──は?)


 レジナルドは己の耳を疑った。

 なんだ、あの絶叫は。

 オーガにこっちを見ろといわんばかりではないか。

 しかもそのまま──娘は丸腰でオーガに突撃していった。


(おい待て、いったい何が起きている!?)

(あの女が、こんな行動を取るはずがない)

(記憶の中に残っていないとしても……あり得ない!)



 無謀だ。自ら殺されに行くというのか?

 お前は──そんな女ではなかったはずだ。

 淑女の鎧で感情を押し殺していた、炎を秘めた氷の女──。



「この私がしばらく相手だーーー!! お覚悟ーーーっ!!」



 ……どこが氷だ?

 炎そのものではないか。



 ドクン、と、心臓の音が大きくなる。

 今まで、生命の維持の証程度にしか感じてこなかった脈動。

 全身が、震えだす。


 娘は、さらに叫んだ。



「誰か今のうちにめちゃくちゃ強い人来てーーっ!! こいつを倒してぇぇ!!」



 なんて無茶苦茶で必死な呼びかけだ。

 だが同時に、カッと見開いた瞳に──強い意思を感じた。

 死を覚悟しながらも、生きることを諦めていない。



 なんだ。なんだこの感覚は。

 今まで、一度たりとも感じたことはない──。

 こんなことが、あり得ていいのか。



 しかし、ああ、あの女だ──。

 繰り返す運命の中で、予定調和を破壊してくれるかもしれない。

 ()()()()()()()。あの女こそ……。




 助けなければいけない。





「──お望み通り、俺が倒してやろう。勇ましいお嬢さん」





 初めてだった。

 自らの意思で助け、マリアンヌに声をかけてから、オーガを切り捨てたのは。

 そして彼女が無事だったのを見届けて、姿を消す。







 学園を離れて、心臓を掴むように胸を押さえる。

 治まらない、なんだ、この震えは……。



(まさか……)



 『最愛の魂』。

 欠落した魂を持つ自分にも、本当はいたのか?

 彼女がそうなのか?



 いや、そんな、都合のいい話……。



(……茶番だ)



 しかし、その日から──レジナルドは、マリアンヌを見守り始めた。

 そして気づけば、彼女を手に入れることばかり考えるようになった。




 マリアンヌが、欲しい。




 > セーブ

   ロード



次話から再び時系列が戻って、マリアンヌとの新規のラブラブ話になります。

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