26. 運命は繰り返す〜ゲーム本編・レジナルド視点〜
レジナルド視点のゲーム本編の回想編。
「レジナルド。お前に『最愛の魂』が現れることはないだろう」
父が俺にそう告げたのは、いつの頃だったか。
「お前の魂には、埋められぬ欠陥がある」
「人として生きたくば、この場で死ぬがよい」
「それでもなお生きることをやめぬなら、何も望むな」
俺に指図をするな。
高貴なる種を顕現させた俺を息子に持ったこと。
他者の最愛の魂を奪った盗人ごときが。
その身に余る至高の栄誉と心得ろ。
暗愚め……。
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「レジナルド様。夜の世界への道が開かれます」
従者の声に、閉じていた瞼を開いた。
ほんの僅かな間、夢を見ていた。
いや、あれは記憶そのものだ。
「申し訳ありません。お休みでしたか」
「……いや。構わん。進めろ」
「はっ!」
現世と隔たれた『夜の世界』へは、そのひずみを見つける以外に転移はできない。
だが、意図的にひずみを生み出すことはできる。
紅の魔眼。
モグリッジ皇国において百年に一度、国内に顕現するとされる。
魔を引き寄せる、大いなる力を秘めた証。
皇帝の一族に生まれれば吉兆と崇められるが、それ以外では凶兆として密かに始末されることも珍しくない。
だが、こんなのは、多少魔力が高い程度の証明でしかない。
それを皇帝──高貴なる種の権威と結びつけているだけだ。
大いなる力があるというのならば。
なぜ、この世はこんなにもままならない?
なぜ、誰もこの魂を救ってはくれない?
ひずみを作り出し、剣で切り裂けばあっさりと大軍が入り込める門となる。
一言命じただけで、兵士達が躊躇うことなく突き進んでいく。
諸外国との戦争を停止したのは、戦力をこちらに投入するため。
十八で即位してから、いやそれ以前から根回しをしていた。
そして今、全てが終わろうとしている。
「今宵も奴らは来るだろう」
「恐らくは。でも、まだ気配はありません」
「ならば各所に兵を配置させ、拠点強化も命じろ」
従者は探査・伝達の魔法に関して高い適性を持っている。
その魔法は自身でも使えるが、全て自分でやる必要はない。
「──何度、繰り返せば終わるのだろうな」
もしかしたら、世界の条理を変えられるのではないかと。
そう足掻いた瞬間がある。
たとえば、あの迷い込んだオーガに襲われていた娘……。
「何か仰いましたか?」
「……夜空の美しさを独り讃えただけだ。今夜はよく冷える」
「ああ、確かに。──各員、配置完了です」
「では、俺も往こう。お前は残れ」
「かしこまりました……陛下」
従者が地面に膝をついた。
「今日は、史上最大の記念すべき日となりましょう。なにせ『神』が降臨なさるのですから」
全てを投げ打つように、平伏する。
その様を、ただ冷ややかに見下ろす。
「陛下こそ、世界を統べる『神』に相応しい御方……我ら衆生を導き、お救いくださいませ」
「……気が向いたらな」
「結構でございます。『神』とは気まぐれなものです。だからこそ、人は祈ることしかできません」
雲のように消え、霧のように散る。そして転移する。
母にできたのだから、息子である自分も使えて当然だ。
マルモンテル王国はもはや死に体。
すでに契約は成っている。
邪魔者さえ排除すれば、世界は我が手に……。
「レジナルド! これ以上の暴虐は、我が剣にかけて許さん!」
「貴方の野望もここで潰えますよ、覚悟なさい」
「みんなぁ! いくぞぉ! 守りはオレに任せろ!」
「夜の煌めく星々よ、我らを勝利に導きたまえ……」
「大丈夫だよっ! 力を合わせれば勝てるっ!」
「私達は貴方と戦います……! 世界を守るために!」
往く先を阻む愚か者ども。
幾度幾度幾度幾度幾度幾度排除しようと。
お前らは、いつも現れる。
虚空から、雌雄一対の両刃剣を召喚する。
左右でそれぞれの柄を握り、構えた。
「戦い? 違うな。これは、蹂躙と呼ぶのだ! 愚か者ども!」
『電光石火』──奴らは、捉えることなどできない。
占星師が小賢しくも先回りして結界を構築したが、児戯!
だが、今回はそれなりに頭が回るようだ。
あの小娘が、意識を失わないための魔具を有している。
なるほど。回復の力を持つ者さえ無事なら、立ち回りは楽になる。
小娘を狙ってもいいが……それでは退屈だ。
「ならば──まずは、貴様だな」
みなを庇うように立つ、盾を構えた重装備の男を狙う。
『活殺自在』──盾も鎧も、無意味。
「っ、かはぁっ!!」
「ジークハルト先生っ!?」
確かな手応えがあった。
みるみるうちに、奴らは青ざめていく。
防衛の要が初手で倒れたのだから当然だ。
結界によって如何に損傷を抑えようとも、心臓を貫かれては終いだ。
「っ……オオオオオ!! まだまだぁ!!」
だが、やはり周到だ。男の頭上に現れた一枚の紙が、眩い光を放った。
復活の護符だ。
吹き出した血が男の胸に戻りきると、燃えて散った。
驚くことではない。使わせたことに意味があるのだから。
だが──ああ、虚しい……愚かしい。
くだらん。何も、かも。
またしても、退屈しのぎにすらならん。
全ては予定調和に過ぎん。
『いいよぉ、いいよぉ、それでこそだよぉ』
頭の中に、ノイズのように入り込んでいた声が大きくなった。
臨死状態になると、色んな声が聞こえるようになる。
だが、こいつだけは、いつもねっとりとまとわりつく……。
『だぁいすきよ、レジナルド』
神とは名ばかりの、ただの魔へと変じる肉体。
人たる全てを捨てて、暴虐と悪食の獣となる。
──そして、味わう敗北。
だが、屈辱を覚えるのはもう飽きた。
どうして。
最愛の魂が存在しない、俺は──。
なぜ、人としてこの世に生まれてきたのだ!
「……っは、はははは! 俺は……満足だ!」
「レジナルド……」
「我が屍を踏み越え、往くがいい。このくだらぬ世界を、陳腐な正義で救ってみせろ」
『貴方は、私と出逢うために生まれたのよ』
『最愛の魂とか、持たなくていいわ』
『だって、貴方はそれがいいんだもの』
だが、有象無象の中で、時折聞こえる。
まるで魔に穢れた俺に寄り添うかのような、静かで温かい声。
『なんで……助けられないの……?』
お前は誰なんだ?
いや、それはどうでもいい……ただ……。
──泣くな。
願わくば、それだけでも伝えてやりたい……。
だが、望みが叶うことは、ない。
砕けた肉体は氷に包まれる。
やがて生じる炎が氷を溶かして、肉体が元に戻る。
記憶はいつも途切れてしまう。
そして、何度でも生まれ変わる。
どんなことをしても、誰にも語れず、変えられなかった。
俺は『神』を目指す哀れで愚かな『剣豪皇帝』であり続ける。
これが、俺の運命だ。
運命は、繰り返す。──全ては予定調和。
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