表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/74

26. 運命は繰り返す〜ゲーム本編・レジナルド視点〜

レジナルド視点のゲーム本編の回想編。

「レジナルド。お前に『最愛の魂』が現れることはないだろう」


 父が俺にそう告げたのは、いつの頃だったか。


「お前の魂には、埋められぬ欠陥がある」

「人として生きたくば、この場で死ぬがよい」

「それでもなお生きることをやめぬなら、何も望むな」



 俺に指図をするな。

 高貴なる種を顕現させた俺を息子に持ったこと。

 他者の最愛の魂を奪った盗人ごときが。

 その身に余る至高の栄誉と心得ろ。

 暗愚め……。





 > ロード




「レジナルド様。夜の世界への道が開かれます」



 従者の声に、閉じていた瞼を開いた。

 ほんの僅かな間、夢を見ていた。

 いや、あれは記憶そのものだ。


「申し訳ありません。お休みでしたか」

「……いや。構わん。進めろ」

「はっ!」


 現世と隔たれた『夜の世界』へは、そのひずみを見つける以外に転移はできない。

 だが、意図的にひずみを生み出すことはできる。


 紅の魔眼。


 モグリッジ皇国において百年に一度、国内に顕現するとされる。

 魔を引き寄せる、大いなる力を秘めた証。

 皇帝の一族に生まれれば吉兆と崇められるが、それ以外では凶兆として密かに始末されることも珍しくない。

 だが、こんなのは、多少魔力が高い程度の証明でしかない。

 それを皇帝──高貴なる種の権威と結びつけているだけだ。


 大いなる力があるというのならば。

 なぜ、この世はこんなにもままならない?

 なぜ、誰もこの魂を救ってはくれない?




 ひずみを作り出し、剣で切り裂けばあっさりと大軍が入り込める門となる。

 一言命じただけで、兵士達が躊躇うことなく突き進んでいく。

 諸外国との戦争を停止したのは、戦力をこちらに投入するため。

 十八で即位してから、いやそれ以前から根回しをしていた。

 そして今、全てが終わろうとしている。


「今宵も奴らは来るだろう」

「恐らくは。でも、まだ気配はありません」

「ならば各所に兵を配置させ、拠点強化も命じろ」


 従者は探査・伝達の魔法に関して高い適性を持っている。

 その魔法は自身でも使えるが、全て自分でやる必要はない。




「──何度、繰り返せば終わるのだろうな」



 もしかしたら、世界の条理を変えられるのではないかと。

 そう足掻いた瞬間がある。

 たとえば、あの迷い込んだオーガに襲われていた娘……。




「何か仰いましたか?」

「……夜空の美しさを独り讃えただけだ。今夜はよく冷える」

「ああ、確かに。──各員、配置完了です」

「では、俺も往こう。お前は残れ」

「かしこまりました……陛下」


 従者が地面に膝をついた。


「今日は、史上最大の記念すべき日となりましょう。なにせ『神』が降臨なさるのですから」


 全てを投げ打つように、平伏する。

 その様を、ただ冷ややかに見下ろす。


「陛下こそ、世界を統べる『神』に相応しい御方……我ら衆生を導き、お救いくださいませ」

「……気が向いたらな」

「結構でございます。『神』とは気まぐれなものです。だからこそ、人は祈ることしかできません」



 雲のように消え、霧のように散る。そして転移する。

 母にできたのだから、息子である自分も使えて当然だ。


 マルモンテル王国はもはや死に体。

 すでに契約は成っている。

 邪魔者さえ排除すれば、世界は我が手に……。





「レジナルド! これ以上の暴虐は、我が剣にかけて許さん!」

「貴方の野望もここで潰えますよ、覚悟なさい」

「みんなぁ! いくぞぉ! 守りはオレに任せろ!」

「夜の煌めく星々よ、我らを勝利に導きたまえ……」

「大丈夫だよっ! 力を合わせれば勝てるっ!」



「私達は貴方と戦います……! 世界を守るために!」



 往く先を阻む愚か者ども。

 幾度幾度幾度幾度幾度幾度排除しようと。

 お前らは、いつも現れる。



 虚空から、雌雄一対の両刃剣を召喚する。

 左右でそれぞれの柄を握り、構えた。




「戦い? 違うな。これは、蹂躙と呼ぶのだ! 愚か者ども!」




 『電光石火』──奴らは、捉えることなどできない。

 占星師が小賢しくも先回りして結界を構築したが、児戯!


 だが、今回はそれなりに頭が回るようだ。

 あの小娘が、意識を失わないための魔具を有している。

 なるほど。回復の力を持つ者さえ無事なら、立ち回りは楽になる。

 小娘を狙ってもいいが……それでは退屈だ。


「ならば──まずは、貴様だな」


 みなを庇うように立つ、盾を構えた重装備の男を狙う。

 『活殺自在』──盾も鎧も、無意味。



「っ、かはぁっ!!」

「ジークハルト先生っ!?」



 確かな手応えがあった。

 みるみるうちに、奴らは青ざめていく。

 防衛の要が初手で倒れたのだから当然だ。

 結界によって如何に損傷を抑えようとも、心臓を貫かれては終いだ。


「っ……オオオオオ!! まだまだぁ!!」


 だが、やはり周到だ。男の頭上に現れた一枚の紙が、眩い光を放った。

 復活の護符だ。

 吹き出した血が男の胸に戻りきると、燃えて散った。

 驚くことではない。使わせたことに意味があるのだから。





 だが──ああ、虚しい……愚かしい。


 くだらん。何も、かも。

 またしても、退屈しのぎにすらならん。



 全ては()()調()()に過ぎん。



『いいよぉ、いいよぉ、それでこそだよぉ』



 頭の中に、ノイズのように入り込んでいた声が大きくなった。

 臨死状態になると、色んな声が聞こえるようになる。

 だが、こいつだけは、いつもねっとりとまとわりつく……。



『だぁいすきよ、レジナルド』



 神とは名ばかりの、ただの魔へと変じる肉体。

 人たる全てを捨てて、暴虐と悪食の獣となる。

 ──そして、味わう敗北。

 だが、屈辱を覚えるのはもう飽きた。




 どうして。

 最愛の魂が存在しない、俺は──。




 なぜ、人としてこの世に生まれてきたのだ!




「……っは、はははは! 俺は……満足だ!」


「レジナルド……」


「我が屍を踏み越え、往くがいい。このくだらぬ世界を、陳腐な正義で救ってみせろ」






『貴方は、私と出逢うために生まれたのよ』

『最愛の魂とか、持たなくていいわ』

『だって、貴方はそれがいいんだもの』






 だが、有象無象の中で、時折聞こえる。


 まるで魔に穢れた俺に寄り添うかのような、静かで温かい声。





『なんで……助けられないの……?』





 お前は誰なんだ?

 いや、それはどうでもいい……ただ……。


 ──泣くな。


 願わくば、それだけでも伝えてやりたい……。

 だが、望みが叶うことは、ない。




 砕けた肉体は氷に包まれる。

 やがて生じる炎が氷を溶かして、肉体が元に戻る。




 記憶はいつも途切れてしまう。

 そして、何度でも生まれ変わる。

 どんなことをしても、誰にも語れず、変えられなかった。







 俺は『神』を目指す哀れで愚かな『剣豪皇帝』であり続ける。


 これが、俺の運命だ。


 運命は、繰り返す。──全ては予定調和。






   セーブ

   ロード

 > タイトル画面へ戻る

   環境設定




 追加ファンディスクをプレイ開始しますか?


 > はい

   いいえ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ