表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/74

25. 愛は瞠目3〜愛しいマリアンヌ〜

 結局、ダイスのレッスンはしないままお開きになった。

 先生公認でサボった……ことになるのかな?



 もう日も暮れ始めている。

 レジナルドは本当に忙しいらしくて、夕食は一緒には無理だって。

 見送りは結構だっていうから、私は部屋から出ずに送り出すことにした。


 心配せずとも、あれ以上の進展はなかったですからね?

 ゆっくり愛を育むための仕切り直しですからね?

 まぁ、その、ずっと手を握ってたりとかは、しましたけど?

 指を絡ませて、かるーいキスぐらいは、ね?

 あ、あと星を見たりとか!



「陽が落ちる直前の空をよく見ろ。暗くなった場所に星が見える」

「本当ですね……。月は見たことあるんですけど」

「日中は、星が見えない。だが、見えないだけでそこにある」

「ええ」

「お前が思う以上に──俺が、お前を想っていることを忘れないでくれ」

「……はい」


 綺麗でした。

 真夜中に比べると弱々しく見える光だけど。

 ファーストキスをした窓辺で一緒に眺めた星を、私は忘れません。


 そんな感じの、他愛のない会話だけですよ?

 ……私、誰に言い訳してるんだろ。



「明日も来てやる。ダンスを教えられんかったからな」

「本当ですか?!」

「何なら明日、二枚目の花弁を散らせても構わんぞ?」

「花弁……ひゃわっ! そ、それは、け、結構です!」



 もうすでに、隠しにくい場所についてて困ってるんだよ。

 あーあ……レインは何もいわなさそうだけど。

 お母様はハイパー上機嫌になりそう。

 お父様は……うーん、ま、複雑だろうけどねぇ。


 どーしよ? ハイネックのドレス、しばらく着とく?

 スカーフはちょっとあからさまだしなぁ。


 ま、学園も卒業したし。

 婚礼まではできるだけ家にいるし。大丈夫……かな。



「マリアンヌ」

「はい?」


 名前を呼ばれてレジナルドを見上げると、唇を静かに塞がれた。

 啄むように何度か重ねた後、静かに離れていった。


「お前、鼻血を出さなくなったな」

「へっ? ……んもーっ! 忘れてくださいー!」

「いくらでも俺が拭ってやる。それにお前の美しさは、血なんかで損なわれはしない」


 ひーーっ!

 甘い、甘いぞ!

 このレジナルド、容赦なく甘いぞ!!

 あかん、今鼻血が出そう。


「今夜は特に、独り寝が堪えそうだ」


 甘さは最高潮。

 掠れぎみのウィスパーボイスが、私の背中を痺れさせる。


「……性急な男は嫌われますよー……?」

「それは困る。仕切り直すのに、嫌われては意味がない」

「じゃあ、婚礼まで我慢してくださーい……」

「前世から俺を追っかけてきた熱烈な女のくせに、焦らすものだ」

「……むー」


 じーっと見上げながら告げると、レジナルドは笑って、私の額にキスをした。

 あ、汗とか、大丈夫だったかな。



「『愛は瞠目』とは、よくいったものだな」

「え? 『恋は盲目』じゃなくて?」

「……。後で辞書でも引いとけ」



 えー……子ども扱いされてる?

 おいおいおい。


 てか、マリアンヌ自身の記憶にもないけど。

 ……ま、いっか。



「じゃあ、おやすみなさい。レジナルド」

「他の男の夢を見るなよ」



 あ、またキスされた。頬にだけど。

 何回キスするんだよー。嬉しいけど。でへへへ。

 それに、見ませんよーだ。

 他の男の夢なんて。



「じゃあ、夢の中に逢いに来てください!」

「なに?」

「そしたら、ずっと一緒ですね?」

「……お前は欲ばりな女だな」

「そうです。私は欲ばりなんです!」


 なーんて、ドヤ顔してみたりして。


「俺が来たら、夢の通い路は閉じろよ。他の奴が来ないように」

「もちろんです!」

「意味をわかっているのか? まぁいい。おやすみ、愛しいマリアンヌ」





 マリアンヌと呼ばれることに、実は最近まで少し違和感があった。

 前世の記憶のせいだけど。


 でも……今は全然。

 前世の私もいるけど、私の中にはマリアンヌがちゃんといる。

 一つになっていっている?

 ……まぁ、性格はもうちょっとお淑やかに戻らないとなぁ。



 レジナルドにマリアンヌと呼ばれると、すごく、嬉しい。

 私と貴方が、今、生きているんだなって実感する。



 それにレジナルドも、前世をあっさり信じてくれた。

 ……ま、限界オタクの片恋だったとは、いえなかったけどさ。

 これから、少しずつ、今生の私として、新しい関係を作ればいいよね。




 廊下に出たレジナルドの背中を、私はドアを閉めずに見つめて、手を振る。

 彼もこちらをちらりと見て、振り返してくれた。



 ああ、なんか、一気に色々起きた……。


 まずはベアトリスの前世のこと。

 それとレジナルドに前世のこといっちゃったり、思い切って仕切り直しさせてもらったりとか。

 あの人が意外とキス魔だってこともわかった。


 私のやるべきこと。アニエス達との対話。

 あと聞きそびれてた、レジナルドが結婚を早めた理由の確認とか。

 それと、彼がどこまで知っているのか。

 今日はふわふわしちゃったけど、話し合わなきゃね。


 うん、だいぶ方向性はまとまったかも。


 しかし、アニエス達にはどう切り出そうかなぁ。

 私、悪役令嬢だからさ……向こうから見て、心証悪いんだよね。


 でも、幸せだな……とても。

 ずっと、こんなのが続けばいいな。


「さーて、ご飯食べて、今日は早めに寝よっ!」


 夢の中で待ち合わせなんて、ロマンチックだなー!

 もうすでに逢いたい。

 うん、でもよく……夢で逢ってるもんね。

 ハッ! 覚えてません! 詳細は覚えてませんってば。









 だけど、夢の中にレジナルドは来てくれなかった。

 私、ずっと、待っていたんだけどな。



 ねぇ。貴方は今、どこにいるの?



 ……さびしいよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ