24. 愛は瞠目2〜誓いは甘く欲深く〜
「……回りくどいな」
「は、はぁ?!」
こっちが必死で何とかまとめた考えを、今、この人速攻で批判した。
しかも抱き締めながらよ?
う、うう。でも、そういうハッキリした人なんだよなぁ。
うん、嫌いじゃない。
……好きだわ。
マリアンヌとして出逢ってまだ本当に日が浅い。
でも、私はずっと貴方が好きだった。
……その分を差し引いても、大好き。
貴方は? 求婚するぐらい、私のどこが好きなの?
「まず……言葉が足りないのではなく、理由が足りないといったな」
「そ、そうです」
「この柔らかな肌も、甘やかな匂いも、揺れる髪も、理由にはならんか?」
「ん、んん?」
「俺は、お前の全てが好きだ。見た目も性格も心も、何もかも」
……んもーーっ!! それ先にいってよーー!!
回りくどいのはどっちよーー!!
知恵熱出そうなぐらい、色々こねくりまわしって考えたんだから!
あ、じゃああんまり深く考えなくてもよかった?
なんかさ、レジナルドが悩んでいるように見えちゃったからさ。
あ、でも、そうか。うん、好き……かぁ……。
でへへへへへ……溶けそう。
「あと、オーガに一人で立ち向かう勇敢さだな」
「!!!! やっぱりあれは貴方が倒したの?!」
「でなきゃお前は死んでいただろうな」
「うぅ。……その節は、ありがとうございました……」
「どういたしまして」
なんであそこにオーガがいたのか。
レジナルドが学園にいたのか。
そういうのはもう、今日は聞かないことにした。
……助けてくれたのは本当だし。
「あの時に完全に惚れた。……どうだ。これでいいか?」
「う、あ、あう……じゅうぶんです……」
確かに半年前というと、心当たり……あれしかない。
あ、あの無謀な突撃で惚れたのか。
レジナルド、恐るべし。
……最初から、あの時に好きになったんだよって。
そういってくれたらよかったのに……!
でも……今、はっきり聞けたし……。うん。
しょーがない、許したげる。
……なんてね。
「お前が婚約破棄された時は、好機だと思った」
「私が……ラファエルと上手くいっていないこと、ご存知だったんですか?」
「いや。ただ、俺は狙った獲物は逃さないたちでな」
……もし、ラファエルと結婚していたら?
それでも、私を求めてくれた?
私を、奪いにきてくれた……?
なんて、もう考えても意味はないんだけどさ。
「ところで、お前は? 俺のどこか好きなんだ?」
「え、えっと……す、すごく強くて……格好良くって……」
「あのラファエルも、それなりに強くて美男子ではないか」
「私はレジナルドの方が好き!」
「いつからだ?」
「そ、それは……」
ぐいぐいくるなぁー!
「……ぜ、前世って、いったでしょ……?」
「それじゃあ、浮気にならんか?」
あ、これわかってて聞いてる?
レジナルド、絶対ニヤニヤしている。
いやーー全員同時攻略とかはしたことありますけどね?
「そ、それとこれとは違うというか。うー……前世は前世だし」
限界オタクの片恋ですよ。しかも次元が一つ違う。
そこまでは、さすがにいえないなぁ。
すると、レジナルドが低く笑った。
「その前世には大いに興味がある……が、お前はお前だ。他の誰でもない」
「……はい」
「その上で、仕切り直し宣言を受けて立つ。覚悟しておけ」
ちゅう、と、首筋に唇を押し当てて、レジナルドが私の肌を吸った。
「あっ、やっ、ちょっと」
「これからずっと、お前の肌のどこかに、俺の痕跡が残る」
「っ……」
「お前は俺のものだと、皆に知らしめたい。そんな欲深い男を、まだ好きといえるか?」
「はい……」
そう返すと、レジナルドがやっと顔をあげてくれた。
紅い眼が、いつもより柔らかく細められている。
「仕切り直しなんて不要じゃないか?」
「う……でも」
「まぁ、いったからな。お前の望みを叶えてやると。今からまた関係を築いていきたいと願うなら、俺は吝かじゃないんだ」
「レジナルド……」
「そんな可愛い顔をするな、今すぐ欲しくなる」
「ひぇっ!」
悲鳴をあげると、レジナルドが噴きだした。
私は相手が皇帝陛下だということもすっかり忘れて、恥ずかしくてその肩をパンパン叩いた。
びくともしない。
「たったこの瞬間だけでも、新たな理由はたくさんできたが……そうだな。ゆっくり育んでいこうか」
「はい……!」
「俺の望みを、きっと、お前は叶えてくれるはずだからな」
「……『神』になることですか?」
答える代わりに、レジナルドが唇を重ねてきた。
ようやく唇を離された時、私はくったりとして、今度は彼に身を預けてしまった。
再び、私はレジナルドの腕の中に収まる。
私もだけど、彼の身体も熱い。
「俺は、戦うことをさだめられた身だ」
戦いとは、周辺諸国のことではない。
夜の世界のこと──。
本来なら、断罪の時点ではラファエルのルートはまだ終わっていない。
むしろこれからあの世界で戦いが激化するタイミング。
ルートに囚われないと決めたけど、アニエスがもしラファエルを攻略しているなら。
……レジナルドとの恋愛と、衝突しかねない?
レジナルドは、夜の世界へ行って、アニエス達と戦うの?
こればかりは、逆らえないの?
……絶対に、嫌。
「だが、もう少しやり方を考えてみるさ」
「えっ……!」
「愛妻を悲しませる、不実な夫にはなりたくない」
「っ……」
「俺は随分、甘くなったものだ。お前のせいだな」
ああ、じゃあ──。
平和に生きていける道、きっと、あるんだね。
レジナルドが、『神』になるのを諦めてくれるなら。
「そこは、私のおかげ、と、いってください!」
「……お前という女は、ふっ、くく……ははは」
好きよ、レジナルド。
貴方、屈託なく笑うと、すごく可愛いんだね。
こんなの立ち絵でもスチルでも、絶対に見れないね。
冥府魔道に堕ちても、誇らしげに笑っていた貴方が好き。
だけど、人間らしくて甘くなった貴方も──私、大好き。
私も、今この一瞬で、貴方が好きな理由が増えちゃった。
貴方の“変化”を、私は受け入れる。
『神』にならなくてもいいよ。
恋よりも神の道を選ぼうとした、変わらない貴方に安心したけど。
あの時の私を、今は引っ叩きたくなってる。
……生き残るだけじゃ、だめ。
幸せにしてあげたい。幸せになりたい。
この世界に生きる、人間として。
今生は今生で、私達、ちゃんと見つめ合っていこう。
大丈夫、きっと、何でも乗り越えられる。
……私、まずはアニエス達と話をしなきゃ。
レジナルドと戦う必要はもう、ないんだって。