23. 愛は瞠目1〜貴方が好き。前世から。〜
「おい。この点数はなんだ?」
「……すみません……」
「お前、学園では首席だったのではないのか?!」
「す、すみませーーーーん!!」
私は今、デスクに向かっていて……。
隣に座る最推しに、めちゃくちゃ怒られている。
「なぜ、百年単位でぴったりずれて間違うんだ?」
今、私はレジナルドから、皇国の歴史について教わっている。
いやー凄いよね。皇帝自ら教えてくれるってさ。
でも学園でも習ったし、歴史、覚えてはいるんですよ?
マリアンヌは成績優秀だったからね。
年表を全て百年ずれて記入してしまって、0点だけどさ。
「その年表、プラス百したら合っていますから……ゆ、許していただけないでしょうか?」
「許さん」
「あう……」
「テストだからいいが、公の場で間違えてくれるなよ?」
「……面目ありません……」
ごもっともです。
レジナルドの皇妃になるのだから、間違いはダメですね。
でも、でもさ?
私がミスした原因はさ……レジナルドにもあるんだよ?
つい一時間ほど前。
私は、ファーストキスを経験した。
もちろん、今、隣で盛大に眉根を寄せている婚約者と、だ。
しかも結構、深いキスだった気がする。
いやわかんないけど。比較対象がないし。
でも、どうして……キス、してくれたんだろう?
泣いて眼が真っ赤だったから?
レジナルドからしたら、頭を撫でるぐらいの感覚でしかないのかなぁ。
うなじや耳の時は鼻血が出て大変だったけど、それはなかった。
でもでも、時間が経ってくると!
頭がめちゃくちゃふわふわ、ふわとろ食感(?)よ!!
レジナルドが教えてくれる間、頭に何も入ってこないのよ!
で、ミスして0点取って、怒られているってわけ。
「基礎知識に誤りがあると、お前を侮る人間が内部から出てこないと限らない。それは肝に銘じておけ」
「……はい」
でも本当に反省しているんですよ。
モグリッジ皇国の歴史。
教科書には、とても輝かしい偉業ばかりが書き連ねてあるけど、その分だけ深い闇を感じた。
だから、私は……ちゃんと、覚えておかなきゃいけないんだな、って。
だって、皇妃になるんだから。
「調子が狂う。お前の威勢の良いところ、俺は好ましいと思っているんだ」
「そこだけ、ですか?」
「ん?」
「レジナルドが、その……私のことを好きな理由、です」
もう、直接聞いちゃおう。勢い大事。
恋愛ルートが開けた理由は、恐らく私が彼を『神』にすると約束したから。
(そ、それでもいいって、思っていたのに)
だんだん欲ばりになっていく。
神になるために必要だから、じゃなくて。
恋愛ルートなら……ちゃんと、好きになる理由があるはずだし。
できれば、私自身を好きになってほしい。
「……おい」
「は、はい」
「お前は、俺の話を今までちゃんと聞いていたのか?」
今は、授業中でしたね!
も、申し訳ござらーん……!
「まだ言葉が足りないのか?」
「……へ?」
「俺は充分伝えたつもりでいたんだが」
「……へぇぇ??」
はい。言葉は結構貰いましたけど。
私が知りたいのはっ、私を好きになった理由!
ワードでなくてリーズンですよ!
「……だって、半年より前はアウト・オブ・眼中で」
「アウ……? まぁ、可愛げのない女とは思っていた」
おい!
「俺はお前が思う以上に、お前を想っている」
「は、はい。でも、でも、言葉じゃなくて、ですね」
「……俺は……また、間違えたのか?」
え?
今、なんて……?
また?
「『最愛の魂』が理由ではダメなのか?」
「え、え?」
「『最愛の魂』といえば、それだけで伝わるものではないのか?」
どうしたの?
なんで、そんな、必死な顔をするの?
「お前のはずだ! 俺の『最愛の魂』は……!」
……わからない、です。
私が、知りたいです。
でもなんかそんな、高次的?な理由じゃなくて……。
「……っ!」
突然、私はレジナルドに抱き締められた。
何度も抱擁されたけど、こんなに性急で、熱いのは、初めてだ。
「……ようやく探し出せたと思った」
「レ、レジナルド……?」
「俺が望むものは、どうあっても得られないのか……?」
貴方は何を望んでいるの?
やっぱり、どうあっても『神』になりたいの?
貴方の目指す道は、それしかないの?
……平和な愛情なんて、貴方は要らないのね?
それで、いいのね?
ああ、なんだか──頭の中に、見たことがないはずの選択肢が浮かぶ。
>貴方の望みを、今すぐ叶えてあげる。
>貴方は、何が怖いの?
>
「……。レジナルド」
私は、一切震えもしていないその背中を撫でた。
「私ね、貴方が好き。大好き。実はね、前世から大好きなの」
「前世……」
「でも……仕切り直し! 今の貴方と今の私で、ちゃんと恋がしたい!」
きっと、何をいっているかわかりにくいと思うけど。
「そして貴方にも、いくらでも理由が思いついて、私にも全部わかっちゃうぐらいに、私をたーくさん好きになってほしいです!」
どうして好きなのか。
前世から引きずっているって、運命的なようだけど。
でも、それは今の自分も今の彼も、見ていないことになりかねない。
私に「『神』にしろ」といったレジナルドが、私の何を知っているのか。
確かに気になるけども、でも、それはお互い様ね。
よくよく考えたら、私達は本来なら、殆どお互いを知らないはず。
もうここは、私にとっての現実。
ルートを選ぶんじゃなくて、道を拓かなきゃ。
そう思うとこの人を、『神』にはしたくない。
全てを蹂躙する魔道の先に、幸せがあると思えない。
二次元だと格好良すぎて素直に受け入れたけど。
現実だとやっぱり、人としての幸せを見つけたくなってしまう。
まずは、彼がどうして神になりたいのかを、見つめていかなきゃ。
うんうん。まだ、やり直せる!
「貴方が、好き。きっと前世の私よりもっと、貴方を好きになる」
震えず、涙も流さず、でも泣いている貴方を抱き締めていると。
愛しさが、溢れて止まらない。
私、今ここに生きる人間として、ちゃんと──好きよ、レジナルド。
……前世の私なら、彼の弱い姿は解釈違いだって怒ってそうね。
でも、いいじゃない。
前世は、前世で。今は、今。
今の私は、これが正解だと思ってる。
生きている人間として、お互いを見つめ直しはじめる二人のお話です。