番外編 海とヤバい水着と彼シャツと
※本編と別の「コラボカフェ設定」パラレル時空です。
『BELOVED SOUL3』初のコラボカフェ開催!
テーマは海! トロピカーナ☆ロマンス!
キャラクター達の水着姿を初公開! 描き下ろしグッズ多数!
──時空がねじ曲がっている。
眼が覚めたら、そこは海だった。
私こと『めかぶ大好き娘』ことマリアンヌ・ド・ラ・アズナヴールは、割とこの光景自体はすんなり理解した。
なぜなら、周りにいたのはアニエスと戦士達で、彼らは全員水着姿だったから。
あ、これ。発売直後ぐらいのコラボカフェの新規絵だわ。
「アニエス! こっちへおいで」
「ま、待ってくださいっ、ラファエル殿下!」
「ほら、水が気持ちいいだろ?」
ラファエルがアニエスの手を引っ張って、海へと駆けていく。
おーおーおー!
これはなかなか眼福な光景ですなぁ……!
このコラボ、アニエスの水着姿がギャンかわなんだ。
私もアクスタ買ったよ! かわいいから。
ピンクのフリルつきビキニのアニエス。良き。
しかしこれ、トロピカーナ☆ロマンスってサブタイなんだけどさ。
私と友達(あいこちゃんと芭蕉ちゃん)の間ではずっと『すっぽんぽん☆ロマンス』と呼んでた。
男ばかりで、基本的に半裸だもんなぁ。
……で。
確かこれ、私の最推しレジナルドは、いなかったんだよね。
だから私は、友達のランダム特典チャレンジの協力員として参戦した。
全員で三十杯ドリンクを飲んで、やっと芭蕉ちゃん最推しのノアが出て、あいこちゃんもまじえて泣いたっけ。
交換出せばいいんだけど、ま、そこはね。ノリよね。
なのにさ。
マリアンヌの私も、ばっちり水着姿になってるってわけ。
無論、描き下ろしの中に彼女もいなかった。
いなかったのに。
「な、な、なんで……黒のっ、スーパーハイレグ!」
もはやこれ、セクスィーランジェリーレベルなのでは。
しかもTバックだし。肩紐は首後ろで結ぶから心もとないし。
布面積が少なすぎてこれ、ビキニより恥ずかしい。
え、ていうかこれどんな構造してんの?
おいおい公爵令嬢がこれでいいのか?!
ダメだろ! 公式、これはあかん!!
でも、マリアンヌ……。
プロポーションばっちりだから、似合ってしまう。
うーん、この新規絵あったら、アクスタ買ったかもな。
とりあえず、人目につかない場所に行くしかない。
「扇情的な装いだな、マリアンヌ」
「ひゅわーーーーっ!?」
背後から声をかけられて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。
声だけで充分わかるけど、私は慌てて振り返った。
「どどどど、どうしてレジナルドがここに?!」
「知らん。気づけばこんな格好でここにいた」
レジナルドは、深い赤でハイビスカス柄の開襟シャツ(ハワイアンシャツ?)に、黒のサーフパンツ姿だった。
銀髪に赤い眼の彼には、深い色がよく似合う。
あ……うん、いいですね……。
格好良いです……サマになってます、はい。
パーカーを着ているノアを除けば、露出はかなり少ない。
なのに、すごくセクシーだ。
クラクラしてしまう……の前に!
「わ、私も気づいたらここに! あのっ、これは私の意思じゃありません!」
「よく似合っているぞ」
「いやあっ! いわないでくださいっ!! 見ないで!!」
ぶんぶん手を振る。すると、胸もたゆんと揺れる。
マリアンヌ、巨乳なんだよなぁ……!
だが、パシッとあっさり手首を掴まれてしまった。
「あまり騒ぐと奴らがこっちに来るぞ?」
「っ!」
「仮にも公爵令嬢が、こんなに肌を晒しては……明日から、お前の大胆な噂で社交界は持ちきりだな」
「そ、それは……っ」
「恥ずかしいか? だが、些末なことだ。どうせお前は……すぐに俺のものになる。王国でのことなど関係ないだろう」
くくっと、レジナルドが低く笑う。
手は離してくれない。
「……関係、あります」
「ん?」
「本来、モグリッジの皇帝ともなれば、皇妃は王家以上の姫でなければいけません。それを公爵の娘がなるのです……さ、さすがに、慎みのない格好をしたのが噂になるのは、どこであっても宜しくないかと!」
あーあ、最推しの責任にしちゃったなこれは……。
でも、本音をいうと、はしたない女だって思われるのが嫌なんだ。
もうさ、公式様に神様……なんでこんなセクスィーにしたのよ……。
「お前を悪しざまにいう奴がいるなら、俺は容赦しない」
「え……?」
「だから安心しろ。警告のつもりだった。その格好は、なかなか刺激が強い。お前が思う以上にな」
「あ、え、えっと」
「俺以外の男を誘惑してくれるなよ。嫉妬で狂いそうだ」
ひょ、ひょえ……。
叫ぶこともできない……。
あうあうあうあうあう。
ゆ、誘惑って! 嫉妬ってなんですか!
それ、私が好きだからいうの?
単に自分のものをとられるのが……我慢ならないだけ?
……あれ、でもここってコラボカフェの世界だから。
まだ、レジナルドの恋愛ルートは……影も形もないのでは?
びゅうううっ!
潮を孕んだ強風が背後──つまり海の方から突然吹いた。
「きゃあっ!」
追い風だから、髪が激しく乱れる。
頭を自由な方の手で押さえた、その時だった。
いきなり、首が軽くなった──。
しゅるる、はらり。
「──っ!!」
か、か、肩紐がっ! 外れた!
締めつけがなくなって、開放感ばっちり!
片手はレジナルドに掴まれたままで、もう片方は頭を押さえていたせいで、とっさに押さえることができなかった。
これがビキニだったら、胸だけで済んだのに。
最推しの目の前で……わ、私、すっぽんぽ……ん。
い。
「いいぃいいいいやあああああああああぁぁっ!!」
今世紀(?)最大の絶叫をぶっ放してしまった。
「な、なに?! なんだ?!」
「マリアンヌ様の声だわ!!」
「敵襲かっ!? みんな、武器を持って!」
あ、これ詰んだ。背後から声が聞こえてきた。
露出狂の噂が流れる未来が、走馬灯のごとく駆け巡った瞬間。
「うぇっ」
レジナルドが、すばやく私を背後に回すように引っ張って、手を離した。
突然だったので、私はよろけて砂浜に座り込んでしまった。
レジナルドには、背を向ける形となった。
すると、肩にふわりと深い赤の開襟シャツがかけられた。
(え、これって……)
本当に一瞬の出来事だった。
「き、貴様は……レジナルド! マリアンヌに何をした!」
後ろから聞こえてきたのは、ラファエル王太子殿下の声だった。
私はとにかく必死で、シャツごと自分の肩を抱き竦め、縮こまった。
「体調が優れずにいたところを、少し介抱しただけだ」
「嘘をつけ! 信用できるか!」
「おやおや、婚約者を放り出し、平民の娘に夢中だったのはどこのどいつだ?」
(あ、あれ? 私、まだラファエルの婚約者なの?)
おいおい設定が矛盾しとるんじゃないのかい?
でも今、声なんてかけたら……気づかれてしまうかも。
シャツの下が、水着が取れてすっぽんぽんなことを。
(あっ!? じゃあ水着、その辺に落ちてるんじゃないの?!)
やばすぎる。どうかどうか誰も気づきませんように!
というか、お願い! 早く向こうへ行って!
「ともかく、お互いこんな格好だ。今日は休戦といこうではないか」
「何を……」
「これは慈悲だ。俺一人でお前らを屠るなど、造作もないのだからな」
「お前は丸腰ではないか!」
「……素手で充分だ」
あ、固有スキルの気配。
確かに素手でも強そうだし、魔法もあるし。
しかも全体攻撃だし、即座に行動できる技ある。
むしろ防具がない向こうのがやばくない?
「あ、あの……レジナルド皇帝陛下」
聞こえてきたのは、アニエスの声だ。
「本当に、今日は休戦してくれるんですか?」
「ア、アニエス! いったい何を」
「だって、こんなところで戦ったら、マリアンヌ様が危険です! 立ち上がれないぐらい、今は具合が悪いのですよ?」
立ち上がれないのは、別の理由なんだけどね。
うーん、アニエス……貴女、マジ天使。
私が男だったら攻略されたい……っ!
「約束しよう。彼女に手は出さない。お前達が戦うというなら、その時は知らんがな」
「私がさせません!」
「アニエス! 君はあの男を信用するというのか」
「大丈夫。レジナルド、……さんは、マリアンヌ様に危害を加えないと思います」
「なぜいい切れるんだい?」
「お……。女のっ、勘です! じゃあ、本当に、マリアンヌ様をお願いします」
それじゃあ、といって、アニエスが去って行く気配があった。
その後をラファエル達が追っていく。
(女の勘? うーん、ゲームだと間違った選択肢っぽい台詞)
しかし、助かった。
みんなには、裸を見られずに済んだ。
さて、水着は……どこ……?
「着ろ」
「え?」
「そのシャツを着ろ。羽織るのでなく、袖を通してボタンをしっかり留めろ」
「で、でもまずは水着を」
「黙っていうことを聞け」
「は、はいっ!」
私は急いで立ち上がった。
そしてレジナルドの開襟シャツに袖を通し、上から下までしっかりとボタンを留めた。
(……おっきいな)
マリアンヌも背が高い方だけど、レジナルドは登場キャラの中でも高身長。しかも鍛え上げられていて、肩幅もある。胸も突っ張らない。
元々こういうシャツは丈が長くないから、どうしても裾は短いけど。
おかげさまで、最低限隠すことはできた。
「貸してくださってありがとうございます! うわっ!」
庇ってくれたお礼をいいながら振り返った時、私は宙に浮いた。
──レジナルドに、抱き上げられてる……!
私は慌てて、しがみつくように彼の首に腕を回した。
「岩場の裏は陰になっている。ここにいては日焼けする」
「はい……」
「お前の白絹のような柔肌を焼くのは……惜しいからな」
「う、え、あ、……でも、一人で歩けますよ?」
別に体調不良じゃないし。
というか、今の状況も結構、恥ずかしいですね……。
「たまには騎士を気取らせろ。今日は気分がいいんだ」
「そ、そうなの?」
「お前のあられもない姿を見せてもらったからな」
「いやああっ! 忘れてーっ!」
「遅い。もう眼に焼きつけた」
なんだろ……レジナルド、今日すごく甘くない?
初期のコラボカフェだから、そもそもいないはずだし。
恋愛ルートなんて、要望なんてまだ出してもいないのに。
──それに、温かい。
素肌の胸には、よく見ると傷がたくさんある。
耳を澄ますと、トクン、トクンと、鼓動が聞こえてくる。
(生きてる。レジナルド、生きているんだ)
ここは、コラボカフェの世界。
きっとパラレルワールドのはず。
だって、私……ラファエルの婚約者じゃなくて、今は、彼の婚約者のはず。
時空がねじ曲がっている。
なのに、ここに、彼も来てくれるなんて。
「あ、あの……ところで、私の水着……」
「回収済みだ。ポケットに入れてある」
「いっ、いつの間に?!」
「そのままにしたら、あいつらの誰かが拾うだろう?」
確かにそうだ。
アニエス辺りが察して隠してくれでもしない限り、大騒ぎになる。
「お前の肌に直接触れたものだ。他人の手に渡るなど許しがたい」
甘い囁きとともに、額に口づけを落とされて、私は──。
ただただ顔を熱くして、眩しすぎる最推しを無言で見つめ続けた。
好き。レジナルド。貴方が、好き。
貴方の気持ち、もっともっと、知りたい。
お願いしたら、聞かせてくれる……かな?
チュンチュン。
雀の鳴く声は、どこも変わらないらしい。
「……んん、なんか……すっっごい面白い夢見た気がする!」
目覚めがいつもの何倍も良い朝だった。
私は額をなんとなく撫でてから、ベッドの上で、んーっ! と背伸びをした。
次からは新章本編です。