表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/74

18. 婚前交渉? 7~本気の恋の始まり~

「今のモグリッジ皇国は、周辺諸国と休戦をしておりましたわね」


 母が静かな声で切り出した。


「それも、相手国にとってかなりの好条件で。私は今もたびたび実家と文を交わしますので、外の様子もだいたいは把握しております」


 あ、そういや、お母様は同盟国出身だった。

 だから私がラファエルの婚約者になったんだけどね。

 私も、向こうの国には従兄弟達がいる。みんな年上で多忙な人達なので、マリアンヌ自身はあまり構ってもらえなかった。

 モグリッジ皇国とは、戦争こそしていないけど、緊張状態にはあった。

 でも、レジナルドが即位した頃から、関係は改善されたらしい。


 レジナルドが、小さく息をついた。


「世間では『剣豪皇帝』ともて囃されている自分ですが、これでも国の主。時には大胆な決断も必要なのですよ。マダム」


 う。

 戦争をやめた理由って、やっぱ、アレだよね。

 この王国の隠された秘密……を、追うため。

 そしてレジナルドは、私が、全てを知っていることに、気づいている。


「その決断が、全て平和のためであることを祈ります」

「無論です」

「……マリアンヌは私と夫のたった一人の我が子。この上なく大切に育てて参りました」


 母が、まっすぐにレジナルドを見据える。

 マリアンヌには、兄弟姉妹がいない。アズナヴール家の一人娘として育った。


「娘は一度、婚約を破棄された身。貴族の娘として一度、傷がついております」


 そうそう。大貴族になるほど、婚約破棄はかなり痛いんだった。

 男が一方的に破棄できるのに、女はできない。

 なのに、女の不名誉にされてしまう──。

 このゲーム、こういう設定自体はすごく時代錯誤なんだよなぁ。


 すると、レジナルドが、ふっと笑った。


「我が皇国では、そんなのは些末なこと。気になさる必要はありません」

「ですが皇帝ともなると、何人もの妃を迎えられることでしょう。その時、この傷が愛娘にとっての足枷にならないか。親としては心配なのです」


 ……なんで休戦の話題を持ち出したのかも、わかった。

 恒久的な平和を築く方針に転換したなら、親としても安心なのだろう。

 だが、母はその裏に何かあるのではないか、と疑っていたのだ。

 それに加えて、傷がある(と本人は全く思っていないが)娘が、嫁いだ後でぞんざいな扱いを受けてしまうのではないか、とも。


 母は怖い人だ。

 他国の皇帝相手に「娘をないがしろにするな」と主張した。

 立場はレジナルドの方が上だ。圧力になどなろうはずがない。

 それでも、マリアンヌのために今、命を懸けている。


「マダムの心配はごもっとも。歴代の皇帝は皆、皇妃のほかに多くの妻を持っていた……高貴なる種を絶やさぬために」


 そうそう。

 レジナルド、こういう話では、血じゃなくて種って表現すること多い。


「種を百蒔けば、九十九が死に絶えたとて、一つ咲けば次代となる。一夫多妻制度は、いわば先人の知恵というもの」


 う、うーん。時代錯誤、役満だぜ!

 まぁまぁ、多くの妻を持つ建前としては、それなんだよなぁ。


 しかしこれ、母にとっては気持ちの良い話じゃない。

 父は愛妻家&子煩悩だ。私だけでなく、母のことも大事にしている。

 愛人なんて、噂ですら聞いたことがなかった。影も感じたことがない。


 だが、母への周りの陰口は、こっそり漏れ聞こえていた。

 母は、父との間に娘一人しか成していない。

 ならば、夫に愛人を持つよう勧めるべきではないのか。

 夫の愛までも求めるのは、はしたなくて、正妻失格だ、と。


 母は聞き流していたけど、娘のマリアンヌは心を痛めていた。

 せめて自分が男の子だったら、と考えることもあった。

 でも、いつしかそんな悩みを持たなくなるほど、両親はマリアンヌを愛してくれた。



 前世では「性別関係ねぇ! 妊娠出産育児マジハード!」なんだけどさ。

 この世界では、まぁ、そういうことなんだよね。


 ……別に、レジナルドが他の妻を迎えても、うん、まぁ……。

 乙女ゲームで、これ恋愛ルートのはずだから、他の女は……。

 いない。いないはず、なんだけど。

 これから先も、ずっと。

 でも……わからない。

 


 あ、だめ、ちょっと泣きそう。

 可能性を考えて、意外とショック受けてる。


(なんでだなんでだ。なんで!)


 美女千人を相手にしても、堂々としてそうで格好良いじゃん。

 泣くなよー? めかぶ大好き娘……。



「ですが、そうやって種を残すだけなら、理性なき獣にもできましょう」


 レジナルドは、口角を上げたままいった。


「俺には必要ない。マリアンヌただ一人いれば、他の女はむしろ邪魔だ」


 あ。あれ。

 こ、これ、惚気?

 いや惚気じゃない。じゃあなんだこれは。敬語も消えてる。

 さすがにお母様も驚いて、カップが傾いて紅茶がダババーしてる。


「それは……マリアンヌ以外の妃を生涯迎えない、ということでしょうか?」

「無論。なんだ、こんな話をするためにわざわざ呼びつけたと?」

「そ、そういうつもりでは……いえ、その通りですわ」

「てっきり、戦狂いの男に娘は渡せないと今更ごね出すのかとばかり」


 レジナルドが嘆息した。

 そして、今は綺麗になった手で、隣に座る私の手を握った。

 思わず「ひっ」っていいそうになったけど、何とか堪える。


「我が心を疑うなら、この場で胸を短剣で抉り、心臓を差し出しても構わないが?」

「冗談でございましょう? 死にますわよ?」

「マリアンヌを妻にできないなら、それでも結構。冗談は嫌いだ」


 狼狽する母に、レジナルドがいい切った。




「俺にはもう、マリアンヌしか見えていない」




 ……あれ。

 私……最推しに……本気で求められている?


 ……あれ?

 や、やめてほしい。冗談だよね。

 これ、ただのファンサービスだよね?


 そんなの、欲深くなっちゃう。

 ただでさえ、私、ガチ恋じゃないよーって……。

 共犯者なんだよーって、自惚れんなよーって……。

 が、頑張って、いい聞かせてきたんだけどな。

 私、中身は限界オタクだし……。


 あ、そうだよね。

 貴方の真の願いは『神』になること。

 そのためなら、これぐらい、言えちゃう……よね?


 ……う。

 ……なんだよー……もう。

 ……レジナルドと私、恋愛が進んでいるの?

 ……それとも、これは何かの布石?

 ……でも、信じてみたいな。なんて。


 最推しと本気の恋に落ちても、許される?

 私は、ただの、ファンだったのに。




「泣くな、マリアンヌ」

「ふあっ?!」

「俺はな、……本気だ」


 母がいるのに、耳打ちで囁かれて、リップ音まで聞こえた。

 私は……私は……。






 オーバーヒートして、また鼻血を大量に噴きだした。

 な、なっさけなー……。



次章から、マリアンヌとレジナルドの恋が進展します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ