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16. 婚前交渉? 5~血は甘い蜜~

「俺達の式は半年後、豊穣祭がある秋を予定していたが、それを早めたい」

「い、いつでしょう?」

「明日。……というのは早すぎるが、一ヶ月後だ」

「ああああ明日? いや一ヶ月後?!」


 それはあまりにも急では?!

 待って、半年後だと思って悠長に構えていましたよ私。

 マリアンヌはすごくスタイル良いけど、せっかくだし磨きをかけちゃおう!

 ……なんて思っていたんですけど。

 一ヶ月で効果出すなら糖質制限ダイエットぐらいしか思いつかん。


 やだ! 糖質は絶対欲しい!

 じゃなくて!!


「ど、どうしてですか? なぜそんなに早く?」

「あ、あのっ、お嬢様。私のことは気にせず……!」


 レインは必死で訴えてくれているけど、でも。

 ……心の準備ができていないだけであってさ。

 結婚自体は、うん。する。しますよ。

 いやほんと、だったらいつ結婚になっても、いいんじゃない?


「……わかりました」


 私は頷いた。

 そろそろ本格的に鼻づまりしてきた。レジナルドにも手を洗ってほしい。


 あと、お姫様抱っこ開始から結構経っているんだけど……。

 レジナルドの腕も足も、まっっっっったく震えてない。

 直立不動。体幹凄すぎ。


 ──この人の腕の中、すごく安心してしまう。

 最推しだから?

 ……うーん、それだけじゃ割り切れない。


「でも、その意図を教えて下さい」

「意図?」


 レジナルドが聞き返す。

 うっかり見とれちゃうけど、私が頑張って、じっと紅い瞳を見つめ返した。


「きっとレインのことは関係なく、そう提案するおつもりだったのでは?」

「なぜそう思う」

「貴方が気まぐれでそんなことをいう人ではないと知っているからです」


 いってから少し後悔する。

 そう、前世の『めかぶ大好き娘』はその辺りをよく知っているが、マリアンヌ自身は正直なところ、そこまでレジナルドの性格を知っていたわけでもない。

 むしろ前世の記憶を取り戻すまでは、毛嫌いをしていた。


(でも、レジナルドは……『私』のことを知っているんだと思う)


 どこまでを知り、どうやって知ったのか。

 それはわからない。

 だが、でなければマリアンヌに対して、『神』にしろ、なんていわない。

 それはこの十日間、ずっと考えていた。


 ……だけど、逆に言えば、レジナルドを『神』にしてあげられる人間は私だけ。


 それが最推しの望みなら、叶えたい。

 叶えることで、この人は破滅の運命から逃れられるのだから。


(具体的にどうすればいいかはわからないんだけど。うーん、ゲームに関することぶっちゃけるのが一番楽そう)


 だが、肝心なデータ部分は欠落しているところが多い。

 大筋はもちろん覚えているけど、細かいことが思い出せないなら、逆に危険な気がしてしまう。

 公式だっけ、非公式だっけ……。

 ほら、コラボカフェの設定を本編に混ぜるなって。

 あれはきっと、なんだかんだで意外と良いヒントな気がする。


「お前を早く俺のものにする。それ以上の理由があるか?」

「……は?」


 私の全てが、一瞬フリーズした。

 今まですごくシリアスに考えていたんですけど。

 はへ? なんと仰ったか?


「お前と、一日でも早く夫婦として愛し合いたい……ただ、それだけだが?」

「ふぁ、ふぁーーーー?!」


 びしゅうっ!


 待って待ってまた鼻血出た!

 あれ?! 貴方、本当にレジナルドですか?!

 すっっっっごく甘くありません?!


「あ、あの……! お嬢様、鼻血が」

「レインとやら。彼女の介抱は俺がする。奥方……未来の義母君に、少々お待ちいただけるよう伝えておいてくれないか」

「は、はい! こちらは救急箱です! それでは失礼致します!」


 レインは立ち上がると、超スピードで私の部屋にある救急箱をテーブルに置いて、頭を深々と下げて退出していった。

 部屋に、私は最推しと残された。


「……さすがに冗談ですよね?」


 ゆっくりと下ろされて、私は救急箱から白布(この世界にはティッシュがない。意外と不便)を取り出した。

 先に自分の鼻に突っ込むべきなんだろうけど、なんだかその姿だけは見られたくない。

 ……鼻血出ている姿を見られて、今更だけどさ。


 なので、軽く手を拭ってから、綺麗な布をレジナルドに差し出した。


「冗談? 本気とは受け取ってくれないのか」

「……もし本気なら、一ヶ月じゃなくて本当に明日といいそうですから」


 だが、レジナルドは受け取ってくれない。

 彼の右手は、私の血で真っ赤だ。

 早く拭いてほしい。


「まぁ、ご明察通りだ。事情があるんだが、不用意に他人に聞かせたくなかった」

「私には聞かせてもらえるんですよね?」

「無論。むしろお前に関係がある」

「え……?」

「……後で教えてやる。それにしても」

「っ、おっぷ」


 レジナルドは布を受け取らず、まだ少し垂れている私の鼻血を、あろうことか自らの指で拭ってくれた。

 え、なに、なにこれ?


「美貌が台無しだな、お嬢さん」

「っ、元はといえば、最推……じゃない、陛下が私に、あんなっ」


 ……突然、うなじにキスなんてするから。

 そんなん最推しにされて、沸騰しないはずないじゃないか!

 というかお願い! 鼻の穴に指突っ込まないでね?!


「だが、血に汚れた顔も嫌いじゃない。ますますお前を気に入った」

「……陛下……?」


 ぞく。ぞく。ぞくぞく。

 あ、またあの感覚。

 レジナルドは不敵に口角をあげる。


「お前の望みは全て叶えてやる。俺の望みを叶えてもらうのだからな」

「レジナルド……」

「そう、二人きりの時はそう呼べ。俺達は共犯者。遠慮は要らん」


 彼は艶めかしい舌先をちろりと出して、あろうことか血で染まった指を軽く舐めた。

 私はただ、ぼうっと、その様を見つめた。

 ぽた、ぽた、と、鮮血がまた、滴る。




「お前の血は、蜜のように甘いな……」




 私の鼻血が止まらないのは、最推し(婚約者)のせいです。

 鼻ティッシュぐらいじゃ、この人、引かないなと確信しました。



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