表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/74

10. 婚前交渉? 1〜夢の中で逢えたら〜

 衣擦れの音が、やけに耳に響く。

 マリアンヌは、自由に身体を動かせなかった。

「お前の唇……王太子に、触らせたことはあるか……?」

 マリアンヌは、ふるふると首を横に振った。すると、低く笑う声がした。

「この甘さを知らずに手放すとは。愚劣極まる」

「……っ」

「さあ、お前に至高の快楽を教えてやろう」

 マリアンヌは、思わず腰を引いた。だけど、まるで全身が金縛りに遭ったかのようで──。



「無駄だ……。お前はもう、未来永劫、俺だけのものだ……」




 あ。




「あかーーーーーん!! このゲームは健全!!」

「しかし歩く天然◯◯指定皇帝陛下ボイスあざーーっすっ!!」

「だがそこまでだーーーっ!! これ以上は危険だーーっ!!」




 大絶叫とともに、私はカッと眼を見開いた。

 ゴッツン!!

 そして直後、脳天に大打撃を喰らった。


「は、はれ……? いったい何が……?」


 視界に入ったのは、上下が反転したマリアンヌの部屋だった。

 痛い。めちゃくちゃ頭が痛い。

 ちょっと眼がぐるぐる回ってる。

 あ、でも今日すっごい晴れているなー。


「お、お嬢様?! どうなさったのですか!? きゃーーー!?」

 ノックを省略し、勢いよくドアを開けて入ってきたレインが、私を見て悲鳴をあげた。

 そりゃそうだ。

 お目覚めのお嬢様が、ベッドから上半身が落ちていたからだ。

 寝相があまりに悪すぎる。


「お、おは、おはよ……レイン……良いお天気ね……」

「いいいい、いったい何が?! さっきの声は?! 天気なんかよりも、お怪我は?!」

「だ、だいじょーぶ……ちょっと頭をぶつけただけよ……わー目がくるくるする」

「ちょっとどころじゃありませんわ!! 気をしっかり!」


 レインに介助されて、私はひとまずベッドに乗せられてから、身体を起こした。


「ごめんなさい。本当に何でもないのよ」

「何でもないはずがございませんでしょ……! 大声を出してベッドから落ちるなんて!」

「へーき平気。んー、いい朝だわぁ」


 私は、軽く伸びをした。

 まだちょっとズキズキするけど、深刻なものじゃない。

 おかげさまで眼がすっきり覚めた。というか覚めなかったらやばい。


 だってさ、なんか……すっごい夢見た気がするから。

 あ、あはは。あー、よく覚えてない。覚えてないったら。


「誤魔化してはいけません! お嬢様は、とてもとても大事な御身なのですから」


 レインがビッと人差し指を立てる。


「お嬢様はっ! あのモグリッジ皇国の国母となられる存在なのですよ!」

「国母はまだちょっと早い気がするけど?!」


 というかレイン、こんなキャラだったっけ……?

 すごいテンションが高い。いや、もしかしてマリアンヌが床に脳天直撃している姿を見て、混乱しているのだろうか。


「いいえ。早いなんてことはございません。皇妃となられましたら、いつご懐妊なさってもおかしくはないのですからね!」

「あ、あはは……ははは……ソウデスネ」


 そうだ。

 卒業祝い及び断罪の夜から、十日。

 私はラファエルから婚約を破棄された。本来ならそこで、国外追放の罰を受けるはずだった。

 だが、そこに割って入ってきたのが、私の最推し。


 モグリッジ皇国の剣豪皇帝レジナルド。


 主人公サイドから見て敵キャラ。ラスボスではないが、夜の世界の戦場でアニエス達を最も苦しめる存在だ。

 その彼が、王城に賓客として招かれていたのだ。

 そしてあろうことか、婚約破棄された私こと悪役令嬢マリアンヌに求婚したのだ。


 で、私は……オッケーしたのだ。

 最推しが、最推しだったから。そんな理由で。


「ラファエル王太子殿下とのことは、誠に残念でございました。まさかあんな、平民の娘に夢中になられた上、あのような侮辱……悔しいです」


 レインが、わなわなと震える。

 彼女はその場にいなかったものの、帰宅した時に事の次第を報告すると、まずラファエルに激怒した。

『うちのお嬢様が、そんなことなさるはずありません! 絶対にありえません!』

 マリアンヌの罪について、彼女は速攻否定してくれた。

 そのまま王城へカチコミに行きかねない形相だったので、私は彼女を止めるため、レジナルドに求婚されたことをいわざるを得なかった。


『まあっ! あのモグリッジ皇国の皇帝陛下が、お嬢様に求婚ですって?!』


 あの時のレインの喜びようときたら。

 そう、モグリッジ皇国が実は裏で色々と関わっている件を知るのは、アニエスと戦士達と、彼らの動向を探っていたマリアンヌだけ。

 表向きは友好国であり、このマルモンテル王国の国王はレジナルドと個人的な親交がある。

 本来なら、王族の姫でなければ嫁げないような相手なのだ。

 それを、公爵家の娘を皇妃にと望んだ。

 この上ない名誉なことだ。


「でも、結果としてようございました。旦那様も奥様も、それはそれはお喜びでしたし」

「……お父様とお母様のご意向も、先にお訊ねしなきゃいけなかったのにね」

「いいえ。答えは一緒だと、お二人も仰っていたじゃありませんか」


 マリアンヌの両親は大喜びだった。

 もちろん、ラファエルとの婚約破棄には、二人も嘆き、そして怒った。


『あの王太子め! 我がアズナヴール家にどれだけの恩があると思っているのか!』

『でもよかったわ。母は嬉しいです。娘がモグリッジの皇妃だなんて!』

『そうだな! 立派な支度をしてやる。お前のためなら、なんでも用意しよう』

『可愛いマリアンヌ。幸せになるのですよ。私達はずっと貴女の味方です』


 国王の承認はあっさりと下りた。ついでに追放もなし。

 まるで最初からマリアンヌをレジナルドに嫁がせることが、既定路線だったのではないかと思うほどのスピードだった。

(うーん。あれかな、ファンディスク効果? とか?)

 身も蓋もない話だと思ったが、そもそもレジナルドと結ばれるのは、ファンディスクあってのこと。


 うん、ここはやっぱり、未プレイのファンディスクの世界だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ