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7.料理できるもん

 ハヅキにリンの家の場所を聞いて、何とかリンの家の前までたどり着く。

 

 外装はほぼハヅキの家と同じだ。違うところといえば、玄関のドアの色が違うところくらいだろうか。見渡したところチャイムがなかったので、ノックをする。


 コンコン。


「はーーい」


 返事とともに扉が開いた。用意周到、ということだろうか。エプロンに三角巾まで着けて準備に抜かりはない。やる気は満々らしい。


「さあ、上がって上がって~」


「お邪魔します」


 中へ入る。間取りはハヅキの家と同じ造りのようだった。

 しかしリンの部屋はハヅキの部屋とは違い、物が転がっていたりしていて、なんというか生活感があった。


「ショウ兄さんはハヅキちゃん以外の子には会いました?」


「いいや、会ってないけど? どうして」


 呼び方にすごく妹みを感じたが、実際妹はいないし、リンは妹ではない。


「じゃあハヅキちゃん本当に独り占めする気だったんだ」


「ん? なんて?」


 ぶつぶつと呟いているリンは何といったか聞き取れなかった。


「気にしないで」


「あ、はい」


「ちなみにハヅキちゃんになにしてもらったの?」


「えーっと……」


 お風呂に一緒に入った、ってのは隠したほうがいいよな。流石に。スク水を着たハヅキに身体を洗ってもらったなんて到底言い出せない空気感。


「朝ご飯を作ってもらった、くらいかな」


 嘘をつくときは事実を混ぜるといいというライフハックを思い出しながら。


「よかった。じゃあこれで平等だね」


 朝ご飯と昼ご飯で平等ということだろうか。


「嫌いなものとかある?」


「特にはないかな。セロリとかパクチーとかああいう系は苦手だけど」


「大丈夫! 草は使ってないよ」


「草って。野菜と言いなさいよ」


「あはは。それが草」


 ネットスラングをなぜ知っているんだ、とは思ったが俺はスルースキルが高いので、ここは一旦スルー。


「お肉メインだから安心して。さあ、座って座って」


 リンの家はダイニングテーブルが置いてあり、椅子も四脚置いてあった。そのうちの二つは荷物置きに使われている。

 荷物の波に飲まれず生きている方の椅子――キッチンに対して正面を向ける方の椅子に座った。


 リンは、ハヅキと同じように台に乗って料理を始める。


 ロリっ娘しかいないんだから、ロリっ娘の背に合わせて作ればいいのにと思うのだが、そうは上手くいかない世界なのだろう。知らんけど。


 それにしても、ハヅキの料理は美味しかった。

 この村のロリっ娘達はみんな料理が上手いのだろうか。少し楽しみにしている自分もいたが、リンはもう一段高い台を取り出してきた。


「うんしょ」


「それ、どうするの?」


「お鍋が大きいので、届かないんだよ」


 お鍋が大きい? 肉メインって言ってたよね?


 よくよく見ると、コンロの上には給食で汁物とかを配膳するときに使う給食缶くらいの鍋が置いてあった。


「鍋大きすぎない?」


「いえいえ、普通です」


 そう言いながら、さながら魔女のようおたまで鍋をかき混ぜるリン。


「なんかちょっと臭うよ?」


「大丈夫だよ」


 苦味と甘味が混じった不思議な匂いが漂う。


「なんか紫色の煙出てない?」


「大丈夫!」


「絶対大丈夫じゃないよね!!」


「お肉メインなら、お肉焼くだけでいいんだよ」


「それじゃ料理じゃありません! 愛情はたっぷり込めないといけませんから」


 そういいながらスパイスやら調味料やらを鍋にぶち込む。


「それは愛情じゃないよ、スパイスだよ」


 なんか呪文みたいなの呟きながら入れてるけど……。


「え? 儀式してる?」


「してないよ!」


「黒魔術じゃん」


「白魔術です!」


「魔術っつっちゃってんじゃん」


「曲解です!」


「それ使い方合ってる? 言葉も食材も使い方間違えてるよ?」


 パンパン。


 いきなり柏手を打つように二回拍手をするリン。


「それ何?」


「お祈り」


「お祈りしちゃってんじゃん。魔術じゃん」


「料理です!」


「やんちゃすぎるよ。味見してみて味見」


「わかりました。絶対すごく美味しくなってますからね。」


 鍋からおたまで掬い、そのまま口へ運ぶリン。

 ただ、リンの表情は何とも言えない微妙な表情をしていた。


「おっけー」


「おっけーじゃない顔だったよ???」


「できました!」


「絶対ダメだって」


 全然こっちの言うことを聞いてくれないリンは、ラーメンの丼くらいの大きさのお椀に注いだ。

 両手でこぼさないように慎重に、テーブルに持ってきてくれた。


「肉は?」


「中に入ってるよ」


 にわかには信じ難い言葉。

 お椀にはスープとわからない紫色の汁と、そこから飛び出している足。たぶんカニ。カニかこれ? カニだよな。カニに違いない。


「どうぞ召し上がれ」


「まじで?」


「どうぞっ」


 屈託のない笑顔。守りたいこの笑顔。こんな謎の汁の前じゃなければ。


「えーい、いただきます!」


 気合で乗り切ろう。

 お椀を両手で持ち、口へ、いや胃の中へ注ぎ込む。


「うっ……」


 吐きそうまでもいかないくらいの、微妙なまずさ。

 口の中に苦味と甘味が気持ち悪く残る。


「美味しいですか?」


 目を潤ませているリン。


 本当のことを言ったほうがいいのか? いや、こっちも大人だ。大人のコメントをしよう。


「おいしいよ」棒。


「よかったぁ」


 安堵するリン。全部食べてくださいという顔で見てくるが、俺にはちょっとキツいかな。


 そう思った瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「ちょっと待ったぁ!!!!」


 ハヅキだ。


 大声で乗り込んでくるハヅキ。靴を脱ぎ捨て、部屋に入ると台所の鍋とテーブルの上のお椀を見る。

 ハヅキは赤いエプロンを着たままこっちに来ていた。


「またダークマター作ってますね!」


「ダークマターじゃないです! 料理です!」


「もー、心配になって見に来たらこれなんだから」


「リンだってハヅキちゃんみたいに料理作れるんだもん!」


「はいはい、アタシがリメイクしますからね」


 ハヅキはリンをあしらいながら台所へ立つ。


 冷蔵庫から何かを取り出しまな板に置き、小気味よいリズムを包丁で刻みながら手際よく進めていく。入れたり味見をしたりと、いろいろな作業をしているが、正直何をしているのかはわからない。


「あ、カニ捨てた」


 代わりにネギみたいなものを投入。

 少し拗ねた様子のリンは、俺の向かい側の椅子に座った。


「出来ました! 食べてみてください」


 味噌汁用の汁椀に二人分注ぐと、テーブルまで運ぶ。


「「いただきます」」


「召し上がれ」


 先程まで紫色だった汁が、なんということでしょう。クリーミーな茶色へと変貌を遂げているじゃありませんか。汁椀を手に持ち、スープと言っていいほどまでに変わった汁を口に入れる。


「うまーーーーーい」


 ハヅキレストランが開店するほどに。


 紫色時代に比べれば、千倍美味しくなっている。いや、マイナスに何をかけてもマイナスなので、この表現は間違っているかもしれないが。


「えっへん」


 腰に手を当て、胸を張るハヅキ。

 対して、リンの表情は曇っていった。


「ハヅキちゃん帰って……」


 か細い声で言葉をこぼす。


「え?」


「帰ってよ!!!!!」


 リンの目からは涙がこぼれ落ちていた。


「リ、リンちゃん?」


「帰ってって言ってるじゃん」


「わ、わかったよ。ごめん」


 ハヅキは言われるがままに家を出た。


 俺は椅子から立ち上がることすら出来なかった。


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