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6.白ロリと黒ロリ

 共同浴場に着替えとして置いてあった衣服に着替える。

 紺色の作務衣のような衣服はゆったりとしていて着心地がいい。下着をどうするか困ったが、ふんどしが置いてあったので着ることにした。


 先に外で待ってる、と言って出たハヅキを待たせるのも悪いので、さっさと荷物をまとめて外に出る。


「お待たせ」


「待ってませんよ」


 軽く笑みを浮かべるハヅキ。

 サンダルのような、草履のような履物を持ってきてくれていた。


「これ使ってください」


「助かるよ」


「お昼どうしましょうか」


「任せるよ」


「カツ丼にしますか? 親子丼にしますか?」


「卵とじ丼の二択かぁ」


「ソースカツ丼がいいですか?」


「よく知ってるね」


「はい、料理本は読み込んでいるので」


「なるほど。得意なやつでいいよ」


「わかりました! 腕によりをかけちゃいます!」


 談笑しながら家へと戻る。


 帰宅して早々にハヅキはエプロンを着て台所に立つ。


「じゃあ座っててください。お昼作りますから」


 言われたとおりテーブルの横に座ると、開いた窓から優しい風が吹き抜けてくる。


「あ、お兄さん。牛乳ありますよ。飲みます?」


「ホントに? 嬉しいよ。貰える?」


「わかりました」


 冷蔵庫から牛乳を取り出すハヅキ。透明なグラスによく冷えた牛乳が注がれると、グラスの表面は温度差で結露する。


 村といったが、電気が通っているということなのか。発電所がどうだ、送電線がどうだ、といろいろ勘ぐりたくなるが、深く考えるのはやめておこう。


 コルクでできたコースターと共にハヅキが牛乳の入ったグラスを持ってきてくれた。


「ありがとう」


「お風呂上がりには、やっぱりこれですからね」


「わかってるぅ」


「えへへ」


 コースターを持ってきてくれたところ悪いが、直接受け取って一気に飲み干す。


「いい飲みっぷりです!」


 ハヅキがそう言った瞬間、いきなり音が鳴るとは思ってなかった場所から音が鳴った。


 コンコン。


「「!!!???」」


 玄関からだ。誰か来た?


「ハヅキちゃーん、遊びに来たよー」


 ドアとハヅキの顔を二度見する。


 ハヅキは目を見開いて口を開けたまま玄関のドアを直視している。なぜそんなに慌ててるのかわからなかったので、反応を待つ。


「ど、どうする?」


「あわわわわ、お兄さんは隠れといてください!」


「どこに?」


「この、クローゼットの中に!」


「浮気中の彼氏かい!」


「とにかく、早く!」


 隠れる意味はわからなかったが、とりあえず言われた通りにする。


 部屋の壁は一面だけクローゼットになっているようで、四枚の折りたたみ型の扉が二セットあった。左側の、玄関とは逆側にある方のクローゼットの中に入る。


 中はハンガーにかかったハヅキの服がかかっているだけで、よく整頓されていた。


 扉を閉めて、隙間から部屋の中を覗く。


「ハヅキちゃーん?」


「はーい、今行きます!」


 少し小走りで玄関の戸を開けに行くハヅキ。


「忙しかった?」


「ちょっとお昼ご飯の用意してて」


「ごめんね。上がってもいい?」


「い、いいよ」


 少し嫌そうに返事するをするハヅキに、嘘を付くのが下手そうだなと感じた。


 謎の声の主が姿を現す。


「ハヅキちゃんが好きそうなクッキー持ってきたんだ」


「ありがとー、リンちゃん!」


 どうやら名前はリンというらしい女の子は、背はハヅキと同じくらい。

 しかし腰のあたりまで伸びた漆黒色の髪はハヅキとは真反対だ。前髪は地面と平行にまっすぐ、いわゆるパッツンに切りそろえてある。


 本当にロリっ娘ばっかりいるんだなと感心する。


「クッキー食べようよ!」


 片手にぶら下げた紙袋を差し出してアピールするリン。


「え、今?」


「うん、嫌?」


「嫌じゃあないけど……」


 めっちゃ嫌そうじゃん。

 ハヅキはリンと目を合わせようとしていない。


「お茶……淹れる?」


「ありがとー!」


「緑茶と紅茶どっちがいい?」


「紅茶がいいかな。ハヅキちゃんも紅茶好きだよね!」


「う、うん、好きー」


 ずーっと棒読みなんですが。


 ハヅキはコンロでやかんに入れたお湯を沸かし、リンはさっきまで俺が座っていた場所に座る。


「ハヅキちゃん、最近さー、迷い込んでくる男の人来ないね」


 俺のことか?


「わーーーーー、そうだね、来ないねーーーー!!」


 慌てたハヅキはキッチンのシンクの上に紅茶の茶葉をこぼしてしまう。


「どうしたの?」


「ど、どうもしないよ。どうもしてない」


「ふーん。ならいいけど」


「お茶淹れてますからねー、淹れてますよーっと」


「なんかおかしいね?」


「おかしくない、おかしくない」


 めちゃくちゃ疑われてますよ、ハヅキさん。


「ハヅキちゃんのお姉ちゃんも最近来ないね」


「確かに、そうだね」


 その質問だけは冷静になって返す。


 沸いたお湯を茶葉を入れたティーポッドに淹れると、芳醇な香りが部屋中に漂う。ティーカップ二つに注ぐと、テーブルの方へと運んでくる。


「ありがとー。いい匂い」


「クッキー食べてもいい?」


「もちろん」


 リンは持ってきた紙袋の中からクッキーを取り出す。

 真四角で、プレーン味の白部分とチョコ味の黒部分に十字に四つに等分したような配色のクッキーだ。


 二人はクッキーをかじりながら紅茶を飲んでいる。

 できるならば混ぜて欲しいのだが。いや、百合厨的にはここで見守っていたほうがいいのか。そこらへんよく理解していない。


「ハヅキちゃん元気ないね?」


「そんなことないよ!」


「ならよかった。いつもみたいにトランプやらない?」


「今日はやめとこうかな……」


「ならボードゲームは? チェスとか」


「今日はいいかな……」


 完全にリンを困らせているハヅキ。やってあげなよ、とは思う。


「うーん。じゃあお昼一緒に食べようよ! それならいいでしょ?」


「今日は……大丈夫……」


 流石にリンもハヅキがおかしいことに気づいたのか、声のトーンが上がっていく。


「どうしたの? 変だよ?」


「変じゃないよ」


「何か隠してる?」


「隠してないよ?」


「嘘だ! リンね、ハヅキちゃんの嘘わかるもん!」


「なっ! どうやって?」


「引っかかったね! 嘘なんてわからないよ」


 リンは案外策士のようだ。

 嘘がわかると言っておいて、ハヅキの反応を見た。ハヅキは自ら嘘をついていると自白させられてしまったのだ。


「なんか気配を感じるよ。誰かいるんでしょ」


「いないよ、いないよリンちゃん」


「いや、いる。誰か隠してるんでしょ」


 リンは何かを探すようにあたりを見回す。


「リンちゃん?」


「あそこかな?」


 リンは立ち上がり、台所の方へ向かう。


「ここ?」


 シンクの下の扉を開ける。しかし中には鍋やフライパンしか入ってない。


「あっちかな?」


 台所の裏にある水場、洗濯機と洗面台のある部屋を覗く。だがそこには誰もいない。


「ってことはこっちかな?」


 そういってリンはクローゼットの前、俺の前に立った。


「そこはダメ!!」ハヅキが止めに入るがリンの動きは止まらない。


 ガチャッ。


 瞬間、真っ暗なクローゼットの中に光が差す。


「きゃあああああああああああああああああ」


「わぁぁぁあああああああああああああああ」


「おぉぉう」


 全員の叫びが共鳴する。

 人がいるとは思っていても、実際に人がいると驚いてしまうのが人間の本能である。


 リンはひどく驚いて様子で、腰が抜け尻餅をついていた。


「は、初めまして」


 俺の第一声はそれであってるのかわからなかったが、とりあえず敵意がないことは示したかった。


「は、初めまして?? ハ、ハヅキちゃんこの人って?」


「ごめん、リンちゃん隠してた。他の世界から来た人」


「やっぱり! ハヅキちゃん独り占めしようとしてたんでしょ!」


「本当に申し訳ない……」


 手を合わせて謝るだけのハヅキ。


「これは一体どういう状況なの?」


「ハヅキちゃんもしかして、何も説明をしてらっしゃらない???」


「いかにも……」


「もぉーーー!!!」


 リンは何故か怒った様子でハヅキを問いただしている。しかし、くるりと後ろを向き俺の方に正対すると自己紹介を始めた。


「リンです。双葉鈴といいます。よろしくお願いします」


「ショウです。吉田湘、よろしく。で、いいのかな?」


「ショウ兄さん! よろしくです!」


 よくわからないが、とりあえず握手を交わした。


「リンも花嫁候補なんだからね」


「リンちゃん!?」


「あはは。今からウチに来てよ」


「どういうこと?」


 ロリっ娘からお誘いを受けてしまった。

 据え膳食わぬは……ってことで行かなきゃいけないか?


「じゃあね! 待ってるからね! お昼も作っとくから! 絶対食べに来てよね!!」


 言いたいことを一通り言って帰っていってしまった。


「なんだったの?」


 嵐のような時間だった。何が起きたのかさっぱりわからん。


「たぶんアタシのせい。ごめんなさい」


「いいよ、謝らないでよ。無理はしなくていいからさ」


「ありがとうございます……」


 しょぼくれていたハヅキも、少しは元気を取り戻したようだ。


「じゃあ、リンの家行ってくるね」


 リンの後を追うように外へ出た。

 しかし、家を出てから気づいた。


「場所知らねえや」


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