4.スク水幼女と混浴タイム
「あのさ、お風呂ってあるの?」
「部屋にはないんですけど、共同浴場ならあります」
昨日風呂に入らずにこの世界に来てしまったため、汗ばむ身体が気持ち悪くてしょうがなかった。一日着っぱなしだったワイシャツと、ズボンとパンツ。悪臭が怖い。もう数時間もすれば鼻もひん曲がるほど立ち込めてくるだろう。
その前になんとしてでも着替えたかった。
しかし、シャワーを浴びたいという衝動とは裏腹に、着替えも何も持っていないことに気づいた。
「着替えとかタオルとか持ってないや」
「全部ありますよ」
「まじで!?」
「はい」
にっこりと笑うハヅキに、両手を差し出す俺。
「?」
「あれ? 貸してくれるんじゃ……?」
「はい、全て共同浴場にあります」
「あっそういう……」
めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
穴があったら入りたくなることが人生において出くわすとは。ハヅキに共同浴場の場所を教えてもらう。
家を出て右、目の前に大きな建物があるから一発でわかると言われたが、確かに一発でわかった。外観は少し古い蔵のように、黒地の壁に白い格子状の模様が入っている瓦葺きの建物。入口の木製の引き戸の上には暖簾がかかっている。
「入っていいのかな?」
銭湯みたいに男女で入口が分かれていなかった。
もしこっちが女子風呂だったらどうしようという不安を抱えながらも、ガラガラガラ、と音を立てて扉を開ける。
砂利が噛んで少し重いところもあったが片手で開けられた。
銭湯には昔、大阪に行った時に数回入ったくらいだ。
しかしここには番台もなく、どちらかと言ったら天然温泉を売りにしてる日帰り温泉施設の脱衣所の方が似ていた。
無料なのか、お金を払う場所はなかった。とは言っても現金は持ち合わせていないのだが。
誰が掃除しているのだろうか。
ハヅキが言うにはこの村にはロリっ娘しか住んでないとは言っていたが、公衆浴場の脱衣場は清掃が行き届いていた。
下手をすればそこらへんの健康ランドよりはるかに綺麗ではある。
「これが着替えで、これがタオルかな?」
脱衣所には正方形に仕切られた棚が並んでいる。
中にカゴがあり、そこに脱いだ服を置くシステムになっている。
一番入口側の棚の中に『ご自由にお使いください』と書かれた紙が段の縁にテープで貼り付けられている。一段の中、パンパンに入ったタオルと着替えがあったので、バスタオル一枚、フェイスタオル一枚を取る。
タオルは一枚一枚よく洗濯されているようで、ふわふわの雲のような感触だ。雲を実際触ったことはないけども。
汗ばんだワイシャツを脱ぐ。一つカゴを選んでそこに入れていく。ベルトを外し、ズボンとパンツを下ろすと、久々に開放感を感じる。
フェイスタオルを一枚持ち、一枚の大きなガラスに取っ手が付いたような扉を開けて、大浴場へと入る。
カポーーーン。という効果音が脳内に流れる。意味は知らない。
手前には壁際にカランとシャワーが五個並び、奥には人が十人は入れそうなくらいな浴槽にお湯が張られている。
「中はホントに銭湯みたいだな」
独り言を呟いたが、何十倍にもなって声が反響する。どうやら一番風呂らしい。床が一切濡れていない。
椅子と桶がヒノキで出来ているらしく、木のいい香りが鼻腔を刺激する。並んでいるものは一番奥を使う主義なので、例に漏れず今回も一番奥のシャワーを使う。ワンタッチで数秒出っぱなしになるタイプのシャワーなところに感心してしまった。
「ちゃんとしてるなぁ」
一度押して椅子にお湯を掛けてから座る。
その流れで肩から足にも掛けていく。
「ちょー気持ちいい」
素で死語にも近いワードを発してしまった。
何とも言えない身体のベタベタがゆっくりと流されていく感覚は、なんともたまらないものだ。そもそも、娯楽という娯楽をする暇がなかったので、お風呂を唯一の楽しみにしていたところもある。パブロフの犬ではないが、身体にお湯が掛かると幸せを感じるようになってしまっているのかもしれない。
椅子に座ると、座面の真ん中に穴の空いている椅子とは違い、尻がひたっとくっつく。止まったシャワーをもう一度作動させるためにレバーを押して、頭にお湯をかける。
威力が強くもなく弱くもない、ちょうどいい強さのシャワーは髪の間をぬって頭皮の上を流れていく。カランの上に並んだシャンプー、コンディショナー、ボディソープの中からシャンプーを出そうとした瞬間、事件は起きた。
ガタッ。
「ほえっ!?」
誰か来た!?
「お背中を流しに来ました~」
「だぁぁぁぁ???????????」
入ってきたのはハヅキだった。急いでフェイスタオルを股の上に敷く。
「ナンデ???」
「お兄さんのお世話をしてあげるって、言ったじゃないですか」
「そこまで、なの……」
「はい!」
しかも何か水着に着替えている。
青色の所謂スクール水着ってやつだ。身体の線に沿って布がピチピチにくっついている。
ダメじゃない?????
「あ、あの……」
「ん?」
テクテクと近づいてくるハヅキ。凝視せずにはいられな……え?
「見ないでください!!」
「!???」
ズボッ。
シャンプーハットを背後から被せられた。
自分でスク水を着てきて、見ないでって支離滅裂すぎるだろ、と思ったが十歳の女の子に理論的な行動を求める方が理不尽だと察する。
でもなんか俺が悪者みたいじゃない?????
「では、頭洗いますねー」
ハヅキはボトルからシャンプーを手に出し、俺の頭へと乗せる。小さな手で俺の髪を洗う。
洗い方は稚拙で、床屋や美容院のようには上手ではないけど、一生懸命洗ってくれているという想いだけは伝わってくる。
「お兄さん、かゆいところはありませんかぁー?」
「大丈夫でーす」
可愛らしいやり取りをしているが、ハヅキは気づいてないみたいだ。
さっきから俺の背中に、ぷにぷにとお腹を当てていることを。
「~~~♪」
鼻歌交じりに頭を洗ってくれているが、こっちは割とピンチだぞ? 浴場で欲情とかいうくそくだらないギャグを言っている場合ではない。
「流しますよー」
「はぁーい」
あくまで冷静に。
そう、俺はロリコンじゃない。
アニメやゲームの推しキャラは大体胸の大きい年上のお姉さんキャラだ。決して背の小さいロリっ子キャラじゃない。バブみのある、包容力のあるお姉さまが大好きなんだ。
それなのに……。
「コンディショナーもやって大丈夫ですか?」
「はぁーい」
男の身体ってのは正直だ。
ハヅキはコンディショナーもシャンプーと同じようにボトルから手に取り、俺の頭になじませていく。
「ふわぁっ」
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。ちょっと気持ちよかっただけ」
「よかったぁ。えへへへ」
ぬるぬるの小さな手が頭をなでている感覚は、味わったことのない触感を伴って、脳の奥から得体の知れない汁が溢れているのを感じる。
そしてまた……。
当たってるってぇ! お腹がさぁ!
当たってるんだって!!
「流しますよー」
「はぁーい」
もう返事がこれしかできない。
これ以上の言葉が口から出てこない。
「次は背中洗ってもいいですか?」
「はぁーい」
ハウスメーカーのキャラクターなんか俺は。
ハヅキはボディータオル、俗にあわあわタオルとか言ったりするやつにボディーソープを出し、ゴシゴシと泡立てる。
「じゃあ行きますね」
背中に泡のついたボディータオルが背中に当たる。冷たいかと思って身構えたが、それほど冷たくはない。ハヅキは円を描くように俺の背中を洗ってくれている。
「痛くないですか?」
「気持ちいいよ」
誰かに背中を洗ってもらうというのは初めての経験だ。友達とかもいなかったしな……。
「他人に洗ってもらうのは初めてだよ」
「えへへ。お兄さんの初めてもらっちゃいました」
その言葉はダメだろぉぉぉぉぉ。
萌えってこういうことか?
これは萌えなのか???
心の奥の方にロリコンの種が植えられた気がした。首元から腰のあたりまでハヅキは丁寧に洗ってくれた。
「流しますね」
「ありがとう」
「いえいえ、アタシがやりたかったことなので」
「あとは一人で洗うよ」
「はい、じゃあ先に入ってますね?」
「え? どこに?」
「浴槽に決まってるじゃないですか」
ハヅキの指の差した先にはお湯が張ってある浴槽。
「一緒に入るってこと?」
「はい! 当たり前です!!」
待て待て待て待て。
「犯罪にならないか? これ」
「犯罪にはなりませんよ?」
え、ここの法律どうなってるの?
「ここって共同浴場とは言ってますが、家族風呂みたいなもんですから」
「そういう理由なの?」
「ダメ、ですかぁ?」
上目遣いで訴えかけるハヅキ。これを突っぱねるには、俺にはできなかった。
「降参します」
「やったぁ! じゃあ早く洗ってください!」
「はぁーい」
俺って尻に敷かれるタイプなのかな……。