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プロローグ

「俺はロリコンじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」


 誰もいない丘上、腹の底から大量の空気とともに叫んだ。


「俺が好きなのはおっぱいが大きくて優しいお姉さんなんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」


 声にすることで自己暗示をかけるように、自分に言い聞かせるように叫ぶ。少し声が裏返るくらいご愛嬌だ。

 生きていれば、どうしても自分の心の中で変化が生まれる。変化は時として良い場合もあるが、理性がダメだと言っている。これは悪い変化だと。


「もっと言うなら、背が高くて黒髪ロングで、包容力があってバブみを感じれるお姉さんが好きだぁぁぁぁぁ!!!!!」


 現実世界で叫べば変態として、一発アウト。通報、職質、連行までセットだ。警察がスマイル0円で提供してくれるアンハッピーセット。どんなに安くても、こちらから願い下げだ。


 しかし、ここは現実世界ではない。

 夢か幻またはその類……のはずだよな。絶対そうだ。そうに違いない。

 でなければ、毎日幼女に囲まれている生活を送る羽目になるなんて起こりえないのである。


「はぁ、無駄に疲れた」


 空を飛ぶ鳥がくるくると旋回を始める。

 雲の流れる速度が上がる。

 虚空に発した言葉が、風と共に流されていく。誰かの元へ届かなければいいなと、一縷の望みを乗せて。




   ★   ★   ★




 憧れ。

 それは人類が持つ最も原始的で本能的な上昇への渇望。心の深層から湧き出す欲求の果て。そして憧れは夢へと昇華する。


 夢。

 誰もが見る成りたい姿、成りたいもの。子供の頃は誰だって持っていたはずの夢。それは人類の見果てぬフロンティアを目指す宇宙飛行士、世界中の人を虜にし画面に釘付けにさせるような大女優、はたまた消防士、ケーキ屋さん、Youtuber。


 叶えられる人も叶えられない人もいる人の夢。


 しかし、同じ言葉でも意味の違う"夢"もある。叶っても願っても祈っても、実現不可能な夢。

 例えば、冴えないモテない勉強も運動もそこそこなのに学校中の美女から告白を受けるようなハーレム学園モノの主人公、だとか。

 例えば、異世界に転生して最強武器を女神様からもらって魔王を倒すサクセスストーリーのメインヒロイン、だとか。


 妄想、空想、黒歴史として嘲笑される夢、それもまた人の夢である。


 では、今まさに目の前に起きている状況。これはどう捉えればいいだろうか……。


「はい、お兄さん。あ~~~ん」


 降り積もった雪のように白い肌、浮かび流れる雲のように白い髪、高く遠く紺碧の空のように青い眼を持つ少女――ハヅキは、その小さな手のひらでフォークを持ち、お弁当箱の中から卵焼きを一切れ取って自分に食べさせてくれようとしている。


「あ~~~ん」


 ハヅキが取ってくれた卵焼きを迎え入れるように自分の口へとしまい込む。瞬間、ハヅキの頬が採りたてのラズベリーのように赤く染まる。


「美味しいですか?」


 自信なさげにハヅキは味の感想を求める。だから食い気味に、その自信を肯定してあげようと。


「美味しいよ」と返した。


 ここは広い草原があたり一面に広がる丘の上。

 ピクニックをするにはおあつらえ向きのこの場所で、少女というより幼女と呼んだ方が近いようなハヅキと一緒に、吹き流れる風と揺れる木々の音を聞きながらお昼ご飯を食べる。


「少しお砂糖入れすぎちゃったかとおもったんですが……大丈夫でした?」


「全然美味しいよ。俺、甘いの好きだし」


「よかったぁ!」


 満面の、それこそ太陽と形容するのが一番わかりやすいような笑顔で笑われると、こっちまで釣られて笑顔になる。二人で笑顔を共有すると、遠くから声が聞こえてきた。


「ハヅキちゃんだけ抜けがけずるいよ!」


「わたくしたちに内緒で、二人きりでピクニックなんてさせませんわよ!」


「着いてきちゃった~」


「私たちも参加させてもらいます」


 時間をおいて、四人の少女達――もとい、幼女達が集結する。


「リンちゃん、イオちゃん、リサちゃん、アキナちゃん……」


 目の前に現れた黒髪ロングの少女、赤髪ショートの眼鏡をかけた少女、青髪ポニーテールの少女、そして金髪三つ編みおさげの少女の名前をハヅキが呟く。


「ハヅキちゃんずるい! リンもあ~んしてあげるの!」


「リンちゃんもずるいよ。私だってしてあげたいんだから」


「順番順番」


 幼女五人、流石のわちゃわちゃである。


「では、わたくしはお兄様に抱っこしてもらいますわ」


 イオは、あぐらをかいている俺の足の上に座る。

 ビーズクッション、人をダメにするソファ並の柔らかさ、そしてホッカイロよりも暖かい温もりを肌に、肌に感じる。重要なことなので二回言いました。顔の下にある頭を優しく撫でる。


 「えへへ」


 イオのニヤケ顔が見ないでもわかる。


「はい、お兄ちゃん。あ~~~ん」


「あ~~~ん」


 ポニテを揺らしながらリサがリンゴを一切れ、俺の口へと運ぶ。


「綺麗に切れたでしょ」


「うん」


 うさぎの形に切ったリンゴがタッパーいっぱいに入っていた。


「おいしい?」


「おいしい」


 人の夢とは実はもう一つある。

 寝ている時に見る夢だ。胡蝶の夢とは昔からよく言ったもので、要は夢の中で蝶になっている自分こそ本当の自分で、その蝶が見ている夢こそ今の自分なのだと。


 今幼女に囲まれている状態。これは夢で、起きてしまえばまた社畜の自分に戻ってしまう。そんな夢の一シーンなんじゃないかとも思う。


 しかし、ハヅキが食べさせてくれた卵焼き、リサが食べさせてくれたリンゴ、そしてイオの暖かさ。そのどれもが夢とは思えないほどにリアルに感じれて……。

 夢か現実かも定かではない。なら現実と思って楽しもう。


「お兄様は海ってご覧になったことあります?」


「あるよ」


 別に壁に囲まれた世界で平和を享受している人類じゃあるまいし、とも思ったが、どうやら本当にこの子達は村の外へ出たことがないらしい。


「どんなの?」


「強いて言えば、でっかい水溜りかな」


 ほえー、と感嘆の声が漏れるのが聞こえる。


「他には?」


「街みたいなのはあるの?」


「あるよ」


「ショッピングとかしてみたい!」


「オシャレなお店とかいいですわね」


「美味しいパンケーキとかあるかも!」


「行ったことあるんですか?」


「俺はそういうキラキラしたところは、詳しくないんだ。ごめんね」。


 友達も少ない、クラスでも端っこ組、仕事で休みがあっても彼女もいないし、そういう場所には縁がなかった。

 顔で察したのか、ハヅキがフォローしてくれる。


「一緒に行こうよ。お兄さんも行ったことない場所」


「うん」


 優しさが沁みる。幼女にフォローされる二五歳とはなんぞや。


「ねぇ、高い高いしてー」


「いいよ」


 ハヅキが空気を変えるように、おねだりをしてきた。膝に乗っかっているイオを一旦どかして立ち上がり、ハヅキを持ち上げる。


「いくよ、よいしょ」


 脇を掴んで、自分の顔の上にまで持ち上げる。


「わぁ~、たかーい」


 嬉しがるハヅキ。喜んでいる姿を見るとこっちも嬉しくなる。


「アタシもお兄さんくらい背が高くなりたいな」


「私も大人になりたい」


「あと何年かしたら大人になるよ」


「だったら、お兄さんが私を大人の女にしてよ」


「えぇ!?」


 それはちょっと誤解を与えかねない表現だぞ……。


「外の世界に連れてってよ!」


 外の世界――俺がこの中から一人、選んだ子だけが村の外の世界へ出れる。


「でも選ばれるのは一人だけなんだよね……」


 外の世界への憧れ、それは彼女たちにとってたった一つの夢で。


「アタシを選んで」


「リンを選んで」


「私を選んで」


「ウチを選んで」


「わたくしを選んで」


「一人だけなんて選べないよーーーーー!!!!!」


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