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Period,7-2 勉強会と絢瀬邸

「は、初めまして。絢瀬さんの友達の柏木友香です」

「ど……どうも、同じく友達の山下凪沙です」


 絢瀬のいた円型のテーブル席に腰を掛けると、向かいの席の女子生徒が自己紹介をする。その口調や髪を耳にかけ直して、視線を泳がす仕草からは緊張が窺えた。だが、なぜ緊張しているのかは言うまでもない。


 原因は言わずもがな、宮野(コイツ)にある。宮野は昔から成績優秀で容姿端麗の超ハイスペック人間ときた。美少女が絢瀬を指す代名詞だとすれば、美男子は宮野を指す言葉だ。


 つまり、その二人が同じテーブルにいるこの状況は嫌でも目立つ。周りからの目線が其処彼処から集まっているのを肌で感じる。


「なるほどな、快く承諾してくれるってのはこういうことか」


 目線の先では遼太郎を取り囲むようにして、先ほどの二人が会話を繰り広げていた。絢瀬がさっき言っていたことも合点がいくというわけだ。


「うん、二人は宮野くんのファンだって言ってたからね。私もその気持ちを応援しようと思って」

「そんな陰謀があったとは」


 唯斗の隣に腰を掛けていた絢瀬が小さく答える。


「そういえば、絢瀬は宮野のことどう思ってるんだ?」


 ちょうどいいタイミングだ。唯斗は少し前から気になっていた質問をぶつけてみることにした。絢瀬は以前『完璧でなければいけない』と言っていたが、宮野がいるためそれを叶えることは難しい。


 絢瀬が宮野をどう思っているのかは、唯斗も気になるところではある。


「すごい人だと思う。男子からは慕われているし、運動も入試成績も全てが一番なんだもん。ほんと、妬けちゃうな」

「ライバルみたいなものなんだな」

「……まぁ、向こうがどう思ってるかはわからないけどね」


 そう言うと朗らかな笑みを浮かべる、絢瀬。高嶺の花モードでありながら、その言葉には少しだけ絢瀬の本心が混じってるような気がした。


「ねぇ、一ノ瀬くん。今週末にあの子たちと勉強会をすることになってるんだけど、君も来ない?」

「……何かの罠か?」

「罠って、疑いすぎだよ、一ノ瀬くん。中間テストが近いから、みんなで勉強したいなって思ったんだ」


 絢瀬は唯斗の勘ぐりをあっさり跳ね除けると、口元を綻ばせる。だがそんな笑顔とは裏腹に唯斗はテーブル下で足を踏まれていた。まさかこんな大勢の前で手は出さないと想定していたが、どうやら足が出てきたようだ。


「ただ、せっかく友達になったのにあんまり話せてないから、悲しいなって思ったんだけどなぁ」


 目線を軽く落としてスカートの裾を軽くいじる、絢瀬。たとえ演技であることがわかっていても、顔が熱くなるのを感じた。


「……分かった。ならこっちも宮野を連れて行っていいか?」

「もちろんいいよ」


 唯斗はその問いかけをしてから、絢瀬の真の狙いが宮野を勉強会に連れ出すことだと気づいたわけだが。


 しかし、絢瀬と宮野か。二人がこれからも交流を続ければ、そのうち交際なんてこともあるかもしれない。その場合、この誘いは今後の重要な伏線になるわけだが、


「もしかして、絢瀬は宮野のことが好きなのかっ、ぐっ……」

「ん、どうしたの?」

「……なんでもありません」


 冗談のつもりだったが、先ほどよりも強く足を踏まれる。以降、滅多なことを言うものではないと心に決めた。そして、話題も尽き始めて食事が終わりに近づく頃、ちょうどいいタイミングを見計らって絢瀬が切り出す。



「そういえば、二人とも。今週末の勉強会のことなんだけど……」


 そこからは飛ぶようにことが進んだ。絢瀬が筆頭となってスケジュールと集合時間などが話し合われて、肝心だった宮野の承諾もあっさりと得られた。どうやら絢瀬の家は駅から数分のとこにあるらしい。そのため、待ち合わせは最寄りの改札口に決定した。


「それじゃあ、日曜日ね」


 絢瀬たち三人と廊下で別れた後、唯斗と宮野は廊下から中庭の様子を眺める。


「宮野と話してた二人、いい子っぽいな」

「まぁね」


 宮野は女子に人気だが、あまり話すところは見かけない。それは、基本的に男子ばかりと連んでいるからだ。しかし、高校生にもなればそれも変わる。今日の様子を見ていてもわかるが、やはり宮野はモテる。


「宮野は誰かと付き合ったりしないのか?」

「唯斗……」


 考えすぎたせいかほんの少しだけ真剣なトーンになってしまった。それを察してだろう。外に向いていた視線を俺に向ける宮野。そして答える。


「それはないよ、絶対。だって俺は二次元オタクだからね」


 食い気味な宮野の様子を見て唯斗は相変わらずだなと笑う。


 ああほんと、報われないな。コイツのことが好きなやつは。


        *


 それから色々ありつつも絢瀬宅訪問の日曜日を迎えた。ちなみに今日のことは戸野塚たちには報告していない。もし知られたら何をされるかわからないからな。最悪の場合、友情の崩壊もあり得るだろう。


 唯斗と遼太郎は最寄りで待ち合わせをして、集合場所に向かった。電車を乗り継ぎつつ三十分もすれば集合場所の駅についた。改札口はなんとも広々としていて、その中心にはかなり前衛的な鉄細工のオブジェが置かれていた。


 待ち合わせの五分前には着いたはずだが、すでに全員が揃っている。


「あっ、宮野くんと一ノ瀬くん。こっちこっち」


 山下が無邪気な子供のように手を振って、二人の到着を歓迎する。


「待たせてしまったかい?」

「いえ、私たちも今着いたところです」


 まるで映画で出てきそうなやり取りを繰り広げる宮野と柏木。そんな様子を遠目で眺めていると誰かに肩をぽんと叩かれた。振り返った先にいるのはもう一人の待ち合わせ相手、絢瀬だ。


 涼しげな印象を与えるフリルの白シャツにお洒落な淡い青色のジーンズを身につけており、全体的に見ても美しいシルエット。長い髪も結われており、まるでファッション誌のモデルのような立ち姿だった。


「結局、帷子さんは来ないってことでいいのかな?」

「ああ。家族旅行で来れないって連絡があった」

「そうなんだ。なら今日はこの五人ということで大丈夫?」

「そうなるな」


 実はこの日の少し前から、唯斗は帷子のことを誘っていた。理由は様々だが、後々になって帷子が今日のことを知ったらどう思うかを検討した結果だ。帷子は友達なので余計な隠し事はなしにしたい。


 唯斗たちは全員揃ったことを確認すると、すぐに移動を始めた。絢瀬の後を続いて住宅街を抜けていくと、一際大きな様式の建造物を視界に捉える。他の住宅の比にはならないはずだ。少なくとも3倍から4倍の重圧感がある。まるで西洋の館を思わせるほどに。


「夏希ちゃんの家ってもしかして……これなの?」


 どうやら柏木も山下も絢瀬の家に来るのは初めてのようだ。柏木の若干震えた声に絢瀬はこくりとうなずく。入り口の門には、『絢瀬』の文字があり間違いないようだ。


 自分の許容量を超えたものを目撃した時の人間の反応は極めて単純だ。


 ————絶句。


 そのあまりの衝撃に綾瀬を除くこの場の全員がしばらく言葉を失っていた。

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