period,7-0 杠葉 香琳:独白
私——杠葉香琳は中学生の頃、いじめられっ子だった。
最初は無視されたり、嫌な言葉を吐かれたりするだけだったけど、いつの間にかそれは私に対する物理的なものへと変化した。
蹴られたり、水をかけられたり、髪を切られたりもした。
だけどそんなことを誰かに相談できず、私は一人で抱え込んでいた。
きっかけは些細なこと……だったと思う。あまり覚えていない。
気づいたら私はいじめの標的になっていた。
そんな私を救ってくれたのが、絢瀬さんだ。
絢瀬さんがいじめっ子たちに声をかけると、それはピタリと止んだ。
実のところ、彼女の影響力は上級生や先生にまで広がっていたため、彼女に逆らうことなど、そのいじめっ子たちにはできなかった。
それが中学三年の四月。
初めて絢瀬さんと同じクラスになった時だった。
いじめが終わると案外あっさりとしたもので、平穏な日々が流れた。
あんなに恐ろしかった、いじめっ子も絢瀬さんの前ではただの一般生徒。
なんで一人で抱え込んでいたのか、不思議なほどに。
だから、私にとって絢瀬さんは神様が用意してくれた救いの手。
絢瀬さんと出会ったその瞬間、私は救われて……。
……うん、救われたんだ。
頭ではわかっていても、あの時のことは思い出したくないのだろう。
中学時代のことを考えると、今でも体が少し震える。
だけど今の私は多分大丈夫。
家族のことだってしっかりと面倒見てるし、勉強だって問題ない。
いいお姉ちゃんだ。
君ヶ咲学園にだって特待生枠で入学したよ。
ちゃんとやり直せている。
だから、そんな顔をしないでよ。ね、————。
「そんな——顔を……」
ピピピピ、とやけに甲高い音が規則的に鼓膜を震わせる。目覚まし時計だ。
どうやら夢を見ていたようだ。
「まったく、寝言まで言って……ほら、起きなさい」
「うぅ、朝……?」
「早くしないと学校遅刻するわよ」
寝起きだというのに、容赦無く覚醒を促すのは私のママだ。
目覚まし時計を手探りで止めると、布団の中から顔を覗かせる。いつもこの時間になると部屋まで来て、起こしてくれる。もう少し寝たいという思いはあるが、そろそろ起きないと朝の支度が終わらない。
杠葉は眠い目を擦りつつ、体を起こしてにこりと微笑む。
「おはよ、ママ」
こうして、今日も杠葉香琳の忙しい一日が幕を開けた。




