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Period,4-3 人探しとモノ探し、それと戦闘開始?

「今からちょっと付き合ってくれない?」


 状況が理解できずに杠葉のことをじっと見つめる。


「どうしたの?」


 そういった意味はまったく含んでいないことはわかるが、セリフもセリフだけに、カフェテリアで昼食をとっている周りの生徒から妙な視線を集めてしまったことは、言わずとも察することは容易いはずだ。


    *


「それで、俺になんの用があるんだ?」


 人目を避けるようにカフェテリアから移動すると、階段下のちょっとしたスペースまで移動する。ここなら、誰かに見られる心配もほとんどない。


「これ、あんたでしょ?」


 杠葉はスマホを取り出すと、その画面を唯斗に向ける。ここ数日間で何度も繰り返しているが————絢瀬の会のホームページ。絢瀬と唯斗が仲良く校舎内を歩いている写真だ。もはやデジャブ。


「いや、違うけど」

「なんで、2秒でバレる嘘を吐くのよ」


 幾度目かわからない問いに対して、あえて別の選択肢を取るも無謀だったようで、杠葉は呆れた表情を浮かべると、腰に手を当てる。昨日も思ったことだが、やはり顔もスタイルも抜群にいい。


「それで、まさかそれを訊くためだけに探してたわけじゃないよな?」

「はぁ、そんなわけないでしょ」


 これで口もよければ、さぞモテることだろう。


「これから、絢瀬さんの悪評を流した犯人を探す。だから、被害者である一ノ瀬唯斗も付き合って欲しいわけ。あんただって、犯人が捕まれば噂から解放されるわけだし、協力しても損はないでしょ?」


 揚々とメリットを語る杠葉を見つめながら、唯斗は宮野との会話を思い出していた。


 確かに犯人を調べるだけでは、問題を消し去ることはできない。けれど、解決はできなくとも、沈静化くらいならできるのかもしれない。


「……なるほど、犯人探しか」


 茉莉会長が独自で調査をやっていると宮野は言っていたが、こっちでも動いてみる価値はありそうだ。


「まぁ、理由はそれだけじゃないけどね」

「というと?」

「もし犯人が男で戦闘になったら、すぐに組み敷かれておしまい、そこでゲームオーバー。でも、男であるあんたがいれば相手は、まずはそっちを狙うでしょ。そしたら私はその隙に逃げら……助けを呼びにいけるわけ」

「今なんか物騒な言葉が聞こえた気がするんだけど」

「気のせいでしょ」


 なるほど、そういうことにしておこう。そもそも、戦闘になる状況が全く想像できないんだけどな。バトル漫画じゃあるまいし。


「そういえば、杠葉はあの噂を信じてないんだな」

「噂って、援助交際とか入試で不正したってやつのこと? そんなの信じてるわけないじゃない。そもそも、絢瀬さんがそんなことするわけないし」


 絢瀬が杠葉とは同じ中学だと言っていた。杠葉がどうして絢瀬のためにここまで行動的になるのかは、分からないがそれでも杠葉の絢瀬を助けたいという気持ちは本物だろう。それに、信頼もしているようだ


「分かった、俺もそれを手伝う。それとこれは、信用のある情報筋から聞いたんだが、犯人候補として二年生の生徒が怪しいらしい」

「信用のある筋?」

「まぁ、騙されたと思って信用してくれ」

「余計胡散臭くなったわね。まぁ、他にアテもないからいいけど」


 絢瀬の名前を出せば信じると思うが、流石に絢瀬本人から直接聞いたとは言えない。唯斗はとりあえず誤魔化すと、階段を上り二年生の教室を目指す。


「なぁ、杠葉。さっき気づいたんだけど、スマホにキーホルダーついてなかったか? 茶色いクマの可愛い感じのやつ」


 校舎の階段を上りながら、杠葉に尋ねた。


「そうだけど、どうしたの?」

「いや、今日はつけてないんだな、って思って」

「えっ、そんなわけないでしょ」


 唯斗の言葉に慌てた様子でスマホを取り出す、杠葉。


「…………嘘、どうしよう。朝まではあったのに」

「もしかして、無くしたのか?」


 杠葉の表情が焦りから戸惑いに変わる。思えば、退屈と呆れ以外の杠葉の表情を始めて見た気がする。口元を押さえながら、視線を泳がせていた。


「えっと、とりあえず落ち着け。そこまで小さくなかったし、ちゃんと探せばあるはずだ。なんなら今から探しにいくか?」

「でも、そしたら絢瀬さんの方は……」


 床を見つめる杠葉の声が段々と、か細くなる。


「ああ、そっちも付き合ってやるよ。ただまずは、キーホルダー探しからだ。絢瀬の件に関しては、もう少し考えてから行動しよう」

「……うん、そうね」


 探す対象が絢瀬の件の犯人ではなく、キーホルダーに切り替わっただけだ。それに、そっちの方が危険もないのでやりやすい。


「落ちてる場所に心当たりはないか? 昨日まではあったわけだし、朝まではあったっていうなら、今日の昼頃までに行ったところが候補として挙がると思うけど」

「えっと……」


 唯斗の問いかけに数秒間ほど頭を悩ます。そして、


「校舎裏、かな」


 声を籠らせながら、杠葉は頬を掻いた。


     *


 唯斗と杠葉の二人は一先ず、校舎裏に移動すると落としたというキーホルダーを探す。サイズは五センチくらいでテディベアがモチーフのなんとも可愛らしいものだ。


「杠葉はなんでこんなところに来たんだ?」


 地面一帯をぎっしりと覆う雑草をかき分けながら、杠葉に尋ねる。


「別に、あんたがここにいるかと思っただけ。クラスメイトの戸野塚とも話したこともなさそうだったし、校舎裏で一人飯でもしてるのかなって」

「かなり突飛な発想だな。それに友達なら、ちゃんといるから」

「そうみたいね」


 杠葉はどこか附に落ちない表情で唯斗を見つめる。おそらくは宮野と俺が友達同士ということに疑問を持っているのだろう。大抵の生徒はその事実を知ると、これに近しい反応をする。


「にしても、犯人探しなんて。杠葉は絢瀬のことを気にかけてるんだな」

「別に。絢瀬さんは、ただのクラスメイト」


 口ではそう言っているが、杠葉のような立ち位置の女子がただのクラスメイトのためにここまで協力的になるとも思えない。絢瀬は杠葉と同じ中学だったと言っていたが、あまり言及しない方がよさそうだ。


「ただ、今回の件は相手側のやり方が気に入らないだけ。嘘で塗り固められた噂を流すなんて卑怯だし不快。あんたこそ、迷惑だと思わないわけ?」

「そりゃまぁ、かなり迷惑だ。ただ、親友の宮野やクラスメイトの数人は俺が犯人じゃないことを知ってるわけだしな。逆にこういうのは気にしすぎた方が負けだと思ってる」

「そう……なんかいいかも、その考え方」


 杠葉の声はどこか穏やかで、あまり聞き慣れない感じだ。


「おい、杠葉。これじゃないか?」


 探し始めて、五分が経過した頃。唯斗は繁茂した草の中から見つけたクマのキーホルダーを手に取ると、それを杠葉に手渡す。


「留め金の部分が劣化していたらしいな」


 杠葉はそれを受け取ると、小さく「よかった」と一言。その表情はとても柔らかく安堵しているようだった。


「大切なものなんだな、そのキーホルダー」

「うん。……これは、妹がお小遣いを貯めて誕生日に買ってくれたやつだから、もしなくしたらきっと悲しませることになったと思う。だから、見つけてくれてありがと、一ノ瀬唯斗」

「……お、おう」


 別に感謝してないから、というツンデレの王道とも呼べる反応がくると予想していたため、こう素直に感謝されると困る。探し物を見つけた二人は、昼休みが終わるまで犯人探しの手段を模索するために、一旦食堂に移動することになった。


「杠葉、ちょっと止まれ」

「どうしたの、急に?」


 道すがら誰も近寄らない体育倉庫の裏あたりから声がしたような気がして、唯斗は少し立ち止まる。


「誰かいるな」

「え、そんわけ。だってその先って何にもないはずだけど」


 人気のない場所で隠れていちゃつくカップルだろうか。


 さらにその方向へ忍び寄ると、先ほどまでの不鮮明な声がはっきりと聞こえるようになった。


「絢瀬のやつ、困ってやがったな」


 唐突に発せられた『絢瀬』というワードに体をびくりと振るわせる杠葉。唯斗も背筋に嫌な汗が分泌されるのを感じた。


「いい気味、美桜の彼氏を奪ったんだからこれくらいされて当然の報いだって。それにあいつ一年のくせに調子に乗りすぎ。ね、美桜?」

「……足りない」

「え、美桜?」

「なにか決定的な証拠でもないから、生徒の大半は噂のことを本当に信じてるわけじゃない。もっと、追い詰めないと。…………絶望させてやる、私みたいに」


 二年生の中で美桜と呼ばれている一人がペットボトルを握りしめて呟いた。どうやら女子生徒は三人で、全員が二年生のようだ。


 ちなみに、君ヶ咲の生徒は男女ともリボンと上履きの色で学年が分けられていて、それを見れば学年の判別ができる。


「あいつらだ」


 唯斗は今にも飛び出しそうな杠葉を手首を掴んで抑止する。杠葉は「離して」と言っているが、ここで姿を現すのは危険な気がした。


「そ、そうだよね。あいつのせいで、美桜の心だって傷付いたんだし」

「いっそのこと絢瀬を呼び出して校舎裏でボコっちゃう?」

「あはは、それいいかも。水バケツぶっかけて、全裸の写真でも撮っとけば、チクられることもないだろうし」


 その言葉を聞いて堪忍袋が切れたのか、杠葉は唯斗の手を解くと二年生の前に立ちはだかった。


「あっ、おい。杠葉っ……」


「え、誰こいつ?」

「一年生が、こんなところで何してるの?」


 女子生徒達もまさか人が来るとは思わなかったのだろう。その声色からは、動揺も窺える。ただ相手が一人とわかると、二年生の表情にも余裕が生まれた。そんな油断からだろう、杠葉が近づいてきても特に焦る様子もなかった。そして、

 バチン、と。次の瞬間には、杠葉が美桜と呼ばれる生徒に放った平手打ちの乾いた音が校舎の壁面に反響する。


「ふざけないでっ!!」


 唯斗はそんな目の前で展開する光景を眺めながら『なるほど、これが杠葉の話していた戦闘になる瞬間なのか』と感じていた。

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