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第86話 誕生日だったよね

 季節の移り変わりというのは、本当に早いものだと痛感する。

夏が終わり、秋も過ぎ去り、すっかり冬の寒さが身に堪えるような時期になってしまった。

こうも寒いと布団から出るのも躊躇われる。


「そう言えば紗良、今月誕生日だったよな?」


 登校する姿も手袋にマフラーと、冬の装いにすっかり変わっている紗良に尋ねた。


「はい、そうです! 覚えていてくれたんですか!?」

「ああ、もちろんだ」


 紗良は、嬉しそうなキラキラとした目を向てくれた。

紗良の吐く息は白く、寒さを視覚的にも感じることが出来る1月。

そう、紗良の誕生日は今月だったのである。


「何か、お祝いしなくちゃな」

「あ、ありがとうございます」


 紗良は、白い肌を薄っすらと赤く染めていた。

誕生日を覚えていたことがよほど嬉しかったのだろうか。


「紗良は、何かやりたいこととか、欲しいものとかあるか?」

「私は、兄さんが居てくれたら、それだけで十分嬉しいですよ」


 紗良は柔和な微笑みを浮かべて言った。

外気は寒いはずなのだが、俺の周りだけ、何故か少し暖かく感じた。


「今月末だから早めに決めて準備しとかなきゃな」

「そんなに、張り切らなくもいいんですよ」


 紗良は優しい声で言ってくれた。

俺は思わず、その頭をそっと撫でた。



 ♢



 相変わらずのつまらない授業を終えると、俺は部活へと向かう。

紗良は、先に帰っているようだ。


「莉緒、ちょっと相談があるんだけど」


 書道室の机で何やら作業をしている莉緒に声を掛けた。


「なに? アンタが相談なんて珍しいじゃない。まあ、座りなさいよ」


 莉緒は顔を上げると、隣の空いている席を勧めてきた。


「じゃあ、失礼して」


 俺は莉緒の隣の席に腰を下ろした。


「で、相談って?」

「ああ、今月、紗良の誕生日でさ。女の子が喜びそうなプレゼントとかよく分らなくて……」


 俺は、恥ずかしながらも莉緒に相談を持ち掛けた。


「え、紗良ちゃん今月誕生日なの!?」

「うん、そうだけど」


 莉緒は紗良の誕生日を知らなかったようである。


「で、一応、女子である莉緒に相談した次第で」

「一応って何よ! でもまあアンタ女心とかわからなそうだしね」


 やかましいわと思いつつ、それも事実なので、何も言い返すことは出来なかった。


「うーん、そうね。女の子が喜びそうなものか……」


 莉緒は顎に手を当てて考え始めた。


「紗良ちゃんって、休みの日とか香水つける?」

「いや、つけて無かった気がするな」


 今まで、何度も紗良と出かけてきたが、香水をつけるという素振りは見当たらなかった。


「じゃあ、アクセサリーは? ネックレスとか指輪とか」

「あ、それならつけるかもしれない」


 紗良は、出掛ける時、首元が寂しくなるからとネックレスをつけることが多かった。


「じゃあ、そう言うのがいいんじゃない?」

「ありがとう。助かった」

「はいよ。お役に立てたなら良かったわ」


 俺は莉緒の助言の通り、アクセサリーの類を買うことにした。

そうと決まれば善は急げだ。

ネットを使い、調べ始めた。


「しっかし、妹のためにそこまでやるかねえ?」


 莉緒は小さな声で呆れたように呟いた。



 ♢



「これとかいいかもな」


 家に帰っても俺は、デスクトップのパソコンでプレゼントを探していた。

そしてようやくこれだ!というの見つけた。

それは、ガーネットが埋め込まれたネックレスだった。

紗良の誕生石である。

そして、ガーネットの石言葉は『友愛』だった。

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